第30話 増幅した憎悪 ※姉ミシェル視点

「どうしてこんなことに……」


 うす汚いキース鉱山とかいう場所に連れてこられて、急に荷物を運ぶ仕事を言いつけられた。

 鉱山で使われている道具は汚いし、重いし、一時間もしないうちにヘトヘトになる。

 こんなことを平民と一緒にやるなんて耐えられないわ!


 お父様とお母様は鉱山の中に連れて行かれてしまったし、話す相手もいない。

 

「私は子爵家の令嬢なのよ?! なんでこんなことに……」


 文句を言っても、慰めてくれる人が周りにいない。

 全部カレンのせいだわ! どうして私達を見捨てるのよ? 私達は家族だったのに……。




 最悪の始まりは、王家主催のパーティーだった。

 悪魔の侯爵のお相手がカレンだって噂だったから、真相を確かめに行ったの。 

 そうしたら本当にカレンがいたの! 意味が分からないわ!


「どうなってるの?! なんでカレンがクラウス・モルザンのところにいるのよ!」


 単なる噂だと思っていたのに、本当に侯爵の相手がカレンだったの。

 なんなのよ! 家出して侯爵の家にいたってこと? どうやって取り入ったのよ?!


「親の了承も婚約もなしに結婚だと?! ふざけやがって……! 絶対に認めないからな!」

「金持ちを捕まえておいて我が家に一銭も使わせない気?! そんな結婚許せないわ」


 お父様もお母様もカンカンに怒っていた。当り前よね。カレンが結婚なんて、許される訳ないわ。

 

(カレンはこの家で、使用人でもしていたらいいのよ。どこかに行こうなんて……認めないわ!)


 私達家族に迷惑をかけるなんて、悪い子ね。お父様にぶたれたくせに、侯爵に守られて……ズルいわ!

 あんな結婚、すぐにお父様が無効にしちゃうんだから!


 それなのに……パーティーの翌日になったら、お父様もお母様もおかしくなってたの。


「お父様、カレンの結婚を取り消してください! お父様なら出来るでしょう? カレンが侯爵と結婚だなんて耐えられません!」


 私がそう訴えると、お母様が私の肩に手を置いた。


「取り消す必要はないわ。ミシェル、侯爵家のお金が自由に使えるチャンスなのよ?」


 お母様が何を言っているのか分からなかった。あんなに結婚を許さないと言っていたのに……。


「何を言ってるのですか、お母様……相手はあのクラウス・モルザンなのですよ?!」

「いいじゃない! 性格や品位はなくても侯爵様なのよ? 侯爵家と繋がりが出来れば我が家の品格も上がるわ!」


 そう言って浮かれているお母様は、いつもと何か違う気がした。

 目が虚ろで熱に浮かされているみたい。


「お、お父様はどうなのですか? 憎き相手なのでしょう?」

「……確かに侯爵は憎いが、だからこそ利用できるな。カレンを厄介払いできる上に、金を得るチャンスだ」

「そんな……」


 お父様もお母様も一晩でどうしちゃったの?

 まるで悪魔に操られているみたい。こんなのいつものお父様とお母様じゃない!


(昨日までカレンの結婚に反対してたじゃない……! 私は認めないわ!)


 お父様とお母様の役に立てるのは私だけなんだから……。カレンなんか役立たずなんだから!




 カレンに対して何も出来ないまま一週間くらい経った頃、お父様が怒りながら帰ってきた。


「招待状も寄越さないでどういうつもりだ!」


 カレン達の披露宴開催まであと少し。他の貴族のもとには既に招待状が届いていたみたい。


「カレンは私達を招待する気がないのですよ! 早く結婚をやめさせたほうが……」


 せっかく私がアドバイスしてあげたのに、お父様は取り合ってくれなかった。


「まずはカレンに連絡を取らないと! あいつは貴族の礼儀を知らないんだ。俺がきっちり教えてやれば大丈夫さ」


 そう言って手紙を書いていたわ。どうしてお父様はカレンなんかに構うのよ。

 さっさと結婚を無効にすればいいだけなのに。

 結婚を認めたって、カレンは我が家にお金を落とすはずがないじゃない!


 せっかくお父様が手紙を出したのに、披露宴前日になっても返事は一通も来なかった。


「披露宴に乗り込んでカレン・リドリーは我が娘だと訴えよう! そうすれば侯爵も誤魔化せない! 我が家との繋がりを切らせるものか!」

「そうしましょう! あの子は私達の大切な娘ですもの。なんの連絡もないなんて、あの子が可哀想だわ」


 お父様とお母様はカレンの披露宴に行く気満々だ。馬鹿みたい!


(なによっ……! ムカつく! どうしてお父様もお母様もカレンのことばかり……この家から出て行ったやつより私を見てよ!)


 だから披露宴で文句の一つでも言ってやろうと思ってた。

 私は本当にそれだけだったのに……。



 

 私達に下されたのは重い罰だった。


「爵位のはく奪? キース鉱山?」


 披露宴の会場から連れ出されて、狭くて汚い馬車に詰め込まれて、気がついたらここにいた。

 偉そうな平民に指示されて、もうウンザリ!


(許せない……カレン! 自分だけ幸せになろうなんて、絶対に許さないんだから!)


 こんな最低な生活を三日もすると、服も髪もボロボロになった。

 お父様やお母様には寝る時くらいしか会えないし、平民には馬鹿にされたような目で見られる。

 死んだ方がマシなくらい辛かった。


(いつまでこんなことしなきゃならないの? どうしてこんなことが許されるの?)


 でもその日の夜、お父様が荷物をまとめてこう言ったの。


「おいお前達、ここから逃げるぞ!」

「逃げるって?」

「こんな所、やってられるか! 侯爵家に乗り込んで抗議してやる! 行くぞっ」


 そうよ! 大人しくこんな所にいる必要なんてないわ。だって私は何も悪い事をしてないんだもの……。


「悪いのはカレンよ! 私達は無実なんだから……! 行きましょう、お父様、お母様!」


待ってなさいカレン! 私があなたに分からせてあげる。

 あなたは私より不幸でいることが決まってるの! それが運命なのよ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る