雷雲 (Hi-sensibility)

春嵐

第1話

 遠くで、雷が聞こえる。

 彼は、大丈夫だろうか。考えるだけで、今この状況を抜け出せるわけでもない。授業中。


 意味のない塾だった。どんなに金を積んでも、わたしの頭は出来があまり良くない。おそらく、箸にも棒にもかからないだろう。

 それに比べて、彼は。頭がいい。器量も良い。

 彼とわたし。どっちの人生が、幸せだろうか。ばかなままひたすら目の前で金を積まれて英才教育の紛い物を流し込まれる生活と。才能と英気に溢れ自らの世界を切り開いていく雷のこわい生活と。


 わたしのこの金を流し込まれる生活は、数年ちょっと耐えるか育て主が諦めれば終わる。彼の雷に対する恐怖は、たぶん死んでも消えない。


 塾。つまんないな。彼と一緒にいたいな。遊ぶんじゃなくてもいいから、彼の隣にいたい。彼が、わたしになんとなく気を遣ってくれるのを感じて、やさしい気持ちになりたい。一方的で相互非互恵的な、わたしにだけ得のある好意。こういう考え方をするからわたしはばかなんだ。


 でも。


 ばかのほうが、たぶん。彼の人生よりは、恵まれていると思う。やっぱり。

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