ぼくのこと
再生時代……耕世紀から始まった復興の時代。その時代で夜禅という仕事を任せられたぼくは、戦った。けものと戦い、己と闘い、現世界で
とここで、牡丹派に来る前のぼくの話を少ししよう。
かつて夜禅でぼくひとりだけ生き残った戦いがあった。ぼくが強いからというわけでも他のヒトたちが弱いからというわけでもなく、けものはぼくを殺そうとしてはくれなかった。
けものにどんな考えがあったのか、どんなこころがあったのか、ぼくには分からないことばかりだけど、けものに「泥水を啜れ」と言われているような気がした。
そんなことがあって、ぼくの源氏名は西國で少し有名になった。
『けもの相手にひとりで渡り合った男子』『ひとり生きた英雄』、そんな感じで持ち上げられる日が続いて、いつからか聞こえてくる言葉に、『レンカは呪われている』『レンカがいる夜禅は実力者ですら簡単に死ぬ』『レンカはけものと盟友だ』と、賛美の音色は恐れの音色となっていった。
けものに友達を殺され、夜禅の仲間を殺され、ぼくだけ生き残って、失ってから気付いたのは――己の無力さだった。強い弱いの話ではないのだろうけど、強い力があれば、ぼくひとりでたくさんのヒトを救えるのにと思うことはある。そう思うからこそ、ぼくは親父殿や御袋殿のようになれなかったんだ。
ふたりの背中を追いかけても、その距離は縮まるどころか離されてゆくばかり。見えない物を見ようとして、原罪の深淵を覗いてしまった。
過去は過去だ。そんな過去であっても、ぼくの裡でずっと咲き続けているのは間違いない。
失敗ばかりの過去を戒めるって、ぼくは変わり者なのだろうか。現代人たるもの未来を見なくては一族の恥曝しと罵られるはずだ……それでもぼくは過去を未来にしたいと思っている、あの黙示録を超えた未来を描きたいと、儚い夢を追いかけている。
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