総隊長の言葉
日の出の余韻に浸ろうと思っていても、いつもこころに蟠りが残る。
そこで総隊長殿はぼくの背中をポンと叩いて、
「今日の完全勝利はいのちが優先されてきたからこその結果です。夜禅の開祖、
牡丹派の総隊長殿は立派だ。人柄や人望、夜禅での心構え、どんな場でも手本となる人物だ。先ほどぼくの隊員を罵ったA君ですら敬意の眼差しを向けている。
十番隊の隊長に選ばれても、ぼくはまだ学ぶことが多いようだ。
とまあ、解散の号令がかかったので帰らせていただこう。
帰ったらまずお風呂にしよう、そのあとは特に外出することもないし家でいつも通り過去の失敗を戒めて、気が付いた時には午後になっていて、明日も夜禅だから布団に入って一日終了……うん、こう考えてみるとぼくの日常は誰かに紹介するまでもないものだな。
と、ぼくが己の存在を考えながら歩いていたら、
「十番隊長、無礼をお許しください。先ほど口を汚した者はわたくしが預かる一番隊の隊員です。かつてあの者もけものを目にして動くことが出来なかった者のひとりなのです。意地の悪い面はありますが、いまは人一倍努力する者のひとりです。夜禅の名に泥を塗るような言葉を使わせたのは隊長たるわたしの責任です。申し訳ございませんでした」
そう言って一番隊長は深く頭を下げてきた。
「顔を上げてください。夜禅に身を置くものとして、個人の力ではどうにもならないというのは間違いありません。しかし今後のことを考えると、背中を預ける仲間として彼に信用してもらわないと、呼吸や舞に乱れが出てきてしまう。それに、ぼく個人としても十番隊の隊員に動いて欲しかった気持ちはあります」
「では隊長として、お互い己の預かった隊員を指導していきましょう」
と、一番隊長は握手を求めてきた。
「隊の活躍、それ則ち褒美が貰える。お互い、休みが貰えるような収穫を目指しましょう」
ぼくはそう言ってから一番隊長の手を握った。
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