心構え

「ぼくだけで十分だ」


「けものは不死身だ、夜が明ければ煙のように消えるばかり、おれたちは一撃もらえば死ぬかもしれないんだぞ」


「だから言っているじゃないか、ぼくひとりに任せておけばいい」


「けものはお友達ってか? ならお手々繋いでいるところを見せてくれよ! それこそ自殺行為だろ。そんなに自殺したいなら勝手にすりゃいい、けどな、そんなにいのちは安くねぇんだよ!」


「――だから救おうとしているんだ。現世界では病に苦しんでいるいのちが何千万といる、野ノ地病や赤死病と、けものが生成する果実フォルス無しには解決できない病がある。ひとりでも多くのいのちを救うために闘わなければならないんだ。悪魔に手足を売っても守らなくてはならない。死神に魂を売ってでも、ぼくたちは現世界の人々を救わなくてはならない。それが夜禅を生き抜くための心構えだよ」


「……そんなのは本物の強者の台詞だ。本物の弱者を知らない奴の手前勝手な戯言だ」


 ごめんよ。君の言う通りぼくは自分の都合しか考えていない。


 でも仕方ないんだよ。夜禅部隊ぼくたちは食うために痩せる、痩せないためにヒトを救わなくてはならない、そしてヒトを救った分以上に強くならなくては食っていけない。


 現世界の土地は大罪時代の余波によって死んでいるようなものだ。この理想郷で育った物がなければ現世界は維持できない。植生代耕世紀現代を生きている者は残酷な使命を背負っているけど、諦めてはならないんだ。君たちが生きていたいと願うなら、諦めていない証拠だ。


<連絡、九番隊に負傷者多数。予定を繰り上げて退かせるので十番隊は準備を>と、そこでぼくに無線が入った。総隊長殿からの連絡は一方的な命令形だけど、それだけでも十分に伝わる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る