幕開け
そしてここから先が、不自由のない暮らしを得るには誰かが不自由になったり、夢半ばで消えてしまったりする残酷なセカイ。
「けものが理想郷の支配階級というのは…………」
人類が理想郷に移住できない理由を説明するには、ぼくのその中途半端な言葉が一番しっくりくるでしょう。
夢のような場所であれば悪夢のような場所でもあるのが世の常。理想郷はヒトを生かす土地であればヒトを殺す土地でもある。
木の股から生まれたようなぼくの前には、木の股から生まれたのであろう理想郷の危険が立ちはだかっている。
(言葉が通じないと存じておりますが、お相手願おう)
と、ここ理想郷で駆け行くのはぼくという【
『しかし刀を抜くか抜くまいか迷っているのだろう?』その通り迷っております。
おっと、危ない危ない。迷っていては前に進むこともままならない。
ということで、ぼくの目の前にはヒトの形をした白く光る神々しい生物――【けもの】という不死身の化け物がいる。困ったことを告白しますが、ぼくはこの不思議な生き物に向けて一度も刀を抜いたことも振ったこともないのです。
『武器を握らないでどうやって戦うのか?』これもいい質問です。ふむ、ぼくはどうしましょう、いえ考えはあります。
「動ける者は十番隊長に続きなさい!」と言うのは女子の総隊長殿だ。
どうやらぼくの心配をしてくれたようだ。ぼくも隊長クラスの実力を持っているのですが、女子に心配してもらうくらい弱いらしいです。ですので、ぼくはお仲間に助けてもらうことになるのでしょう。ええ、分かっております、長男坊のくせに情けないったらありゃしません。
「――皆で夜明けを迎えましょうぞ!」それを言うのはぼくの役目ではないが、一応は十番隊長なので鼓舞しておこう。
ぼくたちは鳥のように飛べないから、地を踏みしめ憂しやさしの世で強く生きねばならぬ。
――とここにきて、なぜぼくが理想郷にいるのか、なぜぼくが夜禅という職場の十番隊長に選ばれたのか、なぜぼくがけものなる生物を前にしているのか。
そう、始まりはいつも唐突な偶然だ。偶然による偶然の積み重ねの、運命により始まるのがぼくたちの物語。いやいや参ったことに運命に抗うのもぼくたちの物語。
幕が上がれば時代劇…………否――次代劇。
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