カースト上位の彼女が彼女を選んだ理由
MERO
第1話 無邪気に彼女の家に誘われる
さしずめ、私は彼女に飼われるペットのように、ずっと彼女の家に居座っている。
***
学校というものは、なぜに全員に同じことを同じようにやって、誰が一番か競わせるのだろうか。
蝉が泣き始める6月の教室で小テストを受けながら、私はぼんやりと窓側を見ながら考えていた。
窓から見えるグラウンドには他のクラスの体育の様子が見えた。
今は同じ学年である2年5組の体育の授業で、体育測定を実施しているようだった。
クラスを確認して、私はそっと人を探し始めた。
走り幅跳びを行う並びの後ろの方に、3、4人の女子グループが何かを投げてきゃっきゃっと仲良くじゃれあっているのが見える。
その中の一人、背が高く、特によく笑っているポニーテールの女子に私は目を移した。
高校1年の時に同じクラスになった彼女は、クラスの複数ある女子グループの中でとりわけ明るい陽キャが集うメンバーの一人としていつも笑っていた。
私といえば、いくつかのグループに交わるものの、特定のグループでの交流と言うものは一切持たず、学校が終われば、一人で過ごすような生徒でこれといった特徴もなく、ただただ毎日の時間を潰すために学校に来ていた。
そうこう考えているうちに、小テストは終わり、普通の授業が始まった。
窓際ばかり見ていたことがバレたのか、数学の先生に指名された。
「
小テストが終わったばかりなのに、テスト時間中、先生が黒板に書いていた問題を解くように言われた。
そこで私は千里と初めて話した時に言われた言葉を思い出した。
『ゆきき』
それは私の名前を指した言葉だった。
私はもちろんそれは”ゆき”と読むんだよと教えたにも関わらず、彼女は面白がって私のことを「ゆきき」と呼び続けて、無邪気な笑顔を見せた。
この時、心を奪われた。
思えば、クラスで笑っている彼女を遠くから眺めていて、その笑顔があまりに眩しくて、この人の隣にいたらぽかぽかと暖かいのだろうかと感じていた時から、私は彼女のことが好きだったのかもしれない。
***
千里と仲良くなったきっかけは、暇つぶしに通っていた駅前の大型本屋で、偶然に会ったこと。
私は漫画雑誌コーナーをぐるっと回り、それでも閉店時間まで余ってしまったので、たまには参考書でも見ようかなと珍しくいつもと違う場所で”蛍の光”が流れるまで立ち読みをぶらぶらと続けていた。
そして音楽が鳴り始める閉店22時になる10分前に、私の後ろをすごい勢いで走り去るように人が通った。その人は斜め後ろで急に止まり、はぁはぁという息遣いをさせていた。
私はいったい何事かと思わず後ろを振り返った。
それが千里だった。彼女は息を上げながら、いつものポニーテール姿で頭上を見上げ、本棚の上の方の本を必死に探していた。
彼女は同じクラスでいつもカースト上位的なグループにいる今時のJKで、授業は真剣さのかけらもなく、先生をからかい、いつも流行りを追って楽しいことだけをやっている、そんなイメージがあった。だが、目の前にいる千里はメガネをかけて、真剣に参考書らしき本を選んでいる。そのギャップと時計はもう本屋が閉まる5分前で私は私は千里の横に近づき、つい、声をかけてしまった。
「何の本探してるの?」
千里は顔を私に向けて、少し驚いた顔をした。
でもそれも一瞬で、すぐにメガネを整えて、「あーえっと、デイトレード大辞典?」と言い、すぐに本棚に目を移した。
私も千里の横で本を探した。彼女は上の方を探しているようだけど、読んで適当に本棚に返す人もいるし、案外、下に…あるんじゃないの??
「あ…、コレかな?」
私は目の前の棚にある本を指さした。
千里も声に釣られてこっちを見る。
「そう!!!」
本棚から本を取り出した所で本屋閉店の音声が聞こえ始めたので、私は近くにいた店員に声をかけて千里と二人でレジに急いだ。
「えっと…田路さんだよね? こんな時間まで本屋にいて何か買った?」
私は答えに詰まった。
ただただ家に帰りたくなくて時間を潰していた、なんて言えなかった。
「いや…あ……ところで、菅山さんのデイトレードって…一体、何?」
話をはぐらかし、千里の購入した本について、私は突っ込んだ。
千里は私の顔を見て、ふふって不敵に笑った。
「知りたい?」
その目は猫のような鋭い眼光を放ち、いたずらっ子のような笑顔を向けて聞いてきた。
「まぁ、そうだね…気にならないとは言えない、かな」
千里は私の回りくどい言い方に苦笑しながら、言った。
「いいよ、ここで会ったのも何かの縁かもしれないしね。じゃあ、今からうちにきて」
これから!?
まぁ、私はいいけど…
私は千里のいきなりの提案に動揺しつつ、心で感じたそのままの「いいけど…」と返してしまった。
「おっけー、じゃあ、向かおうか」
無邪気な千里。教室で見せる姿と同じように、自由にきままな猫のように誘うその様子に私は驚きつつも、そのまま千里の家に黙ってついていった。
その日の夜、ベッドでノートパソコンを開いて株の
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