酒を歌うスマホ

@sakuramai0108

酒を歌うスマホ

プシューと缶ビールを開ける音が薄暗いアパートの部屋に響く。


僕の画面の部分をじっと見つめているA君。画面から溢れるライトに照らされた顔が青白い。


コトンという音。


そして18歳のA君は酒をこぼした。


僕の画面に飛び散った酒。


「あっ、スマホが、、、!」


こんな時まで僕の心配をしてくれるA君。僕の充電口の穴から入った酒が体に染みた。


次の日も、またその次の日もA君は酒をこぼしてくれた。そのたびにA君は僕の心配をしてくれた。そのせいか、心も身体も暖かい。


ある日、酒がたくさんこぼれた。A君の手から滑り落ちた缶が転がる。


なんだか身体が熱い。いつもより飲みすぎたみたいだ。


A君が音楽を流そうと僕に手を伸ばす。だけど僕の身体が思ったように動かない。Aくんのお気に入りの曲なのに、歌詞を間違えてしまった。


『お酒をめぐんでくれたァ〜君はァ〜運命の人ォ〜♪』


A君のびっくりしたような顔。未だに思い出してニヤニヤしてしまうんですよ(笑)


 3年後──────────────────。


A君はあまり酒をこぼしてくれなくなった。

A君のアイドル活動が忙しいらしい。


最近、A君は「酒を歌う天才少年」として売れっ子アイドルをやっている。


どこぞの大手酒メーカーからCMの依頼が来ていた気もするなぁ。


そんなある日、TVでA君のインタビューをやっていたんですよ。

興味津々で見てたんですけどね。


『いつからこういった活動をされているんですか?』


やや興奮気味のレポーターがマイクを向ける。きらびやかなスタジオに負けないくらいとびきりの笑顔で答えるA君。


『んー、3年半前?くらいからっすかね。』


その後A君をテレビで見た人はいない。

僕?僕もあれ以来会ってないなぁ、、、

今頃どうしてるんだろうね?

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