第3回

この国の聖女は、名前を呼ばれることはありません。神の力を与えられただけで、ただの人だからです。と言われてはいますが、実のところは誰も分かりません。実際、他国では名前で呼ばれている方もいますからね。


どうして、この国では呼ぶことが禁じられているのでしょうか。それは、本人を認識させないためという説が有効です。個人崇拝に繋がるといった説もあります。


これは、聖女関連の文献をひたすら読み漁った私の仮説ですが聞いてもらえますか?何故って、こうでもしないとこの原稿が埋まらないからです。


【まだこの国の聖女が名前で呼ばれていたころのこと。アリアとメイベル、2人の聖女がおりました。仲はとても良く、まるで本当の姉妹のようだと言われていました。でも、ある日のこと。メイベルが亡くなりました。アリアは言いました。私がやりました。メイベルが褒められていたから。メイベルの後は、毎回そう。私じゃダメなんだって。そしたら、神さまに似た声が聞こえたの。聖女になったときみたいに。アリアは、魔の神に魅入られていました。アリアは、メイベルの死体とともに消えました】


実際、悪くないと思うのですよね。この国の聖女から名前が消えた時代、その前後に魔の神に魅入られ、魔女となった聖女がいたことは事実ですから。


さて、仮説で少しでも原稿が埋まったことですし、次の話に行きましょう。


聖女が名前を呼ばれることがないとは言いましたが、例外があるのです。


それは、ペアを組む見習い神官様です。


これもあって、結婚まで進むことが多いのです。名前を知っていても、それぞれの道を行く、これも勿論素敵ですけどね。


だからこそ、驚きました。彼が、私に言ったこと。


「俺に、貴女の名前を呼ぶ権利を下さい」


ね、素敵でしょう。私の大好きなロマンス小説みたいで。

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