愛されたいし愛していたい
砂葉(saha/sunaba)
親愛なるあなたへ、愛を込めて
私は教室の窓際にいる彼を眼鏡の奥から見つめ、ため息をついた。
私は城島ミカ。私は好きな人がいる。別に何も珍しくないことだ。私の好きな彼は、私の視線にも気づかずに他の男子と笑い合っている。彼の名前は朝峯トオル。
(あぁ…私にその笑顔を向けてくれたら…溶けてしまいそうだ。)
そんなことを思い、一人で頬を緩めていたら唐突に彼がこっちを見た。目線がぶつかり合い、思わず私は俯いてしまった。
(今、下を向かなかったら彼の綺麗な顔をもっと見れたんだろうな…。)
私は顔を背けた瞬間、そう後悔した。私はせめて横顔でも、と思い彼の方をもう一度見ようとしたが、そんな努力も虚しく、チャイムが鳴った。
(あぁ…もう朝の時間が終わって、彼を見ることができなくなってしまうのか…。)
私はそれを一時的なものだと分かっているが、それでもがっかりした。一時間目の授業は教室移動だからますます元気がなくなる。そう思った私に、隣の席の子が話しかけてきた。
「ねえ、今日の教室移動、一緒に行かない?」
「…うん。いいよ。荷物取ってくるからちょっと待ってね。」
「分かった。」
私はそう答え、ロッカーに荷物を取りにいった。
彼の視線の先には私がいるとも知らずに。
ロッカーから荷物を取って、ドアを開けようとすると、ちょうど彼を含めた男子のグループがドアを開け、思わず彼とぶつかってしまった。
「あっ!ごめんなさい!」
「あ、ごめん。気づかなかった。」
彼はそう言って教室に向かった。
(彼の体温…なんだか心地よかったなぁ…。)
「ミカちゃん!早く行こっ!」
「う…うん。」
私は彼女と共に、まだ蛍光灯のついた教室を後にした。
時間は私が思っていたよりも速く流れ、もう帰る時間になってしまった。
「ミカちゃん、また明日!」
「バイバーイ。」
「うん、バイバイ。」
隣の席の彼女と、その子の友達に挨拶されたので、軽めに挨拶を返しながら帰る支度をしていた時だった。
「なあミカ。明日って空いてるか?話したいことがあるんだけど…。」
「えっ?トオルくん!う、うん。空いてるけど…今日じゃないの?」
トオルくんに話しかけられ、変な反応をしてしまったのか、彼は苦笑いでこっちを見た。
「今日は部活があって…。ごめんな。できたら明日の放課後、この教室にいて欲しい。大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ。部活、頑張ってね。」
「ありがとうな、ミカ。」
彼はそう言って明るく笑った。
(トオルくん…格好いいなぁ…。明日何するんだろ…?)
そんなことを思い、少しにやけていると、陽キャグループの(私が思っているだけだけど。)ボス格(こちらも私が勝手に思っているだけ。)が私にこう言ってきた。
「城島さん。今日一緒に帰れる?話があるんだけど。」
その時に私の心の中に現れた不安を指し示すように、教室の蛍光灯が少し瞬いた。
私はボス格の(名前は山中メグミだけど、少し面倒だからこのまま『ボス』と呼ぶことにしよう)彼女と共に、駅までの道を並んで歩いていた。
「…話って何?ぼ…メグミさん。」
心の中でボスと呼んでばかりいたので、危うくそれが名前だと思ってしまっていた。自分が思ってたよりも危なかった。
「えっと、城島さんとトオルくんってどうゆう関係なの?」
かなりぶっ込んできたものだ。正直に言って吹きそうになった。
「えっ!別に…どういう関係とかでもないけど…。」
「絶対嘘じゃん。…まぁどうでもいいんだけど。あんたに私のトオルは渡さない。金輪際私とトオルに近づかないで。」
(は?何ほざいてるんだこのクソビッチが。)
内心かなり怒っているが、あくまで私の口調は怒りがあまり出ていないものだった。けれどそんな配慮もすぐに必要無くなった。
「なんでそんなこと言うの?私はただ…。」
「あんたの好きは異常なんだよ!いつもいつも彼のことを舐め回すような目で見てるしさ!歪んでるんだよ!お前の愛は!」
「は?このクソビッチが。歪んだ純愛になんか文句あります?個人の自由ですよね!あんたの方がよっぽど歪んでるわ。彼以外の男子にもヘラヘラ笑いながら腰振って金もらってるんでしょうが!」
私がそう言うと、彼女は少し傷ついたような表情をしたが、私の口は止まらない。
「それで何?金輪際私と彼に近づくな?バカも休み休み言え。今更手のひら返しで今更好きだと?そんなの嘘だと思うに決まってんじゃねえか。適当にクラスメイトについていってるやつがほとんど一人でいるやつに言うこと全部聞かせられると思うなよ!」
全部言い切ってスッキリしたのでボス格を見てみると、その顔は泣き出しそうになっていた。
「もういいよ、あんたにはもう関わらない。だけど彼への態度は変わらないから。」
私は彼女の返事を待たず、そう吐き捨てて駅に向かった。
燃え盛るような夕日は私の怒りを表すようだなと、思いながら私は、大きく明滅している道路照明灯の下を歩いて行った。
(あーあ、言っちゃった。これからどうしよ。)
そう思って私は自分の部屋で叫ぶ。もちろん、部屋は防音だ。
そこは他の人から見ればかなり変な部屋だった。壁はトオルの写真で埋め尽くされており、机の上にはあるノートが置いてあった。
私はそのノートを開き、今日の収穫をそのノートに貼り付けた。
「ふふっ…これで五千二百二十三本。なかなか溜まってきたな〜。」
私はそう言って彼の髪の毛コレクションを眺める。
「今日は少しだけ細いな〜。レアだな〜。前の茶髪ほどレアではないんだけどね〜。」
私はそう言い、ノートを胸の前に持ってベッドを転げ回った。
(あぁ…明日は彼に何を言われるんだろう…?)
そんな問いが頭の中に浮かぶ。だが、私の体はもう限界だった。
睡魔が私を襲う。
なんとかして立ち、机にノートを置き、電気を消す。
真っ暗な空間の中、私はベッドに寝転がるとすぐに睡魔に飲み込まれた。
「おっはや〜!」
「おはや…?あ!おはようってこと?うん。おはよう。」
学校に着くと珍しく隣の席の子が私よりも早く席に座っていた。
「ねえさぁ…急なんだけど、今日の体育、休むから先生に伝えておいてくれる?」
(すごく面倒くさそうだけど彼女にいいところを見せたい…!)
「うん。いいよ。なんで休むのかだけ一応聞かせてもらえる?」
「えっとね…今日…。」
「あ、うん。分かった。そういうことね?」
私がそう言うと彼女はこくりと頷き、じゃあと言って保健室に行った。
それを見届けた私は先生にそのことを言いに行った。
放課後、私はドキドキしながら教室で彼を待っていた。
「ミカ。じゃあ行こうか。」
「ふぁい!あ…!ごめんなさい…。」
「ははっ。そういうところ本当に可愛いな。」
(えっ!可愛いって!まじで!うわわああああ!待って絶対顔赤くなってるって!)
そんなことを思ってる私を見て、彼は明るく笑った。
「ミカって面白いな。ほら、一緒に帰ろうぜ。」
「う、うん!」
陽キャボス格がこちらを睨んでいたが、私が睨み返すとおずおずと視線を下げていったので言うことはないのだろうと思い、誰かが消したのか電気の消えた教室を後にし、彼について行った。
(何を話せばいいんだろう…。)
私はそう思いながら彼の隣を歩いていた。
「…あのさ、なんで私なんかと一緒に帰ろうと思ったの?」
「…ええと、話したいことがあったから…。」
「話したいことって?なんでも大丈夫だよ。」
私はそう言って彼に微笑んだ。うまく笑えただろうか。内心、不安しかないのだが。
「えっと、え…駅についてからでいいかな?ちょっと心の準備ができてないからさ…。」
「うん。ゆっくりで大丈夫だよ。」
そう言いながらも私はこんな妄想をしていた。
(もしかして私のこと…。もしかしたら今日彼の家に泊まることになるかもしれない。…ああ、下着可愛いのつけてきてないよぉ…。どうしよ。)
なんだかいたたまれない気分になった私は気を紛らわそうと世間話を始めた。
「あのね、今日二時間目の科学の時間あったじゃん。その時のことなんだけど…。」
彼はじっと私のことを見つめて話を聞いてくれた。
ちゃんと笑えてるだろうか。もうついてない道路照明灯の下を通りながらそう私は考えていた。
「…駅、着いちゃったね。別に頼み事とかだったら明日とか、いつでも大丈夫だよ。だから…。」
「いや、大丈夫だ。…心の準備はもう大丈夫だから。俺、言うから…。」
「うん。…無理とかはしなくても大丈夫だよ…。」
そんな私の言葉を聞いて、彼は優しく微笑み、次に真面目な顔で、私の目を見た。焦茶色の、澄んで、一点の曇りもない、綺麗な目だった。
「俺、ミカのことが好きだ。ミカがよければ、俺と付き合って欲しい。」
「…え。…えぇ!本当に?」
周りに誰もいなくてよかった。私が叫んでるのを見られたら変な噂が立ちかねない。
「ああ、本当だ。入学式の時、前で作文を読んだ時から。…どうか信じて欲しい。」
彼はそう言うとパッと彼の頬が私の頬と同じ色に染まった。
「私…なんかで大丈夫なの…?」
私がそう問うと彼は明るく笑った。
「うん。大丈夫だよ。」
「じゃあ…おつきあいさせてもらっても…。」
「あ、うん。」
彼はそう言って、さらに顔を真っ赤に染め上げた。それはまるで世界一赤いと言われる石材、インペリアルレッドよりも赤いんじゃないかと私は思った。
そこで私の心の中にある疑問が思い浮かんだ。
「え…でも付き合うって何をするの…?」
「ん…確かに…。称号みたいなものかな…。あと互いの家とかに行けるようになるとか…。でもそれは付き合ってなくてもできるか。確かになんなんだろうな。付き合うって。」
「家…か…。…今日さ、時間ある?」
私は彼の言葉を聞いて、私の心の中にはある不安が芽生えたが、それの対処法を見つけた。
「うん。一応、どっかに行ったりとかはできると思う。どっか行きたい場所とかあるの?」
「うん。…私の家に来てくれる?」
二人の前で、電車が止まった。
「前から気になってたんだけど…ミカってもしかして一人暮らしとかしてる?なんかクラスの女子が言ってたんだけど。」
ガタゴトと揺れる電車の中、彼はそう問いかけた。
「うん。そうだよ。それがどうかしたの?」
「そうなのか…。なんか理由はあるのか?」
私は本当のことを言おうか迷ったが、彼に嘘を吐こうとは思えなかった。
「ただ、東京に来たかったから。…何その顔。」
私が真面目にそういうと、彼は吹き出しそうな顔になった。
「だって、そんな、漫画みたいな理由で…ブフッ…ごめん…。」
「なんでそんなこと…。近くにコンビニがあった方が便利でしょ?」
私は純粋な質問を彼に投げつけたが、彼をもっと笑わせる羽目になってしまった。
「まあそれはそうなんだけど…。やっぱり理由が…。」
「もう…。…あと少しで最寄りの駅に着くからね。」
「うん、分かった。…ブフッ…。」
(あ…かなりツボにハマったな…。そんな彼も新鮮でなんか可愛いなぁ。)
私の計算通り、外はもう暗くなってきていた。
私は彼を家に案内し、コーヒーを淹れた。
「一人暮らしって聞いたからどうなのかって思ったけど、意外と綺麗なんだね。」
「あ、うん。ありがと?」
褒めてるのか分からず、私が言ったのは疑問文だったが、彼はそれを笑って受け流
してくれた。
「コーヒー飲める?」
私はそう聞きながら彼にコーヒーを手渡す。
「うん。まあ。…これってブラック?僕がブラックしか飲めないこと知ってたの?」
(そりゃあ知ってますとも。いつもあなたのことを見ているのですから。ちなみに好きな豆の種類もきちんと知っていますとも。)
そう思ったが、怪しまれるといけないのでこう答えた。
「いや、ブラックだと後から自分の好みに変えられるじゃん。だからお客さんにコーヒーを出す時は毎回ブラックにしてるの。」
「へえ、そのためなんだ…。ありがとう。勉強になったよ。」
(ッギャー!可愛いしかっこいい!死にそう!)
心の中は荒れているが、表情に変わりはない。
「ねえ、今日はもう遅いしさ、うちに泊まって行ったら?」
私はそんなことを提案する。
「いや、流石に泊まることは…。」
そこで彼の言葉は途切れ、彼は深い眠りについた。
私はニヤリと笑い、彼を担いで部屋から出た。日が暮れて廊下は真っ暗だったが、なんでもないように歩いて、空き部屋に彼を置こうと私は考えた。
私は彼が起きるまでは何もしないつもりだったが、もう私は我慢の限界だった。
さっき引きずってきた時に擦りむいたのか、彼の指には小さな擦り傷がついていた。そこから溢れ出る血を、私は彼の指を口に入れて飲む。
(あぁ、これがトオルくんの…。あったかくて、どこか甘くて…。なんだかあったかい気持ちになってくる。)
言い方は悪いが、彼が起きるまで私はずっと彼の指をしゃぶっていた。しかし、ある作業をしている間は別だが。
「う…ん…?ミ…カ?何をしてるんだ…?」
「あ!起きたの?おはよ、トオルくん。」
私は彼から離れ、少し屈んで彼を見た。
(なんだかまだ自分の状況がよく分かっていないみたいだな…。きょろきょろ周りを見てるところも可愛い!)
そんなことを思って悶絶している私をよそに、彼は自分の置かれている状況に気づいたらしい。
「ミ、ミカ。これってどういう?」
(絶望が隠しきれてない彼の表情も素敵!大好き!)
「どういうって…トオルくんっていろんな人とよく話してるでしょ?彼女として私はそれをしてほしくないから、一緒に暮らそうとしてるんだよ?」
彼は縄で縛られた右足を少し気にしながらその言葉をじっと聞いていた。
「ご飯とかはちゃんと用意してあげるから安心してね。何も君に死んで欲しいわけじゃないから。ずっと二人でここに住んでよう。これで死ぬ時も一緒だね。」
そう言って私は笑った。彼はこの世に存在しないはずの恐ろしいものを見るような目だった。
「ねえ、学校まであと四時間。何しようか。」
俺は朝峯トオル。十七歳。高校二年生だ。俺は今、かなり特殊な状況に置かれている。どんな状況かというと、足首に縄をつけられ、監禁されている。
(俺の人生…どこで間違えたんだろ…。)
告白した時か?一緒に帰ろうと誘った時か?一目惚れした時か?
彼女に監禁された身で、そんなことを考える。
彼女は今、学校に行っている。
(こんな時でも学校に行くって、なんか真面目だな。それも可愛いぐらいに…。)
そんなことを思った自分が馬鹿だと思った。
こんなことをされてまで俺はあの子と一緒にいたいのか?
こんなことになるならば、他の人の方が良いのではないのか?
「…逃げよう。」
俺はそう決めた。幸い、部屋の隅には彼女が置き忘れていった果物ナイフが落ちていた。
それを使い、何分もかけて足首に繋がれた縄を切り、部屋の外に出た。
なんだか清々しいような、それでいてどこか寂しいような、柑橘系の香りがした。
俺は廊下を歩き玄関へ向かおうとしたが、足を止めた。
俺はこのまま、外へ出てしまってもいいのだろうか。
このまま彼女といた方が、相思相愛で、二人とも幸せに暮らせるんじゃないか。
そう思ってしまった。
しばらく、そのまま頭で想像をしていたが、最終的に俺は自由を選んだ。
玄関に向かって走る。一回も、振り返ろうともせずに。一心不乱に。
しかし、やはり途中で止まってしまった。
いや、止まらされたと言っても過言ではない。
床にはワイヤーがピンと張っており、俺はそれに躓いてしまい、床に倒れる。
そのワイヤーが鍵となっていたのか、上から大型犬用のケージが降ってくる。
(あぁ…ここまでか。やっぱり俺には無理だったんだな。)
大型犬用のケージに(足だけはみ出しているのだが。)はまりながら、俺はもう抵抗しようとは思っていなかった。
(早く帰ってこないかなぁ。微妙にこれ痛いんだよね。)
そう思い、苦笑して彼女の帰りを俺は待っていた。
鍵がかけられていた扉が開く音がした。
「ただいまトオルく〜…。何やってんの?」
彼女は俺の様子を見た瞬間にこう言った。
「いや、外に出ようとして罠にかかったんだけど、やっぱり考え直して君と一緒に居たいなって。」
俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして喜んだ。
「え!私たちついに結婚…?」
「まあ時間の問題かな。少なくとも今は逃げるつもりはない。ちょっとこれとってくれない?」
俺はそう言ってケージを自分の体から外してもらった。
「トオルくん、亀みたいだったよ。」
「どういう情報だよ…。」
「可愛かった。」
「あ、ありがと…。」
改めて言われたりすると、恥ずかしいものだなと俺は思った。
「…ねえ、トオルくん。あとで大事な話があるんだけど、いい?」
「うん、大丈夫。」
俺はそう言って彼女に従った。
家に帰り、ご飯を一人で食べ、一人で眠りにつく。私のためにいてくれる人は誰もいない。
彼はそんな私の唯一の救いだった。
そんな彼が、今だけかもしれないが、私のために、ずっと一緒にいてくれると言ってくれた。
その言葉を聞き、私にはある勇気が湧く。彼のおかげだ。
彼をリビングに呼び、私はテレビをつけ、二人でソファーに座り、私はあることを話し始めた。
「ねえ、私たち、駆け落ちしない?」
話はそんな言葉から始まった。
返事はあっさりしたものだった。
「うん。いいよ。」
「そう、ありがと…。え!いいの?なんか…こう…理由とかそう言うのを聞くものじゃないの?」
「いや、特に気になることもなかったし、それに…。」
「…それに?」
「…君と一緒にいられたら幸せだし、苦しくても君と一緒ならなんでも乗り越えられる気がするから。」
よくもまあこんな歯が浮くようなセリフを吐けるものだなと思ったが、私も同じ気持ちだから何も言い返せなかった。
「…じゃあ、どこに行く?」
「どこでもいいよ。強いて言うならみんなに気づかれたりしない場所がいいかな。」
「う〜ん…。北海道でも行ってみる?行くお金はちゃんとあるよ。」
「あれ?コンビニは近くになくても良いの?」
「うん。あなたが近くにいてくれればいい。」
(あぁ、こんな彼と一緒にいられて幸せだなぁ。)
あなたさえいてくれればいい。あなたが私の唯一の支えだから。
「大好き。」
私がそう彼に囁くと、彼は照れたように笑ってこう言った。
「じゃあ、行こうか。」
「うん!」
私はテレビと部屋の電気を消し、まとめてあった荷物を手にし、駅へと向かった。
一人ではなく二人で。
彼を眼鏡の奥から見つめると、温かい微笑みが彼から返ってきた。
真っ暗な空には、私たちを祝福するように星が煌めいていた。
(あぁ…。私、溶けてしまいそうだ。)
そんなことを思っていると、彼がこう言ってきた。
「俺たち、二人とも歪んでるな。」
彼はふざけ半分のようだったので、私はこう答えた。
「歪んだ純愛になんか文句あります?個人の自由ですよね!だからそのまま、変わらないでいて。」
彼は私の強い口調に驚いたようだったが、すぐに笑ってこう言った。
「変わりませんとも。これからも君と一緒にいると誓うよ。」
私はその言葉に頷き、こう言った。
「トオルと私、お似合いかもだね。」
彼と私は燦然とした夜空の下、笑い合った。
愛されたいし愛していたい 砂葉(saha/sunaba) @hiyuna39
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