元天才少女で現サボり魔の美少女は真面目な僕の爪の垢を狙っている

ちゃんきぃ

1.快感と特殊効果と爪が短い理由

プロローグ

「柊くんはとても真面目な生徒で助かっています。宿題は欠かさずやって来てくれますし、授業中も積極的に挙手して――」


 担任の先生が通知表や三者面談で僕のことを評価する時には、必ず真面目という単語が使われる。それは僕に対して特に言うことがないからだと気付いたのは、中学二年生の時だった。

 なぜなら、真面目である理由として説明されている要素は、僕以外の生徒も当たり前にできていることばかりだから。

 同級生には、その当たり前にできていることに加えて、陸上で優秀な成績を収めている男子や委員長としてクラスをまとめ上げる女子がいた。

 一方で、いつも宿題を忘れている同級生はクラス内で愛される存在で、授業中はよく寝ている同級生は柔道で県大会上位になれるほどの実力を持っていた。

 そんな特技や美点を持つ同い年の人間がたくさんいる中で、学生として最低限のことしかできていない僕は、怒られるようなところはなくても、特筆して褒められるようなところがなかったのだ。

 卑屈に考え過ぎているとは思っていない。

 自分が最低限のことしかできていない自覚はあるあし、部活動や課外活動で目立った功績を残したことは一度もないのだから。

 そして、僕はその事実に気付いた後も、自分をもっと評価して貰うためにアピールしたり、立ち振る舞いを変えたりしようとは思わなかった。

 先生が真面目と評価してくれる限り、僕は学期末ごとに両親を安心させられるし、クラスメイトを含む周りの評価も極端に落ちることはない。

 今以上に頑張る必要もなく、僕は学校生活を安心安全に過ごせる。

 僕はその状況が一番良いと考えて、高校二年生になるまで過ごしてきた。

 しかし、学生でいる間は揺らぐことがないと思っていた僕の評価は、その日から大きく揺るぎ始める。


 それが起こったのはゴールデンウイークが明けた五月中旬の昼休み。

 お昼ご飯を食べ終えて血糖値が上がった僕は、程よい眠気からぼんやりとしていた。

 そんな状態の僕の耳に、二年三組の教室のドアを勢いよく開く音が入ってくる。

 それ自体は特に珍しい出来事ではないから驚きはしなかったけど、音を発した主は早歩きで教室の中を突き進んでいく。

 僕が気付いた時には、その主はなぜか僕の席の前に立っていた。

 周りのクラスメイトはざわついていたが、夢の世界に誘われていた僕は目の前の人物をすぐに認識できない。

 透明感のある白い肌と腰の辺りまで伸びた艶やかな黒髪。

 身長は結構高めで、細身ながらも女性らしさを感じる体型。

 少しつり目の女子は、確か同じクラスの――

「――はむっ」

 僕が脳内で名前を思い出す前に、彼女は行動に移る。

 僕の手首を強引に掴んで引き寄せ、彼女自身も前屈みになりながら……いきなり僕の人差し指を咥えたのだ。

「なっ!?」

 目の前で起こった光景は、彼女の口の温かさと湿り気のおかけで夢ではなく現実だとわかった。

 いや、女子の口内の温度や湿度を知ったのは、もちろんこの日が初めてだったのだが、それくらい生っぽさを感じたということだ。

 何なら妹以外の女子に触れたのがいつ以来か覚えてないのに……話が逸れてしまった。

一気に頭が冴えた僕は再度状況を確認する。

 そこには不敵な笑みを浮かべる美少女が……いや、なんでこんな時に美少女だなんて思っているんだ。それ以外に考えるべきところがあるだろう。この女子の名前や行動の意図を――

「――がぶっ」

 だが、次の思考に移る前に、彼女は咥えていた人差し指の爪の辺りを思いっきり噛み付いてきた。甘嚙みなんて生易しい奴じゃなくて、食いちぎるような勢いで。

 漫画とかで指の腹を噛み切って、血の契約を交わすシーンを見たことがあるけど……

「ぎゃああああああ!!!」

 あのキャラたちもこんな痛みを味わっていたんだろうか。

 僕の叫び声は一瞬にしてその時教室にクラスメイト全員の目線を集める。

 この事件から真面目な男子生徒だった柊蒼一の評価は――教室で女子に指をしゃぶらせた変態男子生徒に変わってしまった。

 ……なんでだよ!? 僕は巻き込まれただけなのに!?

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