第25話:瑠璃も真実も照らせば光る⑤
――くぐもった轟音と微振動を感じたのは、ちょうど厩舎での作業を終えたときのことだった。
長い付き合いである主家の馬だけでなく、元々大神殿で飼われているものたちも頻りに周りを見渡し、耳を動かして情報を集めようとしている。蹄で地面を掻いているのは不安の表れだ。人より五感に優れている彼らもまた、この異様な空気をいち早く感じ取ったのだろう。
「とうとう始まったか……大丈夫、ここまでは影響は来ないよ。いい子で待っててくれ」
鼻を鳴らしている相棒の首を軽く叩いてやってから、急ぎ足でその場を離れる。王城の敷地の端に位置するここは、出るとすぐ左手に大神殿を望むことが出来た。
その神殿の、薄青いスレート葺きの尖塔が、明らかに揺れている。地面そのものは微動だにしていないから、これは内部から発せられるものに違いない。神殿のすぐ隣にある、身分を問わず病気や怪我の治療を請け負っている施療院では、いち早く避難を始めた関係者が走り回っていた。慌ただしい様子ではあるものの、その動きはきちんと統率が取れて落ち着いている。有事の際に成すべきことを、あらかじめしっかりと確認してあるおかげだ。
「――皆、無事に脱出したか!? 逃げ遅れた者は!?」
「お、王太子殿下!? 何故こちらに、それにその方は……」
「いろいろあってね。気を失っているだけなんだが、頭を打っているから安静にした方がいいな」
「え、ええ。では、急ごしらえで申し訳ないのですがこちらを」
「点呼は済んでいますか? 患者の皆さんの状態は? 私でよければ何なりとお手伝いいたします」
「ああ、助かります! ですがその、フィンズベリー家の御子息のお姿が見当たらなくて」
「……、大丈夫です、賢者様が見て下さっていますから。我々は動けない方の対処をいたしましょう」
「は、はい!!」
神殿の通用口から走り出てきた二人に、見知っている神官たちがめいめいに声をかけている。後から出てきた方、王城で医官をしているエヴァンス家のご当主がやや歯切れが悪かったのは――おそらく、中で何が起こっているかを目の当たりにしたからだ。
無理もない、ここまでの経緯を知らなかったら、己だって言葉を濁すだろう。あんなものが神聖な殿堂の内部に出現するなど、誰が想像するというのか。
(……よし。人手も足りているし、ここは問題なさそうだな。俺は予定通り、相方の応援に行くとするか)
場の様子からそう判断して、すぐさまきびすを返す。反対側にあるもうひとつの勝手口を目指して、人目につかないように走り始めた。
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