第5話 馬鹿な奴ら

「間宮、そんな目に遭ってたんだね、可哀そうだな。よし僕が守ってあげる」

 いうのを忘れていたが、荒木は三十五歳、独身だ。長髪と、ベルボトムのズボン、でかい襟のシャツ。GSのメンバーかと思えるようないでたちだ。家はうわさでは金持ちらしい。


 ということから、実は女子の間では人気があるらしい。もちろん男子からは総スカンに近いが本人は一向に気にしていない。

 その男にやさしい声をかけられ、間宮はまんざらではなさそうだ。馬鹿な奴と亮は思う。


 馬鹿なの奴はそんな間宮に興奮して下半身を大きくしている荒木も同様だ。

「その代わり君の処女を僕がもらうから」

 だいたい女子は男子よりませている、クラスの男子で何割今の話の意味が分かるのかと亮は思う。


「荒木先生、この子の小尾ちょろしくお願いします。まだ生理がないはずだから、なまでもだいじょうぶですよ」

「藤野先生、なんでそれを」

 間宮が真っ赤になった。ちなみに亮もなんでわかるかが知りたかった。

「そんなの、見てればわかるよ、私これでも担任だから」

 そうなのか、それは後で詳しく聞こうと思う。


「じゃ、私はこれで。汚れたシーツとかは焼却炉に入れてください」

 いつの間にか薫は服を着ていた。

「先生」

 間宮が急に不安になったのだろう、泣きそうな声を出したが薫は意にも介さず保健室から出た。


「ちょっとかわいそうだったかな間宮、あんなに痛がるとは思わなかった」

 薫の部屋だ、今日で三回目、花園でなければもっと来たいけれど、亮の住む上久世からはちょっと遠い。

「仕方ないよ、荒木下手だもん。ろくに濡れてもいなかったんじゃない」

「薫は荒木とやったことあるの」


「やめてよ、あんなのとするんなら犬とでもやった方がましだよ」

 えらく随分な言い方だ。ということは荒木よりは自分の方がましということらしい。亮はちょっとばかり嬉しくなった。


「写真撮れた?」

「ええ、今度現像します」

「ここで現像できるよ、焼き付けも」

「え、機材どうしたの」

「校長にねだった」

 不思議なことに胸がチクっと痛んだ。

「やったの?」

「え、妬いてくれるの、うれしいなあ」

 薫は亮に抱きついてきた。

「仕方がないじゃん、ごめんね」

「うん、俺が後から割り込んだから仕方ないですよ」

「じゃあ、今日も割り込んで、間宮の見たらしたくなっちゃった」


「タンクに現像液を入れて、ほらこれで現像ができるんです」

 カーテンを閉めて真っ暗になった部屋に、赤い電球がともっている。裸の二人に赤い光が当たるとなまめかしいが、現像のためであって、ムードのためではない。


 昼間はカーテンを閉めても暗くはならないこともあって、夜まで二人は食事したり抱き合ったり。

 母親には先生のところに泊まると言ってあった。彼女は「あ、そう。頑張っておいで」とにこりともせずに言って送り出してくれた。つくづくどういう親だと思う。


「で、これが、ネガ。これをここにおいて、印画紙おいて。よくこんだけ揃えましたね」

「亮のために、写真屋さんに聞いて」

「ほら、焼き付けできました。あとは水で流して」

 酢酸の匂いがかすかに残る印画紙に、間宮の絶叫が響き渡るような写真が浮かびあがっていた。


「これどうするの、荒木を脅すの?」

「まさか、何かあった時の保険、黙らせられるでしょ。亮が持っていて」

 そうか、そういう使い方もあるんだ。やっぱり薫は大人だと思った。





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