おんな好き 京都編

ひぐらし なく

第1話 写真

「藤野先生、ちょっとお話があるんですが、今日の放課後お時間もらえませんか」

 住谷亮すみたにりょうは市立O小学校の六年生だ、勉強はできるが運動は今一つ、ここに引っ越してきて六年になるが、いまだにこの地区にはなじめていない。


「なあに住谷君、深刻な顔して。いいわよ、場所はどこがいい」

 藤野薫はいつもの通り明るく答えた。彼女は大学を出たばかりの二十三歳、白のブラウスと黒のミニスカートが魅力的だと亮は思っている。


 ツイッギーが来日して、爆発的に流行しだしたミニスカート。大人にはまだ完全に認められてはいないようだが、男性教師は目の保養と考えているのだろう。女性教師ほどは目の敵にしていない。。


 ちなみに彼女は、よほどのおっちょこちょいなのか、おおらかなのか、教室では毎日のようにパンティーを見せている。


 小学生と言っても六年生ともなれば、マスターベーションを経験している。当然のようにほぼすべての男子は、毎晩彼女のパンティーを脱がすことを想像しながら、

 自分のものをこすっていた。


「教室だと、誰かに聞かれそうなので、どこか内緒で話のできる場所が」

 薫はちょっと考え込むと、じゃあ、図書室はと提案した。


 たしかに放課後の図書室は、うってつけの場所だった。音楽室や調理室などのある鉄筋校舎の三階の奥だ。まず誰も来ない。それ以前に、市南部の端っこに位置するこの地区には本を読むような人間はあまりいない。それも亮が学校になじめない理由だった。


「先生方にも内緒にしてもらえませんか、いろいろあって」

 薫は亮がクラスでも浮いている存在なことを知っている。その手の話だろうと思ったのだろう、分かったよという答えが返ってきた。


「お待たせ、で、話って何」

「これなんです」


 亮は薫の目の前に数枚の写真を置いた。

「先生は純真で素敵な人だと思ってましたが、こうして採用されたんですね。がっかりです」


 薫の顔は、はっきり青ざめている。

 亮は入り口のドアに鍵をかけると、中が見えないようにカーテンを閉めた。


「僕の趣味は写真なんです、風間先生にお願いして暗室を使わしてもらっています。」

風間先生は、化学クラブの顧問の先生だ。亮が尊敬できる数少ない教師の一人だった。

「この前の日曜日もそれで学校に来てたんです。声が出るのは仕方がないとして、責めてカーテンぐらいしましょうよ。校長も]


 六年二組つまり亮の教室で、四つ机をベッドにして抱き合う男女。薫と校長であることは簡単にわかる。

「なんか先生の採用は、校長が頑張ったとかいう、うわさを聞いたことがあります」

 誰が発端かは知らないけれど意外とこういったうわさは広がりやすく、子供の耳にも聞こえてくる。

「暗室に置き忘れたりしたら」


「やめて」

 薫が叫んだ。

「そんな大声出したら、聞こえちゃいますよ、人が来ていいんですか」


 薫が怒りに燃えた目で亮を見た。

「いい子だと思っていたのに、とんだ食わせ物ね」

「いい子ですよ、だから誰にも言わずに先生に教えたんですよ」


「望みは何」

「クラスで何があっても僕を守ること」

 薫はホッとした表情を浮かべた。

「約束する、だからこのことは誰にも」


「いいですよ、誰にも話しませんその写真も差し上げます」

「ありがとう、やっぱり君は」


「でもどっかにネガを置き忘れるかも」

「私をいたぶって楽しい? ひどい子ね」

「先生の人生変わっちゃいますよね、その写真バラまいたら。僕を守る、それで済むわけはないと思いませんか」


「わかった、ほかに何、何でも聞いてあげる」

「あげる? 聞かせていただきますでしょ、言葉はちゃんと使いましょうよ先生」

 亮は薫に授業中に言われたことを覚えていた。薫にはそういう無邪気に生徒をいたぶるところがある。普通は笑ってすますのだろうが、亮はやられたことは忘れない。


「僕童貞なんですよ、最初は先生にお願いしようかなって。まあ、いやならいいですよ」

 薫はほんの少し黙り込んだ、亮を見る目に怒りがこもっている

「いいわ、一回だけなら抱かしてあげる」


 亮はいきなり薫に平手打ちを食らわせた。

「わかりました、でしょ。抱いてくださいですよね。一回? 誰がそんなことを言いました? 卒業するまで僕のおもちゃですよ」


 いつもおとなしい亮の豹変は、それだけで薫を震え上がらせた

「おもちゃって、許して、そんなこと」

 薫はぶたれた頬に手を当て泣き出した。ただどことなく芝居がかっている。


「印画紙いっぱい買ったんですよね、学校、いや町中にばらまけるくらい」

「わかった、わかりました」

 薫はやっと諦めたらしい。亮の本気が伝わったに違いがなかった。


「じゃあ、まず脱いでください」

 薫はのろのろと立ち上がると、ブラウスのボタンに指をかけた。


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