第116話 とりあえず護衛しとこ。バタフライエフェクトとか怖いし

 陰の話では幼馴染の女の子も、一応探索者をしているらしい。

 週に一回、二回ほど、危なくないような浅層で遊んでいる程度らしい。

 寿命は陰の見立てによれば、あと2,3日程度だろうということだ。


 寿命が尽きる瞬間に一緒にいてほしい――というのが陰の願いである。


 だが、しかし、彼女が見ている寿命が、オレのいない世界線のものであると仮定するなら。

 すでにオレは関わってしまった。

 そのことで、幼馴染の少女の死期が早まる可能性もあると考えたのだ。


 ということで、少女の家の近くの喫茶店で動画編集作業をしていた。


 アナリティクスを見て、評判の悪かった(切断率の高かった)シーンは、カット。

 逆にその場面だけを繰り返し見られているようなシーンは、もう少し詳細も見せ、できるだけ長くする。


 しばらく作業していると、陽が沈んできた。



 ――さて。そろそろ交代の時間だな。



 オレは喫茶店の外に出て、月子を呼び出す。

 今はかなり小さめのサイズになってもらっている。小型犬くらいだ。

 彼女は前回の世界線で横浜を精霊アストラル界化し、地獄を作り出した元凶だ。


 銀の毛並みを持つ美しい狼だ。

 彼女はすべての精霊の上に立つ、精霊王という存在だった。


「わふわふ! 主! 主! 余とお散歩か!? お散歩なのだな!?」


 尻尾をぶんぶん振りながら、オレの周りをぐるぐる回る。

 ――なんか知能が低下してないか……?


 オレは一抹の不安を抱きつつも、彼女に言う。


「来る前に説明したろ。ある少女を護衛してほしい。もしかしたら、何かあるかもしれないからな」


 月子が立ち止まって言う。


「わかったのだ! でも主……? ただなのか……? 余は、主にそう言われれば従うしかないのだ……」


 きゅるるんとかわいらしい瞳でこちらを見てくる。

 昔あった、借金して犬を買うCMのような目だ。

 今思えば借金して犬を飼うのって相当ヤバい気がする。


「……わかった。何が望みだ?」


 オレが尋ねると月子は、ぐるぐるぐるぐると足元を高速回転しはじめた。


「ブラッシングなのだ! あとお散歩である! あとは、欲しいものがあるのだ……! あの光る板を出すのだ!」


「はいはい」


 月子はオレのスマホを肉球で器用に操作する。

 出てきたのは高級ドッグフードノーブルキャニーヌのサイトだ。


「えっ……!?」


「余は動画で見たのだ。余と似た姿のものたちが、これをおいしそうに、食べていたのだ。余も食べたいのだ……」


 これ犬用だけどいいのか……?


 というかお前、狼――じゃなくて精霊王だよな?


 仮にも人型だったよな???


 ――いいのか?


「そ、そんなに贅沢なものだったのか……? でも余は、食べてみたいのだ……」


 しょんぼり姿で月子が言う。


「ああ、いいよ。いいよ。買う。食べさせるよ!」

 オレはわしゃわしゃ頭を撫でた。


「わふわふ。ありがとうなのだ! 主~! 余は嬉しいのだ~~~!」


 ――絶対これIQ下がってる。犬にどんどん近づいてる……!

 オレはそう思った。

 だが、かわいい犬のおねだりには勝てなかった。

 しかし次に問題が起きた。


 高級ドッグフードノーブルキャニーヌは、真に犬の健康を考えたブランドだったようで。

 シーズー用、ポメラニアン用などの犬種ごとに、必要な栄養価を考えてブレンドしている商品が出てきた。

 または年齢別や、サイズ別の商品もあった。


 ――こいつの犬種なんなの? あと年齢はたしか前に何百年とか言ってたが。そんな年齢用の奴もないが? 小型中型大型用のもあるが、それ無理。サイズは自由に調節可能だ。


 いったいどうしたらいいんだ。

 この世界に来てから一番悩んだかもしれない。

 答えは見つからなかった。


「ノーブルキャニーヌ、楽しみなのだ―」


 嬉しそうな月子を見ると、『お前用の商品ないからダメ』とも言いづらい。


 ――あとで月子に選ばせよう。



 そういった訳で、オレと月子は代わりばんこで見知らぬ少女を護衛していた。


 陰は今頃レベリングでもしているんだろうか。


 それにしても、彼女の能力は呪いに近い。

 というか、どう考えても呪いだ。


 オレの考えていることが正しければ――


 あの能力は、オレがいなければ、ほとんど有効に使えないものだった。

 オレがやり直しで戻ってくることがなければ、それこそ役立つことはたったの一つもなさそうだった。




   ◆《SIDE:鳶折陰》


 陰は既にハルカが護衛をしていることなどつゆ知らず、近隣のダンジョンに来ていた。


 幼馴染に残された時間は、あと二日程度だった。

 それまでに少しでも強くなっておかねば、と陰は決意した。


 陰は数か月前に探索者になったばかり。

 初級の魔法使いウィザードだ。


 得意な属性も特になく、ただ魔力の塊をぶつけるだけの、よわよわ魔法使いなのだ。

 普通は何か一つは得意な属性があるらしいのだが、陰には特にない。


 そういうときはいくつかのパターンに分かれるらしい。


 一つ、不得意属性が何もなく、全ての魔法がそこそこ使えるようになる万能タイプ。

 二つ、全ての属性が苦手であり、最後まで魔法が苦手な魔法使いという可哀相すぎるタイプ。

 三つ、基本属性以外、たとえば氷や雷と言った上位属性が得意なタイプ。


 などである。

 二つ目じゃないといいなあ、と陰は思いながら、魔法球マナボールを低級モンスターにぶつけ、レベリングを続けた。


「あ、陰さん。ちわーす」


 ソロ冒険者の男性が声をかけてきた。

 この男性は、よくこの場所で出会う人で、挨拶をかわしたりしている。


「あ、は、はい。こんにちは、です」

 陰はびくびくしながら言葉を返す。


 明らかに挙動不審である。

 しかし、そのことについて特に何も言われることはなかった。


「今日も精が出ますねえ」


 陰の反応を気にしていない様子に、内心でほっと息をはく。


「え、ええ。まあ、はい」


「いったい、何のためにそんなに頑張ってるんですか?」


「え、えと、そのあのえと。れ、レベルを、あげたいなぁ~……って」


「いいですね。何か、したいことでも?」

 男が陰の顔をうかがうように見てくる。


「い、いえ……。えと、強ければ、守れるかもしれない、から」


「ほうほう。何を守りたいんです?」


 内情を探られているような気がして、不快感を覚えた。

 なんとなく、不安な気持ちになる。


「や、そ、それは、えっと。し、失礼、しますっ……」


 陰は逃げだすように走り去った。



 少し離れた場所で安堵のため息をついた。


「うう……。こういうのも、直さないとなぁ……それよりも今は、陽菜ちゃんを助けなきゃ……」


 ふと違和感を覚えて後ろを振り返る。

 だが、特に何もなかった。


 ここ数日こういうことが増えている気がする。

 とはいっても自分自身の寿命のバーはまだ見えてないから、死ぬことはないはずだった。





────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

ブクマ・高評価・応援コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


ブクマ数が増えてると嬉しいです!

評価が増えてるとモチベがあります!

ここが楽しかったよ! と応援コメントをもらうとやる気がみなぎります!


ですので、応援よろしくお願いします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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