第100話 大切に育てた小早川たちがまさか……

 小早川の上位剣士たちが素早くオレを取り囲むように動く。


 彼らは一様に表情を消し、まるで人形のようだった。


 少し離れた位置では、上総兄弟も、うつろな目をした武祭参加者の剣士たちと斬りあいになっていた。

 兄と弟がお互い背を守りあうようにして、戦っている。


「最強最強こだわるわりに、自分一人で勝つ自信はないのかい?」

 オレがいうと、闇水は鼻で笑う。


「そんなリスクの高い道を選ぶはずがなかろうよ。我はまだ最強になるための道の途中、小早川を増やし、外部の強者を捕らえ、さらに強くし、いずれ最強に至る」


「とんだ臆病者だな。勝つ確信がなければ死地へ赴かないってか」


「我の心を乱そうと? だが、貴様はもう死ぬだけよ。我が作った剣聖四衆の力を見よ」

 闇水が手をパンと打ち鳴らす。

 すると、四人の上級剣士――剣聖四衆というらしいが――彼らの目に光が戻る。


「お、御屋形様……? これはいったい」

 戸惑う剣聖四衆に闇水が言う。


「怪しげな技を使う曲者よ。剣聖四衆よ、打ち倒すのだ」


 困惑していた剣聖四衆はその言葉で、一瞬で困惑を切り捨てた。


「はっ……!」

 四人の上級剣士はオレを取り囲んだまま、隙を探るようにすり足で位置を変え始める。


 ――なるほど。操られていると性能が一段落ちるのか。


 周囲の気配を探った感じだと、操られている剣士の技量はそのままだった。

 だが、思考がない。

 試行錯誤がない。

 閃きがない。


 それは、剣士として、戦闘者として致命的な弱点だった。


 だから、闇水は剣聖四衆とやらの洗脳を解いて戦わせようとしているのだろう。


「いいぜ。やろうか。オレも剣術は道半ばだがな」

 剣の道に終わりはない。

 否。

 おそらく、すべての道に終わりなどはない。

 どこまでもどこまでも、永久に続いていく。


「我の剣聖四衆は、四百年近く磨き続けた血脈の才能がある。それを不断の努力を以って磨き続けてきた者たちよ。どこの馬の骨とも知れぬ貴様なぞに負けぬ」


「……自信たっぷりだな」


「行け、一の剣よ」


 剣聖四衆はつい今まで、オレを全員で取り囲んで襲って来ようとしていた。

 だが、当主の言葉でその動きを止める。

 一の剣と呼ばれた男が、少し眉根をひそめてからオレの前に立つ。


「下郎、貴様の名乗りは不要。だが、貴様を殺した相手を覚えて地獄にて自慢せよ。倉敷小早川家が長男、風雅。参る……!」


 しかし、紫苑がカタナを振りかざしてそこに乱入してくる。

 彼女の目はうつろで、操られたままだ。


「その子は、私に任せて……!」

 蹴られ殴られボロボロになった沙月が立ち上がり、紫苑の剣を止めて斬りあう。


 一の剣がオレを睨みつけた。

「貴様……! お嬢様にも邪法を!? 許せん!」


「……いや、オレじゃないんだけど」


「問答、無用!」

 叫んで切りかかってくる。


 いい斬撃だ。

 死地をくぐった人間の攻撃だ。

 もしかすると前回の参加者かもしれない。


 だが、足りない。


 オレは上半身を軽く後ろに反らして躱す。

 そのまま、口を開く。


「ということで、外法に手を染めた怨霊退治と行きましょう! 今回は、幽霊退治です! はい、胡散臭いですね! まずは怨霊に騙されてる凄腕剣士たちからです!」


 視聴者に説明である。


「貴様何を言っている……!」

 何度も振るわれる刃をすべて回避。


 そして、ただの一回だけ、カタナを振るう。


「ぐふっ……!」

 一の剣が崩れ落ちる。


「安心しろよ……峰打ちだ」

 オレはそう言った。


 だが峰打ちとはいえ鉄の塊である。

 普通に肋骨は折れるし、普通に死ぬ。

 だが彼は探索者としてレベリングをしているようなので、あとで治療をすれば死ぬことはないはずだ。


 残りの三剣が色めき立つ。

「ば、ばかな……!」「風雅がああも簡単に……」「なんと、恐ろしい男だ……」



「さぁ、次はお前らだろ? 来いよ。それにしても可哀想になぁ」

 オレはたっぷり哀れみを込めて息を吐く。


「ど、どういうことだ……!」


「お前らはオレに四人でかかってきたかったんだろ? でも実戦しらずの御当主様に、邪魔されちまったな」


 オレが言うと彼らは色めき立った。


「……はっ! 御屋形様は十年前の地獄を生き抜き、優勝したお方よ! 貴様のその目、節穴が過ぎるぞ……!」


「然り。御屋形様は一の剣で勝てると踏んだのだ。当主の期待に応えられぬは武士の不覚。風雅の未熟よ」


 彼らはそう言ってオレを再び取り囲む。

 ちゃんと警戒して、無謀な攻めをしてこない。

 残りの三人で、確実に勝てる道を進もうとしている。


 正しい判断だった。

 剣士が一体複数などを限られた空間で行えば、相手が格下とはいえ勝つことは格段に難しくなる。

 剣聖四衆はそれぞれが剣技を極めんとしている、上位の剣術レベルを持つ剣士たちだ。


 それに対抗するのは、誰であっても難しい。



 まあ、相手がオレじゃなければ、だけど。



 前後左右から迫りくる斬撃をすべて回避していく。

 まあ、やる必要のない魅せプだ。

 だが配信中のため、少しでも視聴者が楽しめるようにと思ったのだ。


「な、なぜ当たらん!?」

「く……! こやつ、何者だ!」

「だが、押している! 反撃する余裕を与えず、このまま押し切るぞ!」


「「応!!」」


 カタナで防御しながら、自分の体を使って剣聖四衆――いや三衆の視界を遮り、攻撃の誘導をしていく。


「我ら小早川を舐めたこと……! 後悔する間もなく、死ぬがいい!」

 三人が上から斬り下ろす剣筋で攻撃をしてくる。


 はいここ。


 ここでちょっとだけ屈みます。


 すると、ガキィン!!!


 オレの頭の上から一センチで三本の剣がぶつかり合っていた。

 剣聖三衆のオレを殺さんとする攻撃――それらが逆にオレを守る結果となっていた。


 髪の毛は何本か切れた気がするが、まあ誤差だ。


 オレは誰にも知られずに、今回の世界線で最大のピンチを迎えていた。


 だが、それはもう乗り越えている。


 最初は頭の上一ミリでぶつけ合わせようと考えた。だが、それだと頭頂部が寂しいことになることに気づき、一センチにしたのだ。


 気づいてよかった。


 舐めプからのうっかりで頭頂部が致命傷とか、笑えなすぎる……。



 そして、そのまま三人の、オレの真上で刃をぶつけあっていたカタナが、ぽっきりと折れた。

 そう。防御するときにカタナなどぶつけなくても、余裕で回避できたわけだが、あえて相手のカタナの同じ部分があたるように防御し続けたのだ。

 それによってぎりぎりまで耐久度を下げたカタナ同士をぶつけたのだ。

 こうなるのは、必定だった。


「なっ……!」

「か、家宝のカタナが……!」

「な、なんたる……!!」


 オレはそう言っている彼らに、容赦なく反撃をする。


「武器破壊、からのーー? 峰打ち! 峰打ち! 峰打ち!」


 三度、剣を振った。


「ぐえ」「うぐ」「あが……」


 剣聖三衆は砂利の上に崩れ落ちる。

 これで動けないはずだ。



「はい。剣聖三人衆! 退治終了ですね!」


 あ、四人衆だったっけ……。まあいいか。


「さぁ。闇水。お前の自慢の配下は退治し終えたぞ」


 小早川家当主の体を乗っ取った闇水は笑った。


「ははははは! 貴様、愚か者よな……! たしかに貴様も、まあまあ強い。あれほど回避できたのはかなりの技量なのだろう」


 闇水は探るような目つきでオレを見る。


「それにしても貴様、その若さでその強さ……。どのような邪法に手を染めた? 我と同類か……?」



 何やら誤解が生まれていた。




────────────────────────

あとがき


百話! 百話ですよ皆さん!

皆さんの応援のおかげで百話まで到達することができました!

ありがとうございます!


がんばりますのでぜひとも、ブクマ・高評価・応援コメントでの応援をよろしくお願いいたします!!


感想での応援、ちゃんと全部目を通していますよ!

最近返信できていないのは、申し訳ないです……!

でも本当に感謝しています、ありがとう……!


ブクマ数が増えてると嬉しいです!

評価が増えてるとモチベがあります!

ここが楽しかったよ! と応援コメントをもらうとやる気がみなぎります!


ですので、応援よろしくお願いします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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