第73話 ハルカ、炎上
オレが佐藤と理性的な討論をして、オレが勝利したあとのことだ。
オレは警察の探索者対策班にダンジョン前まで来てもらって、佐藤とカズヤを連行してもらった。
証拠として動画のコピーは提出したが、後日また聞き取り調査があるらしい。
――最近はやたらと警察のお世話になっているなあ。
そのあと、呼んだ探索者に挨拶周りをしたりして顔つなぎもできた。
この人脈が将来役に立つこともあるだろう。
また翌日の非探索者である配信者を呼んだ際もそれなりにうまくいった。
ちなみに何回かに分けて、時間を合わせて動画は公開した。
公開したキャンプ動画はどれもかなりの伸びだった。
ダンジョンのリゾート地というバリューも確かだが、配信者それぞれのポテンシャルが高かった。
現在はまだ粗削りではあっても、きらりと光る才能を感じさせる動画ばかりだったのだ。
まあ、未来を見たオレが成功者を青田買いのように勧誘したから当然と言えば当然なのだが。
ここまでは順調だった。
順調でないのはここからだ。
オレは璃音に頼んで、神崎誠を調べてもらっていた。
その結果だが――
思うような結果が出なかった。
彼と佐藤のつながりがなかった――というわけではない。
神崎は佐藤に、このダンジョンの話をしていた。
高校生が持つには過分なダンジョンだとか。
リゾート地として最高で、まともな人間が管理すればきっとうまくいくだろうとか。
明らかに誘導しているような内容はあった。
だが、それが「指示したかどうか」となると途端に話は怪しくなる。
これ単体じゃ追い詰められないな……。
という感じだった。
ここだけ見ると、『神崎は佐藤に雑談を振った。その結果佐藤が暴走した』としか見えない。
佐藤の傾向を知っていた神崎が、佐藤を誘導したように見える。だがそれは事情に詳しくない人が見たら邪推にしか見えないし、ただ因縁をつけているだけに見える可能性が高かった。
神崎はいくつか違法行為に手を染めており、別件でつぶそうと思えばつぶせる。
だがそれではストーリー的に面白くない。
視聴者たちが面白味を感じづらいはずだ。
「うーん」
オレは腕を組みながら、自室でうなっていた。
「どうするかなー……」
せっかく敵対してくれたのだから、せめて有用に使ってあげたいというのが人情というものだろう。
神崎の死を無駄にはしたくない。
正直、現状はすごく手を出しづらい状況だった。
今の証拠のまま殴り掛かっても若干の不利。
できたら神崎を
と思っていると、スマホが鳴った。
『あ、もしもし! ハルカくんですか!? 真白です! ちょっと大変なことになっています! 今送ったアドレス見てください!』
真白さんに言われるままに、彼女が送ってきたアドレスを開く。
それは、動画だった。
『このダンジョンを最初に見つけたのは、僕たちなんです!』
見知らぬ探索者がそう主張していた。
そのダンジョンというのは、ハルカが見つけたダンジョンのことだった。
栃木県日光市の山奥にあるダンジョンの前で、高校生くらいの3人組がそう言っている。
『僕たちは「これどうしたらいいですか?」ってハルカに相談したんです! そうしたら、いつの間にかハルカが発見してたことになってました! どうか皆さん、助けてください!』
彼らは三人で頭を下げる。
『ダンジョン法にのっとった僕らの権利を取り返すのを手伝ってください!』
彼らは自分たちにどんな権利があるのかを説明する。
『まずダンジョン発見報酬です!』
それは「ダンジョン対応基本法」に基づき、ダンジョンを新たに発見した者(または団体)には国から一定の報酬が支払われる。
この報酬は、ダンジョンの大きさや特性、経済的価値などに応じて変動する。
『次にダンジョン内の初回リソース採取権です!』
発見者は、最初の一定期間に限り、ダンジョン内の資源採取やモンスターの狩猟を優先的に行う権利を得る。
ただし、その活動はダンジョン管理ギルドの監督のもとで行われ、安全確保や環境保護のガイドラインに従う必要がある。
『そしてダンジョンの命名権!』
ダンジョンの発見者は、該当のダンジョンに名前をつける権利を持つ。
これにより、後の観光や商品展開などで名前が使われる際にはロイヤルティが支払われる。
『またダンジョンの経済活動!』
ダンジョン周辺の土地価格は上昇し、発見者が土地を所有していれば、ギルドや企業からの土地取引の提案が増える可能性がある。
発見者が自らのブランドや企業を立ち上げて、ダンジョン関連の商品やサービスを提供することも可能。
『ダンジョン発見の情報公開』
ダンジョンの発見情報は基本的には公的機関が中心となって公開されるが、発見者自身もその経緯や発見時のエピソードをメディアや書籍、SNSなどで公開することで、追加の収益を得ることもできる。
などなど、発見者の報酬が全て彼らによって紹介された。
そう、余すことなくすべて。
「雑だなあ……」
これらは通常の高校生は知り得ない。
また、彼らが四つ目に言った、『ダンジョンの経済活動』。これなんかは致命的だ。
彼らはその土地を所有していないというのに、なぜこれを言ってしまったのか。
裏で誰かが糸を引いているのは目に見えている。
公的機関が調べれば彼らが嘘をついていることはすぐ明らかになるだろう。
『ハルカくん。動画は両方見ましたか?』
「ん? 両方? あ、二個あったのか。待ってね」
オレは真白さんに言ってもう一つの動画を開く。
すると今度は中年の女性が映っていた。
彼女はダンジョン近くの山で抗議をしていた。
『断固! 反対します! ダンジョンリゾート化反対!』
『そうだー!』と後ろから同意の声が飛ぶ。
『このダンジョン周辺にはー! 貴重な動植物が残っているー! ダンジョン開発を許すなー!』
『この地域の伝統が、ダンジョン開発で消えてしまうー! ハルカは山を国に返納しろー!』
「なるほどなぁ」
『だ、大丈夫ですからね! ハルカくん! 何かあってもお姉ちゃんが守ってあげます……!』
真白さんは電話越しに震える声でそう言った。
「いや、大丈夫だよ真白さん」
『え、でも、地元民の方たちが反対してますし……』
「オレはちゃんと地元の人たちに挨拶に行ったんだ。そのときは、みんないい観光地になるかもしれないって歓迎してくれたんだ」
『でも動画だとすごい反対してますけど……』
「うん。だからちょっと調べてみる。教えてくれてありがとうな。真白さん」
そしてありがとう神崎。
動いてくれて助かったよ。
若干手詰まりだったんだ。
『はい、はい……! 何かあったらお姉ちゃんにすぐ言うんですよ、ハルカくん。絶対に、守ってあげますからね』
全然問題はない――とは思ったものの、その気持ち自体はすごくありがたかった。
「うん。本当にありがとう。真白さん」
その日、オレは初めての炎上を経験した。
ネット上では、高校生探索者チームからダンジョンを取り上げた悪魔のような扱いだ。
また地元民の反対を押し切って、金ばかり稼ぐような風刺画すらでてきた。
たとえば、ダンジョンの入り口前で札束を見せびらかしているハルカ。それを地元民や動植物たちが悲しそうな顔で見つめているイラスト。
他にも数人の高校生を踏みつけ、『発見権』と書かれた大きな旗を持っているハルカの絵などだ。
オレはそれらを見ながら思った。
まあ、好きなだけ叩け叩け。
全部すぐに反転するからな――と。
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あとがき
皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!
ハルカくんエンチャントファイア!
燃焼のバッドステータスがつきましたね。
さあ、このまま燃え尽きてしまうのか……
もう、どうしようもないのか……?
僕らは仲間だったはずじゃないのか……?
教えてくれよネット民のみんな……!
教えてくれないならオレが
次回、炎上燃焼大延焼! デュエルスタンバイ!!
まあそんな感じです。
楽しめたよー、次も読むよーって方は、フォローと★をよろしくお願いいたします!!
どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!
もちぱん太郎
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