第54話 限界ギリギリ! 勝者予測不能の超絶バトル!

「くっ……。こんな化け物と戦うハメになるなんてな……。さすがに、勝てないかもしれない……」


 オレは苦しそうにいう。


 月の精霊王は張りのある声で言った。


『余に逆らうこと、それがお前の致命的な過ちだ。最初から余が臣民となることを受け入れておけば、こうはならなかったのになぁ……! 今からでも、我が配下に加わるか……?』


 すべてが流動的な、人にはわからぬ理に支配された空間で、オレは月の精霊王を睨んだ。


「く……っ! だが……」


 オレが言葉を紡ぐ前に月の精霊王は言った。


『否ァ! やはり入れてやらぬぅ……! 一度断った貴様は無様な姿を晒し、永久に閉ざされた闇のはざまに消え去ることこそ、相応しい……!』


 月の精霊王の鎧に覆われた腕に、青白い月の力が集まっていく。


 精霊界における月の理念は、物質界の月の象徴を体現している。

 ここには月という概念のみが存在している。物質的には存在しなくても、この精霊界においてそれは存在しているということと同義だ。

 象徴は一種の幻であり、本質のみが存在する。


 精霊界の月――その概念は物質界の月が持つすべての概念、意味、そして力を持つ。


 加えて言えば、この場は月の精霊王が支配する領域。


《月の神髄》といっても過言ではない、恐るべき力を感じる。


『では、我が月の絶対的な力を目の当たりにしろ。お前は最期の時を前に、この威光にひれ伏すことになるであろうな!』


 コメントの声が届く。

【ハルきゅん……! 死なないで……!】

【まさか、ハルくんが苦戦するなんて……。やられないで! ハルくん!】

【そんなに、恐ろしい奴なのか……】


 月の精霊王が威厳に満ちた声を出す。




『――月光嵐』




 静寂の次元が、緊張と期待で震えたかのようだった。



 突如、その空間は、まるで日没を忘れたかのように、月の力が溢れる光に満たされた。



 月はその全能を解き放ち、其の光は凄まじく広範囲を照らし出す。



 まるでオレのすべてを見透かすかのように月光は輝く。

 その光は凛とし、容赦なくその刃をこちらに向けた。

 月の光そのものが刃と化している。


「ぐっ……!」


 光の粒子は細かく、そして無数に、煌びやかに舞い踊りながら、空間中を埋め尽くす。


 それは絶え間なくオレの肉体を切り裂き続ける。


【ハルカくーーーーーん!!】


 絢爛とした月光の渦は美しく、かつ恐ろしさに満ちていた。


 人によってはその美しさに心奪われ、そのまま存在を消し去られてしまうだろう。


「ぐ、あ……ぁ……」


 光の嵐は、逃れようのない圧倒的な力と存在感を持ち、その強烈な輝きと力にオレはただただ押しつぶされる。


 その力は厳しさと獰猛さを纏い、絶えることなくオレを責め立てた。


『ククク……。まだ死なぬか……』


「まだ……。まだ、死ねるかよ……。みんながオレのことを見てんだよ……。かっこわりぃ姿をさ、見せてたまるかよ」


【ああああ! すごい血が出てるよ! こんなの無理だよ……!】

【誰か助けてあげて!】

【逃げて! 逃げてよハルカくん……!】


「大丈夫だよ。みんな……。なぁ! 負けて、たまるかよ……!」

 オレは様々な攻撃を繰り出す。

 しかし、どれ一つとして効果を上げることはできなかった。


【あああ! 攻撃が、どれもきいていない……!】

【ダメージすら与えられないんじゃ、どうしようもないよぉ……】


『天晴れよ。滑稽さもここまで極まると、余の眼に映るに足るものとなるな。余に欠片でも勝てると――否、勝とうと思うことすら不遜であることを弁えよ! 余は月の精霊王――ルナー・マジェスティなり』


 月の精霊王は呵呵大笑し、勝ち誇る。

 その身体には傷一つついていない。

 ちょっとした傷などは自動回復で消えていった。


 逆に、オレはもはやボロボロだった。


 ボロボロに見えるように演出した。


 さっきの月の光の攻撃はなかなかよかった。


 ぱっと見た感じ超強そうに見える辺りが最高だった。


 だが、攻撃が規則的過ぎて、一瞬の時間すら必要なく見切ってしまった。


 下手すると勝手に外れそうになる攻撃に、わざと当たりに行ったりもした。


 この月の精霊王がどんな遍歴をたどったかオレにはわからない。

 だが相当長い時間、指輪に封じられていたのだろう。

 もしくは雑魚狩りしかしていなかったかのどちらかだ。


 攻撃に思考がない、技術がない、策がない。

 ただ単調な力任せの攻撃。


 ――こんなので勝てるなんて思ってるなんて、ナメられたもんだなぁ。


 オレはぼろぼろの身体を引きずり、つらそうに声を出す。


「みんな、頼む……助けてくれ……」


【ハルカくん!?】

【助けたいけど……でも俺たちじゃあ……】


「みんなの力が、必要なんだ……」


【どうしたらいいの!?】

【なんでもするよ……!】

【ん? 今なんでもするって言ったよね?】


「簡単なことだよ……あいつの、精霊の倒し方は、知ってるよな? オレが広めたアレで――助けてくれ……。オレと一緒に、戦ってくれないか……?」


【はっ……! まさか……!】

【もしかして……!?】


『クハハハ! どのような手段であろうと、覚醒した余を傷つけるには能わぬ! 能わぬぅ!!』


「それはどうかな……!?」


 オレは配信道具をいじって、コメント音声を自分の脳内出力モードから、外部出力に切り替える。


「行くぜ……! 精霊王! これが、オレたちの――人間の美しい絆の力だ――!」


 オレの叫びを皮切りに、人類が今まで研鑽に研鑽を積んできた、美しき音の調べが、その叫びを月の精霊界にとどろかせた。


 古の時代――人は、それを呪いと読んだ。

 次に決して叶わぬ敵と戦うときの武器とした。

 さらに現代では、法に囚われぬ刃となった。


 戦えぬ人々たちも共に磨き続けた、鋭き刃。


 それが今――解き放たれる。


【バアアアアアアカ!】

【精霊王のバーーーカ!】

【間抜け!】


 など様々な声が精霊王に直撃する。


『ぐ、ぐぬ……』


 効いて……いるのか?

 あんまり効いてない……?


『貴様のような人間風情が、余に向かってそんな口を利くとは! 許し難い! その程度の罵声で、倒れるなどありえぬ!』


 月の精霊王が盾を振るった。

 その衝撃波でオレは吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられ、苦しげにあえぐ。


「ま、まだだ……。みんな……」

 クソ……。思ったよりも効果が薄い……!


 今やオレの視聴者は十万を超えている。


 だが、その『バーカ』でも倒すことができない。


 視聴者が納得できるように倒さなければ……!

 いったい、どうしようか……。


 そんなふうに思うオレに月の精霊王の攻撃が迫る。


 彼の掌に宿る半円形の盾は、月明かりに照らされ、宇宙の極光のように輝きを増していく。


『これで終わりだ――極光月輪投!』


 その声が響くと、盾は天空を駆け抜ける。

 極光が空間を彩りながら、その美しい光の帯が飛翔する。

 極めて高速で飛び出した盾は、まるで月の使者が天空を舞うかのようだ。


 この技はただの物理攻撃ではなかった。

 飛翔する盾は時空を裂き、次元すらも断ち割る。

 その切れ味は、物質の有無にかかわらず、すべてを切り裂く。

 空間を切り裂くその極光は、オレの腹部に直撃した。


「かはっ……」


 血を吐いた。


【ハルきゅうううん!!!】

【死なないで!】


 ちなみに血を吐いたのは、自分でほっぺたをちょっと噛んだからであった。



 ――さて、どうする? オレ。いったいどう倒せば、視聴者が納得するんだ……!?

 オレは必死に頭を回す。


『余の力に恐れを成せ! 余は万物を超えた月の王なり……!』

 月の精霊王は最高に調子に乗っていた。


【こんの馬鹿精霊! どうせあんたもただ頭がおかしいだけでしょ! 精霊なんてみんなそうなんだから、調子に乗らないでよ! ずっと封印されてたくせに! ハルきゅんいじめんなバーーーカ! バーーーカ! バーーーーーカ!】


『ぬぐっ……』


 その実感のこもった声は、ちょっとだけ精霊王にダメージを与えていたようだった。





────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

さあ。どっちが勝つかわからないですね!

来週はもっと盛り上げていきたいと思っています!


どっちが勝つかわかる予知能力者は★とフォローをお願いします!


これからも、皆様に喜んでいただけるような作品をお届けするために頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!



もちぱん太郎

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