第22話 【悲報】人気配信者さん逮捕される!?

 夜の廃工場――オレはそこでチンピラたちをふん縛り、真白の体力回復を待っていた。


 しばらくすると、パトカーのサイレンの音が到着する。

 おそらく視聴者で、この場所がわかる人間が通報したのだろう。


 パトカーがけたたましいサイレンを鳴らしながら、五台ほど夜の廃工場に止まった。


 チンピラたちは警察に捕らえられた。

 オレたちは、というと、事情聴取のために協力を要請された。

 といっても配信をしていたため、悪いのはチンピラたちであるということはわかっているらしい。

 後日でいいから事実確認のために協力してほしい――とのことだった。


 そして警察の一人は、具合の悪そうな真白を心配し、パトカーにあった水をもってきてくれたのだ。

 前回の世界線でのブラック事務所のせいで人間不信になっているオレは、少し驚いた。


――いい人もいるんだな。


 オレがそうやって一息をついた――その時だった。



 そこへ、圧倒的な暴力の気配が突然生まれた。



 先ほど戦ったチンピラ探索者たちなど、まったく相手にならないほどの圧力。


 チンピラたちの、仲間か――?


 突然、目の前にいた警察の一人が吹き飛んだ。

「――がっ!?」

 吹き飛び、木にぶち当たり、崩れ落ちる。


 オレはため息をついて、マジックバッグからブラッドシャドウの斧を取り出そうとした――。



 その暴力の気配の源は――




「師匠! 大丈夫ですか!? 配信見るの途中でやめて、助けに来ましたよ!」



 小早川沙月であった。

 彼女は長い黒髪を風にたなびかせながら、整った顔にフッと笑いを浮かべ、キメていた。


「敵は、こいつらですか!? ――あんたら、カタナの錆にしてあげるわ! って、警察!? ……そう。なるほどね。まさか、悪徳探索者と警察が繋がっている、なんてね――」


――ええ?

 あまりの出来事にオレの思考は一瞬停止してしまう。


「日本の警察権力で腐っていることは、知っていたわ。ネットに書いてあったもの――」


 ソースはネット……ってコト!?


「その腐敗した悪臭は――決して隠せるものではないわ。その闇を――我が小早川家が断ち切ります――!」


 オレを守るような位置取り。

 小早川沙月は警察にカタナを向け、強く威圧していた。


「今、全員斬り捨てます――」


「待って。待って」

 オレは小早川沙月を止めようとするが、聞いてくれない。


「大丈夫です。師匠は手を出さないでいいですから。汚れ仕事は、この私に――」


「そうじゃないよ! 待ってってば!」


「大丈夫ですよ。師匠――」


 そういって小早川沙月はガンギマリな感じの笑いを浮かべた。


「最悪、国家を敵にして捕まってもなんとかなります。ムショ帰り系配信者という手があります」


「それはなんとかなってないが!?」


「――ですので、ご心配なく。では、覚悟しなさい腐れポリスメンどもっ――!」

 小早川沙月はオレに背を向けたまま、とち狂ったことを言った。


「待て!」

 オレは強く言ってから、小早川沙月の黒髪を掴んで、犬のリードのように引っ張った。


「わん!?」


 ぐえ、とくぐもった声を出して、小早川沙月は止まった。


「な、なにするんですか師匠――」


 沙月は涙目でこちらを見た。


「まずオレは君の師匠じゃない。そして、ここにいる警察の皆さんは、ちゃんと真面目に仕事しにきた方たちだ」


「へ……? 腐敗は? 国家の闇は? 腐った権力は?」


「ないよここにそんなもん」


「えっ!?」


「オレが、悪徳探索者たちを倒した。その後で通報を受けて来てくれたのが、この警察の方たちだ」


「え……? いやだって、ししょ……ハルカさん。弱体化した状態で、探索者に勝てるわけが――」


「詳しくはWEBに乗ってる。というか、配信は最後まで見てないのか?」


「いや、それがぁ――ヤバって思った瞬間、駆けだしてきたので……」


「それにしても来るのはやくない?」

 ここ、栃木だぞ。


「配信のネタが宇都宮餃子で、たまたま近くのホテルにいたんですよ……」

「……君そんな俗なネタやってたっけ……?」


 小早川沙月が姿勢を正す。目の煌めきが増したような気がした。


「は、はい! 師匠が私のことを聞いてくれてる!? そうなんです! 師匠が色々やってるから、私も配信のネタ増やそうかなって!」

「まぁ、いいや。あと師匠禁止」


 オレが言うと小早川沙月は見るからに気落ちした様子をみせる。


「……はい」

「それでさ……本当に善良な警察の皆さんなんだ」


 オレが周囲に目を向けると、他の警察は警戒した様子で小早川沙月と、その近くにいるオレと真白を取り囲んでいた。

 探索者としてあまりレベルを上げていない警察は拳銃を、そして、探索者としてレベルを上げていそうな警察は警棒を持って、油断なく小早川沙月の動きを見張っている。


「えええええ?!」


「あの人も、ね」


 オレは最初に小早川沙月に押されて吹き飛び、今は木の根元で目を回している警察を見た。


 小早川沙月は顔を青くした。


「え……? あの人、もしかして、私が……?」


 口を半開きにする小早川沙月。


「うん。もしかしなくても君だね」


「わたし、何かやっちゃいましたか……?」


「やっちゃったよ。間違いなくね。やらかしちゃってるよ」


「あああああ! 違うんです! 違うんですよお巡りさん! ちょっとした勘違いなんです! NO MORE 逮捕!」

 必死に言い募る小早川沙月だった。


 あとノーモア逮捕はもう逮捕されてるだろそれ。


 しかし――小早川沙月の願いは叶うことはなかった。


「続きは署で聞こうか」

 聞いたことのある感じのセリフを言われ、連行されていった。

 チンピラ探索者たちと共に。


「……小早川沙月さん。一応、明日オレ事情聴取にいくから、そのとき弁護しとくね」


「ししょぉ~~~!!」

 小早川沙月の声は遠く離れていった。




「……ハルカくん。あの人、なんだったんですか?」


 そんな真白の純粋な疑問――


 オレは、それに答える術を持たなかった。






 ちなみに小早川沙月は未成年だったことや、勘違いだったことも相まって、厳重注意の上で釈放されたらしい。

 だが警察に捕まったという実績を解除し、警察の資料に名前が残る結果となった。




 その日オレは真白と一緒に鈴木家に戻り、大変感謝をされた。

 まぁ、嫌な気分ではなかった。

 部屋が余っているということでオレは鈴木家に泊まらせてもらうことになった。


 オレと鈴木のおっさん。男同士、同じ家、宿泊――。

 何も起きないはずがなく――。


 オレは前回の世界線で厳しい指導をされたうっぷんをはらすように、金属まみれの鍛冶指導をしてやった。


 それだけで相当、コツを掴んだ様は、さすが前回の世界線の鍛冶聖だけだったことはあると思えた。


 この分なら沙月の翠風剣も、わりと早めに修復できそうだった。






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■とあるゴシップ週刊誌の記事■


◆【独占スクープ!】人気ダンジョン配信者S.Kは反社!? 驚きの裏の顔を大暴露!


 ネット上で驚異的な人気を集めるダンジョン配信者「S.K」。

 彼女は、黒髪ロングの15歳、高校一年生とされている。

 その美少女の顔とは裏腹に、彼女は剣術をたしなみかなりの腕前だという。

 さらに15万人を超える登録者を持つ超人気ダンジョン配信者である。


 だが、最近当編集部に驚きの目撃情報がもたらされた。

 ある日の深夜のことだ。

 チンピラのような男たちがパトカーで護送されているとき、近くの別のパトカーにS.Kが乗っていたという情報が!


 S.Kは一体、なぜ反社会的な人間たちと同じ場所にいたのだろうか?

 彼女の裏の顔とは一体…?

 この情報は、彼女のファンにとって大きな衝撃となること間違いなし!


 当然、この目撃情報だけでは断定はできない。

 しかし、彼女の周りにはまだまだ知られざる事実があるのではとの噂が飛び交っている。


 この情報をもとに、当編集部は独自の取材を進めることを決定。

 S.Kの真の正体、そして彼女の裏の顔をこれからも追い続けていく!








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あとがき


皆様に応援いただいているおかげで、週刊現代ファンタジーで38位にランクインしました。


本当にありがとうございます!



ここまで読んでくださってありがとうございます!


楽しんでいただけましたら、★やフォローなどで応援いただけると励みになります!

また沙月ちゃんせっかくきたのに可哀想! と思った方も★をぜひ。彼女はとてもいい子ですよ!



あともう一つ。

謝罪です。

前回のあとがきで、次回はBBS回!と言いました。

が、その前に一話はさみました。

多分50人くらいの方を勘違いさせてしまったと思います。すみませんでした。


本当のBBS回は次からです!



どうぞこれからも、『やり直し配信者』をよろしくお願いいたします。



もちぱん太朗

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