第87話 不吉

 それから2日程、私は赤坂さんや爽香、奈美穂と共に試行錯誤してみた。

 マイカちゃんと話によると、ポージングだけじゃないらしいので、思い切ってベイビーベイビーの服を着てダンスしてみたらいいんじゃないかと思い、レッスンに持ち込んだりしてみた。


「悪くは無いと思うけど……」

「正解は分からない……」

 爽香と奈美穂も撮った、写真を見ながら、頭を傾げる。


「いや、いい写真だよ。でもこのこれなのかなあ?子供服カタログって感じじゃないよね?」

 爽香は、私のダンス中の写真と、着ているスカートを見比べながら言った。

「これを、私達のファンに見せたら多分絶賛してくれると思うけど……。これじゃあ服の写真じゃなくて好葉の写真だよねー」

「でも、そのマイカさんの意見では、ポージングの問題では無さそうですし、こういうのでもいいんじゃ無いですかね?」

 奈美穂と爽香は反対意見だ。

「提出って1枚だけ?」

「うん、一応渾身の一枚を、って」

「難しいですね。なんか好葉の魅力みたいなのアピール出来るようなの……。好葉の魅力……、最近なんか褒められたこととかないですか?」

 奈美穂に言われて私は考え込む。

「うーん、最近褒められたこと……根性が悪い、とか……我が強い、とか?」

「それは絶対に違うなぁ」

 私達は頭を抱える。


「あ、まだやってるのー。好葉の問題も大事だけど、次の配信ライブの話し合いもちゃんとやってね」

 赤坂さんがレッスン室に入ってきた。

 私達は、はぁい、と立ち上がる。


「あと明後日、急だけど仕事入ったよ。スターライトブーケ、花実雪名さんの主演の映画のプロモーションがあるらしいんだけど、急遽Lip‐ステップに、映画で撮ったライブシーン再現してもらいたいって。花実さんと久々に共演だね」

 赤坂さんの言葉に、爽香も奈美穂もわぁとはしゃぎだした。

「やだ、映画のプロモーションとか初めてです!」

「売れっ子みたい!」


 そんなふうにはしゃぐ二人を後目に、私は少し重い気持ちになった。


 まだ雪名さんと話ができていない。


 メッセージも返ってこない。


 こんな状態で会うのは気まずすぎる。


 いや、逆に直接会って話が出来るいいチャンスかも。

 しかし、無視されたら?


「どうしたの?好葉元気ないね」

 赤坂さんが心配そうに聞いてくる。私は慌てて笑顔を見せた。

「全然!元気元気!」

「再テストが気になっちゃうのはわかるけど、気持ち切り替えて仕事していくよ」

「はい、ごめんなさい」

 私は急いで謝ると、すぐに写真をカバンにしまい、ベイビーベイビーの服を脱いでレッスン用のTシャツに着替えた。


 とりあえず今は今の仕事に集中しなくては。


 着替えを終えて気合を入れて歩き出した途端、履いていたダークグリーンのパンプスのヒールがグキッと曲がった。


 雪名さんから貰ったパンプス。かなり丈夫なはずなのに、折れにくそうなデザインなのに、ヒールが根本からポッキリ取れてしまっていたのだ。


「なんか、不吉……」

 私は靴を脱ぎながら呟いた。










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