第74話 根性

 喉の酷使はするな、と赤坂さんに注意されていたが、やっぱりあのロックナンバーはかなり疲れた。あれは何度もやったら多分喉に良くない。


 ステージは成功だった。

 アンコールも2回やったし、最後までやりきった。


「お疲れ様でしたー」

 私達はスタッフに叫ぶ。スタッフから拍手がきて、気分を高揚させたまま一旦楽屋に戻る。

 疲れた。本当に疲れた。

 汗を拭きながら水分補給をしていると、楽屋のドアがノックされた。

「みんなーお疲れ様ー」

「オオタカさん!」

 私達は立って挨拶する。

「いいよ、疲れたでしょ。座って座って」

 そう言いながら、自分も椅子を持ってきて座る。

「いやぁ、若いっていいね。僕もよくイベントで若い歌手の子と一緒に出ること多いけどさ。若い子には敵わないって思う事多いよ」

 始まる前とはうってかわった態度のオオタカさんに、私達は戸惑ってしまった。

「いえ、オオタカさんのステージも、とても勉強になりました」

「はは、そう言ってもらえると嬉しいね。僕も昔は先輩からいっぱい勉強させてもらったよ」

 オオタカさんは水を飲みながら笑った。

「本当に君達の事は全然知らなくて、突貫工事で曲聞いて今日演奏させてもらったんだ。正直、まあネットニュース賑わせてるだけの話題作りだけしてるタイプのアイドルかと思ってナメてたんだ。ごめんね」

「いえ……」

 正直ちょっとショックだった。ナメられてるかな、とはちょっと思ってたけど。

「でも、すごいね。君」

 オオタカさんは奈美穂を指さした。

「歌上手いね。いいシャウトだ。そして君」

 次に爽香を指さす。

「いい表情してた。客を煽るのがとても上手い。そして君」

 最後に私を指さした。

「君、僕にバチバチの敵対心があったでしょ?」

「え、いやぁ……その」

 バレてた。ヤバ。

「僕があの歌、最近歌ってないの知ってたんでしょ?それでステージに上げようとするなんて、根性が悪いね。最高にいい。敵対心の無い芸能人なんて面白くない」

「あ、えっと」

 えっと、怒られてる?褒められてる?私は疲れていたので混乱した。

「君達がもっとこれから売れても、是非またゲスト呼んでほしいね。またここにツアーきてよ」

「はいっ!勿論です」

 私達は立ち上がって大きな声で返事をする。

 オオタカさんはそのまま黙って笑顔で楽屋を去っていった。


「くそー、結局いい人かよー、最後まで老害でいてくれよぉ」

 爽香は褒められて嬉しいのが隠しきれなくて、口角を上げたまま文句を言う。私はぼんやりしたまま二人に確認してみる。

「ねえ、私って褒められた?」

「好葉はねえ、根性が悪いって褒められてたよ」

「そっかぁ、えへへー」

 疲れてよくわからないけど、褒められてたならいっか。


 着替えと片付けを終えて、今日泊まるホテルに向かうためにバスに向かった。

 バスに乗り込む前にスマホを確認してみると、なんと雪名さんから着信が残っていた。

 体調は良くなったのだろうか。もう時間が遅いけど返していいだろうか。一瞬悩んだけど、疲れとライブ終わりの興奮で判断力が鈍っていたので、勢いよく私は雪名さんに電話をかけた。

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