第60話 仕事モード
さっきの踏みつけの緊張もあって、どっと疲れてしまった私は、ピンヒールを脱いで裸足になった。
「やっぱしまだ慣れないと疲れますね」
「ピンヒール、とっても良かったわよ。でも」
雪名さんは、私の裸足の足を優しく撫でた。
「素足を見たら素足も欲しくなっちゃうわね。まだまだ夜は長いし」
雪名さんは上機嫌になっている。
ああ、やっぱり結構な重労働になりそうだ、と私はワインを飲み干した。
しばらくお酒を飲みながら、軽く足や太腿を踏んで戯れていたが、なんだかさすがに眠くなってきてしまった。
「もう、眠い?」
雪名さんが囁くようにたずねるので、私はこくこくと頷いた。
「今布団出すわ」
「いえ、雪名さんにお手数かけさせるわけには。場所さえ教えてもらえれば自分で……」
「そう?じゃあそこの押し入にあるから勝手に出して頂戴」
雪名さんに言われて、私は眠気眼を擦りながら押入れを開けた。
この布団で寝るのも2回目だな、と思いながらセッティングする。
セッティングを終えてふと雪名さんの方を見ると、雪名さんはソファーに足を組んで、優雅にウイスキーの瓶を開けながら何やら雑誌を眺めていた。
いや、よく見たら雑誌じゃない。
子供服のカタログだ。
それも、靴下・靴のページだ。
大人びたメイクをした小学生くらいのモデルが、大人びた表情で可愛らしいポーズを取っている。
私はふと、今日の飲みの席でマイカちゃんが言っていた事を思い出したのだ。
『需要とかありそうだけど。シンデレラサイズモデルとか』
シンデレラサイズモデルがどこで募集しているのかわからないけど。
小学生が大人びたメイクでモデルしてるなら、大人が子供服のモデルをしてもいいのではないか。
「雪名さん、そのカタログ見てもいいですか?」
「いいわよ」
「あ、あと、これ以外の子供服ブランドのカタログとかありますか?」
「あるけど。どうしたの?眠くないの?」
雪名さんは呆れながらも本棚に行ってどっさりとカタログの山を持ってきてくれた。
私はそのカタログを一つづつ見ていき、ホームページなどを調べていく。
「好葉?寝ないの?」
私がカタログを真剣に見ている横で、再度雪名さんが問いかけてきた。
「ちょっとだけ、お仕事の事で調べたいことが出てきて」
「ふうん」
雪名さんはつまらなさそうな声を上げる。
少しして、カタログとにらめっこしている私の横に、雪名さんがピタリと寄ってきた。
「ねえ好葉、まだ寝ないなら、もう少し踏みなさいよ」
私の足をツンツンしながら甘え声で命令してくる雪名さんだったが、私はその時完全に仕事モードに入ってしまっていてほとんど雪名さんの声が耳に入ってきていなかった。
なので、曖昧に返事をしただけで、あろうことか雪名さんを無視してしまっていたらしい。
次の日、不貞腐れて私の敷いた布団に包まって寝ていた雪名さんから不機嫌にその件を詰られ、私は必死で平謝りすることになるのだった。
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