第49話 ラストソング

「今までごめんね。結音が私を守るって言ってくれて嬉しかったよ。また一緒に歌おう。私達のライブに来て」

 息を吐くように嘘話をつらつらと語る千奈は、どう考えても結音より女優に向いていそうだ。

 結音は、あー、とか、うー、とか言いながら、一生懸命状況を整理しているようだ。


「ウン。分カッタ……私モ、意地張ッテ、ゴメン……」

 降参したらしい結音は、棒読みで頷く。千奈はパッと顔を明るくしてみせた。

「結音!」

 勢いよく千奈は結音に抱きついた。

 やっぱり千奈のほうが女優に向いてると思う。


「あっ!ていうか!!これってLIPの皆に失礼じゃないの!?これLIPの配信ライブだよ?そんな、内輪揉めみたいなことを……。LIPのファンブチギレてない!?」

 結音が慌てたように言うので、私はぽん、と肩を叩いて言った。

「大丈夫。今回、花水木組と一緒に配信したのは……」

「今度!花水木組のやってるバラエティ『ハナミズキの種』に、ゲスト出演させてもらうからです!それも2週連続!!」

 爽香が元気にそう宣言する。


 多分世間的には、花水木組のこの仲直りに注目してしまい、私達がなんの番組のゲスト出演しようがどうでもいい事だろう。

 でも私達のファンにとってはそうではないのだ。

「わあ、見て見てファンのコメントー。皆大歓喜だよ〜」

「えへへー、ずっとハナミズキの種みたいな番組に出たかったんだよねー!今度は私達が番組乗っ取っちゃうんだもんねー」


 私達は、薬師寺さんが提示してきた対価の中からこれを選んだ。これが一番ベストだと思ったのだ。

 最近、莉子ちゃんの件があったり、映画での役作りで名前が挙がったり、名前は話題に上げてもらってきた。

 でももっと私達自身を知ってもらう必要がある。たった一曲歌番組で歌っても、別なアイドルに話題を掻っ攫われてしまうレベルの私達は、もっと足掻く必要があるのだ。それを最近はヒシヒシと感じている。だから色々な仕事をする必要がある。


「さて、もう仲直りは済んだかな?ラストの曲行こう!!」

 私達は千奈のスペースを空けてスタンバイする。千奈は結音の隣に立つと、私達の方を向いて、声を出さずに、ありがとう、とパクパクさせた。


 イントロが流れる。


 ライブ最後の曲が始まった。






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