冷血女王様は踏まれたい

りりぃこ

第一章 ライブ編

第1話 氷の女王様

好葉コノハ、早くしてくれないかしら」

 氷の女王様、と称される人気女優、花実ハナミ雪名セツナ。24歳。長いストレートの黒髪で鋭くも大きな瞳。今、数多くのドラマや映画に引っ張りだこの美人女優だ。

 彼女に、私みたいな三流の売れないアイドルが逆らえる訳がない。

 私は恐る恐る、雪名さんがしゃがみ込んでいる前に立つ。

 雪名さんは、少しだけかがんで土下座するような格好になった。

「ほら、やりなさいよ」

「すみません、失礼致します……」

 私はそっと雪名さんの背中に足を乗せた。


「ほら、早く、勢いよく私の事、踏みつけなさい!」


「は、はいっ」


 私は泣きそうになりながら、素敵な美しいスタイルの雪名さんの背中を思いっきり踏みつける。

「もっと。そんなの、マッサージにもならないわ」

「はいっ」

 思いっきり力を入れて再度雪名さんを踏みつける。

「そう、その調子よ」

「はいっ」

 私は泣きそうになりながら何度も雪名さんを踏みつける。

「それよ。いいわよ好葉」

「い、痛いなら痛いって言ってくださいよ?」

 私はそういいながら力強く雪名さんを踏みつける。すると雪名さんは私をキッと睨み上げてきた。

「何言ってるの?むしろもっと痛くしなさいよ」


 その後何度か私に踏みつけられて満足した雪名さんは、ふう、と立ち上がった。

「ありがとう。やっぱり好葉の足は素晴らしいわ」

 そう言って、雪名さんは、テレビの前でも滅多に見せない笑顔を私に見せてきた。

 私の足を撫でながらうっとりと言う。

「本当に素敵な足だわ。私が好葉さんに出会えたのは運命だわ。私の為にあると言っても過言ではないくらいの理想的な足……」

「も、勿体ない言葉ですが、それは過言です」

 私は真っ赤になりながら言う。


「それじゃあ、マッサージするわね」

 そう言って雪名さんはマッサージオイルを取り出した。必ず終わった後、メンテナンスをするが如く私の足をマッサージオイルでケアしてくれるのだ。

「よし、スベスベ。好羽も、手入れしっかりとしなさいよ。じゃ、私これから仕事だから」

「はい。お体に気をつけて……」

 私はそう言って、颯爽と立ち去る雪名さんを見送った。

 私は大きなため息をついて座り込んだ。


「これは……このまま続けでいいのか!?」

 私は頭を抱える。


 人気女優花実雪名には秘密がある。ストレスが溜まると人に踏まれたくなる、という性癖があるのだ。それも、できるだけ小さな足に踏まれたいという性癖が。

 売れない三流アイドルである私、牧村マキムラ好葉コノハは、足のサイズが20歳にして19センチというシンデレラサイズである。コンプレックスのこれを、ひょんなことから雪名さんに知られたことによって、定期的にこうして踏みつける事を頼まれているのだ。


「これ、人に見られたらヤバいよなぁ……特に私が」

 私は頭を抱えて今後の芸能生活を憂うのだった。

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