33.何がデートだよ、ったく



 授業を挟み、次の休み時間になった。

 お昼前最後の科目は家庭科、第一被服室での裁縫実習。

 その際の席は自由で、グループ席になるということもあり、教室のあちこちでは仲の良い友人同士で集まってきゃいきゃいと騒いでいる。

 ある種のイベントじみていた。事実、皆も退屈な普通の授業と違ってレクリエーションにように捉えているのだろう。翔太だって、そうだ。

 美桜はといえば、早速群がられていた。


「五條さん、グループ組みましょ!」

「美桜っち、裁縫もメチャ得意だったよね!」

「うち、ああいう細々した作業が苦手でさー」

「あっはっは、どーんと任せなさい!」


 話書けているのは、主に美桜が家事全般をこなすことを知っている、同じ中学の女子たちが多い。大変だなと思っていると、ふいに美桜と目があった。

 美桜はごめんとばかりに片手を上げ、翔太も気にするなと苦笑を返す。

 一方英梨花はといえば、この特別な機会イベントを好機とばかりに声を掛けられていた。


「ねね、葛城さんは家庭科得意なの?」

「どうせなら一緒にやらない?」

「あぅ……」


 普段は素っ気ない様子だが、この機に距離を詰めたい人も多いらしく、今回ばかりはいつもの塩対応にもかかわらず食い下がられている。

 まぁ彼女たちの気持ちもわかる。純粋に仲良くなりたいだとか、容姿や学業的に一目置かれている英梨花に近付きたい打算もあるのだろう。

 その英梨花も言葉を濁すだけで明確には断らないのだから、勧誘も熱が籠るというもの。今後の英梨花の交友関係を考えると、ここで彼女たちと一緒になった方がいいのだろう。

 しかし、この妹の不器用さは思い知ったばかり。翔太は苦笑と共に、英梨花と彼女たちの間へと身を滑らせた。


「すまん、妹と先約があって」


 同じ中学のクラスメイトたちから、翔太と英梨花は再会したばかりだという情報が何となく流れている。兄妹の旧交を暖めるためにと言われれば、彼女たちも弱い。

 英梨花もくいっと制服の袖を掴んでくれば、彼女たちも残念そうに引き下がっていく。


「っと、話が前後したが、家庭科、一緒にやるか?」

「ん」


 翔太がそう訊ねれば、英梨花は安心したように目尻を下げてコクリと頷く。翔太も釣られて頬を緩める。

 相変わらず学校では表情筋があまり仕事をしていないが、こうして頼られるのは悪い気はしない。それに少しばかり、英梨花のこれ・・にも慣れてきた。

 そこへ彼女たちの代わりに、和真がひらりと手を振りながらやってくる。


「よーっす、翔太。次の家庭科だけどさ、その、えーっと……」

「うん?」

「っ!」


 どうやら今度は和真がお誘いに来たようだったが、またも人見知りを発揮した英梨花はビクリと驚き、翔太の背に隠れてしまう。

 なんとも困った顔を見合わす翔太と和真。


「……っと、妹ちゃんのデートを邪魔するのも野暮だわな。それじゃ!」

「っ、何がデートだよ、ったく」

「……デート」


 空気を読んだ和真は揶揄いの言葉を残し、別のグループへ。その後ろ姿を見ながら「はぁ」、とため息。

 冗談だと分かっていても、デートという単語は英梨花が本当の妹でないということを意識させられ心臓に悪い。英梨花も掴んでいた翔太の制服をぎゅっと強く握りしめる。

 なんとも妙になりそうな空気を振り払うかのようにかぶりを振って、翔太は努めて軽い言葉を英梨花に投げた。


「俺たちも行こうか」

「んっ」

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