21.そりゃ目立つだろ
その後、身なりを整え手早く朝食を済ませた翔太たちは、入学式へと向かう。
翔太たちの通う高校は最寄駅から20分ほど揺られたところにある。
結構な満員電車に揉まれ、やっとのことで着いた目的地で解放感に浸っていると、美桜が少しはしゃいだ声を上げた。
「ん~、電車使って通学ってなると、ちょっと大人になった気がするよね!」
「確かにな。高校生になったって実感が出てきたかも」
「でも満員電車、苦手」
「あたしもそれは思った! 1本早くすれば空いてるのかな?」
「どうだろう? 座りたいけどギリギリまで寝てたいって気持ちもある」
「あはっ、わかるー!」
それに応える翔太と英梨花の声も、なんだかんだと弾んでいた。どうやらこれから始まる高校生活に浮かれているらしい。
そんなお喋りをしながら改札を抜けると、翔太たちは「ほぅ」と息を吐く。
周囲を見渡せば、多くの同じ制服の生徒たちが学校までの流れを作っている。その中でも真新しいものは自分たちと同じ新入生なのだろう。父兄と一緒なのがその証拠だ。その足取りは浮き立っていた。
きっと、翔太たちも似たようなもの違いない。心を弾ませおしゃべりしながら歩く。
他にも駅前にはちょっとした商店街が広がっており、これからは学校帰りに利用したりもするだろう。そのことを思えば、これからの高校生活への期待も高まるというもの。
(……ん?)
ふと、周囲からやけに視線を向けられていることに気付く。
注意してぐるりと周囲を見回せば、こちらを見ながら「レベルたっか」「あの子、今年の1年?」「あの髪、地毛っぽい」「ハーフかなにか?」「モデルやってんじゃね?」といった囁き声も聞こえてくる。
あぁ、なるほどと苦笑を零す。
やはり、英梨花と美桜は客観的に見ても噂になるくらいの美少女なのだろう。特に英梨花の髪や肌、顔立ちは日本人離れしており、目立つのも無理はない。
そんな妹と幼馴染が少しばかり誇らしい一方、果たして近くにいる自分はどう思われていることやら。
そのことを考えて眉を寄せていると、ふいに遠慮がちに袖を引かれた。
「…………」
「ぁ」
振り返れば、目に憂いの色を滲ませた英梨花の瞳。
はたと昨夜のやり取りを思い返す。
やはりまだ不安があるのだろう。
兄として
翔太は安心しろとばかりの笑みを浮かべ、くしゃりと英梨花の髪を撫でた。
「大丈夫、大人しくしてたら変に絡まれることもないって」
「そうそう、人の噂も七十五日ってね」
「ぁ」
そう言って美桜もトンっと胸を叩き翔太の反対側、英梨花を挟み守るように位置取り、笑みを浮かべながらわかっているよと片目を瞑る。
(……ったく、こいつは)
美桜はあの一瞬でこちらの気持ちを汲んだのだろう。正に以心伝心、幼馴染の為せる技。翔太も微笑みを返す。
「ほら、何かあったら俺に言えよな」
「あたしにもバンバン頼ってよ、えりちゃん」
「ん」
少し安心したのか、わずかに頬を緩める英梨花。
翔太たちは肩先を並べ、校門をくぐった。
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