血の繋がらない私たちが家族になるたった一つの方法【WEB版】

雲雀湯@てんびんアニメ化企画進行中

1・再会した妹は、血のつながりが希薄な義妹だった

1.数年ぶりに再会した妹


 気の早い桜が蕾を付け始める春先だった。

 長年離れていた両親が復縁するからと設けた食事会。

 翔太は小学校低学年振りに顔を合わせた妹、英梨花の変わりように目をくぎ付けにされ息を呑む。


「久しぶり、兄さん」

「英梨花、なのか……?」


 涼やかな目元にすっきり通った鼻筋、スラリと伸びた長い手足。ツーサイドアップに纏めた赤く豪奢な髪をなびかせる様はとても綺麗で大人びており、かつての姿と重ならない。

 幼い頃の英梨花といえばすぐ泣いて、引っ込み思案。そしてちょっぴり甘えん坊。

 だけど目の前の彼女・・は凛として泰然自若。

どこかクールな印象を受ける、とびっきりの美少女。

 思わずまじまじと見てしまったのも、仕方がないことだろう。

 直前まで抱いていた、自分が守ってあげないとだなんて考えはどこへやら。

 翔太がまごつく隣で、母がエリカに話しかける。


「まったく、この人ったらいつまでもふらふらして。英梨花、苦労してない?」

「別に。自由で気楽」

「ご飯とか、ちゃんと食べてた?」

「最近の冷凍、優秀」

「まったく、この人と来たら……」

「あっはっは、面目ない。仕事が忙しくて甘えちゃって!」

「ん、平気」


 ある意味見た目通りとも言える、素っ気ない言葉でのやりとり。

 それが余計に『にぃに、にぃに』といって背中を追ってきた昔との差を、溝のように感じてしまう。

 7年という歳月は、妹をすっかり別人のように変えてしまっていた。

 だからというわけではないが、何を話していいかわからなくて。

 緊張もしてしまったのか、心臓は己の意思に反して騒がしい。

 しかしそんな翔太の心境とは裏腹に、食事会は和やかに進んでいった。

 やがて両親が支払いとトイレを済ませるからと、先に兄妹揃って店を出る。

 3月の夜はまだまだ肌寒く、見上げた空には薄っすらとした雲を纏う少し欠けた月。「ふぅ」と吐いた白いため息が、夜空へ溶けていく。

 翔太は改めて、ちらりとに視線を移す。

 昔と違い長くなった髪を掻き分ける仕草、すっかり丸みを帯びた身体つき、ぷっくりと膨らんだ柔らかそうな唇。

 そんな異性を感じさせるところを目にすれば、頭では妹だと分かっていても、魅力的だと感じてしまう。

 困ったな、と眉間に皺を寄せようとすると、くいっと袖を引かれた。


「兄さん、大きくなった」

「え? あぁ、まぁな」

「最初、誰かと思った」

「……俺もだよ」

「また一緒、楽しみ」

「そうだな」


 そう言って英梨花がはにかむ。先ほどまでのクール然としたものでなく、かつてと同じ無邪気な笑みを浮かべて。

 不意打ちだった。変わったと思っていた矢先だということもあって、ドキリと胸が跳ねてしまい、翔太は咄嗟に目を逸らす。

 内心、どうしようという想いが渦巻いている。


 再会した英梨花は妹というより、同じ年頃の異性になっていた。



※※※※ ※※※※


次話もほどなくして公開します

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