第44話 商業ギルドとVIP待遇
宿屋の夕食の時間になるまで後2時間といった夕暮れ時。
オレオルは宿屋の近くにある商業ギルドの前にいた。
「ここがナスハワの町の商業ギルド…」
タリアの街のより人が多くて活気があるなぁ…
「雛鳥、魔石件忘れんなよ」
「うん」
心做しか冠羽を模してるというクロの青い髪がいつもより元気に跳ねてる気がする。
よっぽど嬉しいんだろう。
でもまだ上位属性の魔石作る方法わかってないんだけどなぁ…
オレオルはそんな事を考えながら商業ギルドの中へ入った。
「うわぁー…広い! 」
その分人も多いけど。
商業ギルドとは、世界中の物の流通や商売する過程で発生する金銭のやり取り等を取り仕切っているギルドで、 だいたい街ひとつにつきギルドもひとつある。
さすがに小さな村には無いが、ある程度以上の規模の街には必ずあると言っても過言では無いほどあちこちにある。
そんなにあちこちにあって各ギルド間のやり取りや統括はいったいどうしてるのかと思った事がある。
それをじいちゃんに聞いたら、なんでも商業ギルドには冒険者ギルド同様、専用のアーティファクトがあってそれでやりとりをしているらしい…
と、ここまでがオレオルが教わった事だ。
「えーっと…換金窓口は…」
あ、あった。
あの緑の看板のやつだな。
魔石買う為にまずはその資金を確保しないとな!
ちょうどそういう時間帯にかち合ったのか、入金窓口には長めの列ができていた。
だが、換金窓口に人は少なく、すぐに対応して貰えそうだった。
「すみません…売却証明書を換金に来ました」
この売却証明書は旅に出る前、ガル爺から『帝国外で換金するんじゃ』と言われて貰ったやつだ。
「はい、売却証明書の換金ですね? 証明書はお持ちですか? 」
「はい持ってます、これです」
オレオルは受付の女性に証明書を渡した。
受付の人は売却証明書を受けった直後に少しだけ目を見張ったが、帝国内のギルドの様にあれこれ確認される事も変に騒がれる事もなくそれだけだった。
「お預かり致します、少々お待ちください」
そう言って奥へと消えていった受付の女性が少しして戻ってきた。
「申し訳ございません、高額のため少々お時間がかかっております…別室にてご対応させていただければと思いますが、可能でしょうか…? 」
え。
べ、別室?
遺品整理品の中にそんな高く売れるようなものあったか?
というか、ちょっと高額ってだけで別室とかあったっけ…?
「は、はい…わかりました…?」
オレオルはこうして首を傾げつつも案内されるまま個室へと向かった。
*
案内された先の部屋で待っていたのは中年の男性だった。
「突然申し訳ない…この街の商業ギルドのギルド長をしている、セブノールです」
ひぇ…ギルド長…
「オ、オレオルです…」
「そちらの方が噂のESランク冒険者様ですかな? 」
「……俺の事は無視でいい」
「わかりました…では、早速ですが本題にうつらせていただきましょう。実は…当ギルドから貴方様にお願いとご相談があるんです」
「願いと相談…ですか? 」
「えぇ、まずひとつは…今回の換金です。実は、当ギルドでは資金が足りず、全額を換金する事ができないのです…」
「え、そんなに高額なのですか…? 」
なんで…?
「えぇ、ざっとで合計が約大聖霊貨3枚分…金貨換算で約3000枚あります…さすがに、当ギルドの資金をからにしても到底換金し切れるものではなく──」
「ちょ、ちょっと待ってください!? 金貨3000枚!? 」
ガ、ガル爺!?
桁間違ってない!?
0が多いんだけど!!?
一般庶民なら、一月金貨1~2枚で十分生活できるそれが…3000枚とか…どうしてそんな額に…
驚いているオレオルを見てどこかほっとしている様子のギルド長。
それを見てオレオルは自分が厄介な客扱いされていた事を悟った。
「す、すみません…そんなに高額になっているとは夢にも思ってなかったものですから…」
「そうだったのですか…道理で…」
そりゃ何も事前に言わずにこんな高額換金しようとしたら無理なのも当然で。
突然こんな事を言ってしまってこのギルドには申し訳ない事をした。
「ひとまず、周辺の街の商業ギルドに話を通しておきましたので、残りはそちらで受け取っていただけないでしょうか…」
そう言ってギルド長はオレオルに封筒を手渡してきた。
封筒にはロウと印で2箇所封がされており、それぞれこの街を統治する貴族家の紋章らしきものと商業ギルドの紋章が押してある。
「それでも受け取りきれなかった分は、また他の街で…と、なるかと思いますが…これが当ギルドの限界でして…」
「わ、わかりました…ご丁寧にありがとうございます」
オレオルは封筒を受け取りながら頭を下げた。
「いえいえ、こちらも平時であったならもう少し多く換金できたのです。ですが…今は祭りの影響で少々制限させていただいておりまして…申し訳ございません」
あー…祭りの影響がここにも…いや、祭りが無くても3000枚は無理だな。
「こちらではどれくらい換金できそうですか? 」
「現在の当ギルドですと、金貨300枚が限界です」
「そうですか…ではそれでお願いいたします」
「かしこまりました、換金できなかった分はひとまず口座に預け入れる形で手続きさせていただいてもよろしいですか? 」
「はい、大丈夫です」
オレオルはこれまでリュックが高性能なのでギルドにお金を預ける事はほとんどした事がなかった。
それよりもリュックに入れていた方が安全だからだ。
でも、こうなっては仕方ないだろう。
それにしても…
まじかー…
これはさすがにわけを聞きたいからガル爺に手紙書こう。
……そういえば、ドロシーばあちゃんにも手紙書こうと思ってたんだったっけ。
2人に手紙出すなら、集落跡地での事とかをヒルダばあちゃんにも手紙で報告しておこうかな…
オレオルがそう考えていると、ギルド長セブノールが先ほどまでとは顔付きを変え、1枚の紙を見せてきた。
「こちらは相談したいと言った方の件に関係あるものです…」
───────────
ヒーリング草
マナリング草
キュアリング草
シックリング草
ポカタスの葉
ライフウッドの葉
コルリア草
ダンデの根
:
───────────
「……これは薬草の一覧ですか? 」
「えぇ、かの有名な薬師ドロシー・ストークスの弟子だと…売却証明書の手続きをする為に登録情報を確認した際に判明しましたので…少し、お知恵をお貸しいただけないかと思いまして」
ギルド長が申し訳なさそうにそういった。
「知恵…ですか? 」
「えぇ、実は…今、帝国と国境を接している国々の帝国との国境沿いで、薬になる植物を中心に原因不明の大豊作となっているのです…」
帝国との国境沿いで…?
「薬師ギルドにも相談はしているのですが、いかんせん量が多すぎるのと、この街の薬師達には見たことも聞いたことも無いような物まで生えてきてるらしくそういったものは調べている最中との事で…」
「なるほど…そうでしたか…」
確かに俺ならドロシーばあちゃんからいろいろ詰め込まれたから知ってる。
現にこのリストにない薬草もある。
アマデグラの実
白冠草
この2つはリストになかった。
という事は、薬草だと思われていない可能性がある。
アマデグラは普通におやつになる実だと思われている可能性があるし、アレクさん達の反応からして白冠草はかなり珍しくマイナーな薬草らしい…
……いや。
加工前が知られてないだけの可能性はある…のか?
「とりあえず…ざっと見た所、リストに無いもので注意が必要なものがありますね」
オレオルはリュックに入れていた{毒あり未加工薬草類}入れ袋の中に入れていたアマデグラをひとつ取り出した。
「これはアマデグラですな…これがどうし──毒!? 」
さすがそこそこ大きな街であるナスハワの商業ギルドのギルド長。【鑑定】スキル持ちの様だ。
「これは注意喚起が必要でしょう? 」
「はい…これは至急通達を回さないと、間違えて食べるものが出てきますよ…すぐに根絶やしにしてでも──」
「根絶やしは待ってください」
「なぜですか? こんな間違えやすい毒あり植物は広がる前に無くしてしまわないと…」
「いえ、それが…原種のアマデグラは加工すると変異魔力裂傷症の特効薬の材料になるらしいんです」
「な、なんですと!? 変異魔力裂傷症の!? 」
オレオルは驚くギルド長に『そうなるよなぁ…』と思いつつも、クロをチラリと見た。
アマデグラの事をちゃんと教えてくれたのはクロだったからだ。
「『その実の事を話すのはいいが、俺が教えた事はめんどくせえから言うな』」
うお!?
クロが【通話】の魔法で直接頭にそう伝えてきた。
その魔法便利だな…
「……俺の鑑定は少々特殊なスキルの様で、まれに変な事が出てくるのです」
オレオルは嘘では無いが本当のことでも無い事を慣れた口調で話す。
1度仕事スイッチが入ってしまえばこのくらいの誤魔化しはこれまでもやってきたのでギルド長が気づく事はない。
「なるほど、そうでしたか…それでご存知だったのですな…ですがこうなると、この実の対処は少々大変ですな」
「えぇ…しかも
「なるほど…」
「ドロシーばあちゃん…師匠なら、何か知ってるかもしれないので調薬方法は聞いてみてから…という事になるんですが、それまでに出来る事と言えば…未加工だとただの毒なので、素材となる実を集めておくくらいで…」
「わかりました! そういう事でしたら、この事は私から緊急通信で国や関係ありそうな街の各ギルドに言っておきましょう! 」
どうやら無事、誤魔化せた様だ。
オレオルは力強くそう言うギルド長を見てほっとした。
「お願いします…」
そう言ったオレオルは次に白冠草も取り出した。
「次に、これも薬の素材となる植物です。名前を
「なるほど…夢見病の…あの薬の元はこんなに綺麗な植物だったのですね…」
ギルドの目は『加工前はこんなに綺麗なのにこれがアレになるのか…』と言わんばかりだった。
気持ちはよくわかる。
あのヘドロみたいな薬の素材のひとつがこんなに綺麗だとは思えないよなぁ。
「あのヘドロ薬…他の素材もだいたいこんな感じの元は綺麗な植物達ですよ」
オレオルが何となくそういうとギルド長か目を見張った。
「そ、それは知りませんでした…」
オレオルはびっくりするギルド長を見て、ふと売却証明書の換金と一緒に聞いてみようと思っていた事を話してみる事にした。
「セブノールさん、実はお願いがあるんです」
たぶんギルド側が元々俺に言おうとしていた事にも合致する部分は多いだろう。
「……なんですかな? 当ギルドで出来ることならなんでも請け負いますよ」
にこやかな笑顔でギルド長が言った。
「ありがとうございます」
この街では今。おそらくだが大量の薬草が買い手がつかずに余っているはずだ。
ありがたい事に俺のリュックに入れとけば時間経過による劣化はしない。
だがらお金があるなら使える素材は買えるだけ買っておきたい。
備えあれば未来の俺が嬉しい。
最初はさっき作った魔石を売ってお金を作ってから買えるだけクズ魔石を買おうと思っていた。
だが、予想外の大金のおかげでそんな必要もないだろう。むしろ使うべきまである。
「実はお願いというのは2つありまして…たぶんですけどこの街では今、薬草が過剰供給で価格崩壊を起こしかけていますよね? 」
「えぇ…実はその薬草の買取もご協力いただけないかご相談しようと思っていたのです」
「やはり…そういう事ならこちらとしては願ったり叶ったりですね。その薬草を買えるだけと、別でクズ魔石の引き取り…もしくは買取もしたいのですがどれほどご用意いただけそうですか? 」
「それは…こちらとしては余っている薬草と同じく対処に困っている物ですので…無くなるのは願ったり叶ったりなんですが…よろしいのですか? かなりの量になりますが…」
「大丈夫です、俺のバックはじいちゃんから譲られた特別なもので、かなり高性能ですから」
「そうでしたか…そういえば貴方様はあの英雄ロウルのお孫様でしたな! 」
ギルド長は感心したようにそう言って笑った。
「いやー…オレオル様には足を向けて寝られませんな! ここ数日の睡眠不足の原因がまとめて片付きそうです! 」
ギルド長の目には微かに涙が見える。
ただでさえ祭りの影響で忙しいだろうに、その上この薬草件だ。寝る暇などなかったのかもしれない。
「あはは…それはよかったです…支払い金は先程受け取りきれなかった未換金のお金から差し引く形で足りそうですか? 」
「足りるどころか…」
ギルド長はそう言って苦笑いした。
「あー…やっぱりそうですか」
だよなぁ…
「ですな…ところで、これは個人的な興味でできれば聞いてみたい程度の疑問なのですが…なぜこれほどの額に? 」
「いえ…俺としてもあの額は想定外でして…」
俺が聞きたい。
「じいちゃんのお店とその土地と、旅には要らなそうな過剰に余ってる商品なんかを売っただけ…なんですけど、ガル爺…だからなぁ…」
最後の方はどちらかと言うとオレオルの独り言になりつつあったギルド長はその声を聞いてなるほどと思った。
「そう言えば薬師ドロシーの名前が衝撃的過ぎて頭から抜けてましたが、支払い元はかの有名な豪商ガルガイアでしたな! ならばあの額も納得です」
商業ギルド長はそう言って笑っているが、俺は全然笑えない。
嬉しくないわけじゃないけど、こんな大金突然貰っても対処に困る。
買った薬草なんかの代金を合わせてもこのギルドでは金貨500枚くらいが限界…残りの未受け取り残高2500枚。
金貨500枚ですら全体の6分の1でしかないとか怖すぎる。
オレオルは降ってわいた大金の対処に頭をぐるぐると悩ませつつ商業ギルドで残りの手続きを終えると、宿屋へと戻った。
買い取った倉庫3つ分の薬草達と
^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─
お読み下さりありがとうございます!
作品タイトルが未だに納得いかない…
そして、クロがオレオルに魔力操作やらなんやらを教えるまでに当初の予定よりも話数がかかっております…
最後に↓の♡をポチッと押してくださると私のやる気とモチベが爆上がりするので、既読の印にでもぜひ『♡』を押して行ってください…お願いします …
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