第43話 魔石と属性

『実は神器だった』という、衝撃の事実が判明した錬金釜。

 それを使っていろいろな属性のクズ魔石を合成錬金して試した結果…わかった事がある。


 一つ、属性に相性あり。

 ごちゃ混ぜにすると質と、量がガタ落ちする。

 でも、この相性も悪いばかりじゃない。

 相性がいいと、質が跳ね上がる事もわかったからだ。


 二つ、1個を大きくしようとすると、それに応じて要求素材量も雪だるま式に増えていく。

 なので、大きいものを作るより、そこそこの大きさを量産した方が、売る事を考えると効率がいい。


 とまあ、この2つだ。

 これ以外の他の法則について等はこれからいろいろやる中で徐々に探っていけばいいだろう。

 属性同士の相性関係などは特に。


「次は…なんの属性突っ込んでみようか…」


 条件はだいたいわかったし、もう失敗をわざわざ試す必要はないな。

 だから次からは、失敗してもクズ魔石以下のゴミになったりはしなさそうな成功しそうな組み合わせがいい…かな。


「いや、でも…光と闇属性合わせたらどうなるんだろ…魔法とかだとぶつかると消滅して消えていくけど…」


 失敗しない組み合わせにしようと思ってたわりに、失敗するかもしれない組み合わせだけど…気になるし試してみるか! 


 クロがくれたクズ魔石には光も闇も山ほどあるしな!


 楽しくなってきた!!


「〜♪」


 鼻歌を歌いながらご機嫌で光属性のクズ魔石と闇属性のクズ魔石を取り出すオレオル。


 あ、そうだ…


 2つの量をピッタリ合わせた方がいいかもな…


「ねぇ、錬金釜、魔石を1回粉にしたりできる?   」


 手作業でもできる作業ではあるが、錬金釜でできるならその方が楽そうだ。


〔できるよ!   〕


 そんな感じの反応が釜から返ってきた。


「じゃあ、まずは光属性の魔石から粉末にしてもらえる?   」


〔はーい!   〕


 その後、錬金釜で基礎属性の魔石を粉末にした。


 基礎属性とは、火、水、風、土、光、闇、聖。


 これらの属性の事を言う。


「錬金釜お前すごいな…手作業だとこんな均一に細かい粒にはならないのに…」


〔ほんと!?  僕すごい?  〕


「めちゃくちゃすごいよ!  」


〔わーい!  〕


「じゃあ、元が揃ったから早速合成させてみるか!   」


 オレオルは光属性と闇属性の魔石の粉末を同量になるようにきっちり計って、謎色の液体が満ちる中にサラサラと入れた。


[聖命復活の火種]の時はけっこう時間がかかったので、今回も時間かかるかな。


 そう思っていたが、すぐに『ポン!  』という音がして合成錬金が完了した事がわかった。


「お、早い」


 さて、何ができたかな…


 錬金釜の中を探ると、小さくて透明な魔石が入っていた。


 ───────────

[無属性の人工魔石(極小)]

 光と闇属性の魔石を同量ずつ合成させることで生み出す事のできる上位属性の人工魔石。

 無属性の魔力が結晶化したもの。

 ※これは錬金釜でしか生み出すことができない

 ───────────


「無属性の魔石!?  」


 おおぉ!

 なるほど!


 光と闇が合わさったら、打ち消し合って、無。


 つまりは、何も無いという状態ができるからか…


 ということは、他のやつも正しく掛け合わせていったらたぶん上位属性になるな!


 いや、でも…大半の『上位属性』は同じ属性同士を合わせる事でできる『強化属性』から生み出されるって言うし…


 錬金術でもその法則が変わるとは思えない…


「なぁ、錬金釜…火の魔石同じ大きさのやつ2つ入れたら『火炎属性』の魔石作れたりする? 」


 魔法や魔術の場合、『基礎属性』の火+火で『強化属性』の『火炎属性』となる。

 そして、その『火炎属性』と他の『基礎属性』を合わせる事で『上位属性』である『爆炎魔法』なんかが使えるのだ。


〔火炎…うーん…わかんないけど…たぶん無理! 〕


「うーん…"たぶん"無理…なのか」


 この釜はリュックと違って拗ねたりひねくれたりしてないから素直だけど、こういう時は困るな…


 どうしよう…

 上位属性の魔石が今すぐ必要とかそういうわけではない。

 けど…わからないのはモヤモヤする。


 というか、上位属性の魔石作るとか普通におもしろそうだからやりたい。


 魔石なら手元に持っとくだけなら危険な事もないしな!

 作れた時の活用方法とかそれから考えればいいし!

 方法だけでも知っておきたい。


 なんかそんな難しい方法って感じはしないしな。

 上位属性の魔石ならダンジョンとかでも見るし、売り方にさえ気をつければ、そうそう怪しまれたりもしないだろう。


 そして何よりいい金策になりそう。


 なんだけどなぁ…


『上位属性』どころか、その前段階の『強化属性』の作り方すらわからないんじゃ…どうしようもない。


 いやまあ…?

 現状でも、違う『基礎属性』同士を合わせる『上位属性』ならつくれはするし…

 それを売ってお金を稼ぐ事ならできるだろう。


 でも、『強化属性』を使わない『上位属性』って、光か闇…もしくは聖属性を使う事が多い。


 聖属性なら自前の魔力で聖属性の魔石を作…れないな…俺魔力操作下手くそすぎるし。


 そうなると光と闇属性だけど、そっちの方は他の4基礎属性と比べると珍しいせいで元の値段が高い。

 お金を稼ぎたいなら火水風土の4基礎属性で『上位属性』の魔石を作れるようになるべきだ。


 同じ『基礎属性』同士を掛け合わせる事で生まれ、ほとんどの『上位属性』の基礎となる『強化属性』。


 それをどうにかして作れるようにならないと…大半の『上位属性』は作れない…


 釜が『無理』と言ってるって事は試しても一回り大きなサイズの魔石ができるだけなのだろう…たぶん…


「レシピ本にも魔石の属性配合なんてなかったしなぁ…」


 どうしよう…どっかにないかな…属性配合の一覧表みたいなの。

 ないだろうなぁ…そもそも錬金術が古代に失われた<ロストマジック>だしな。

 無理かもしれないけどダメ元で可能性がありそうなのを色々試すしか無い、か。


「とりあえず…同じ属性ばっかりいっぱい入れてみるか…」


 2つじゃだめでもたくさん入れたらなんとかなるかもしれないし!



 *



「あー!  できない!!  」


 大量にできた大きな魔石があちこちに転がっている中にオレオルはごろんと寝転んだ。


 粉末にして大量につっこんでみたり…

 小をつっこんでみたり…

 中をつっこんでみたり…

 大をつっこんでみたり…

 特大をつっこんでみたり…


 大きさを変えてみたり…

『魔石×粉末』に変えてみたり…


 いろいろ試してみたが全て成果はなかった。


 そして、あまりにもわからなかったので、最後の望みも込めて特大2つと残ってた粉末全部という大盤振る舞いな余り物処分錬金もやってみた。


 その結果がこれだ。


 ───────────

[火属性の人工魔石(超特大)]

 錬金釜で作れる魔石ではこれが最大サイズ。

 これ以上の大きさを人の手で作ることはできない。

 ※これは錬金釜でしか生み出す事ができない。

 ───────────


「あー…やっぱりだめだったかー」


 最後の希望もダメだった事で落胆の声を上げるオレオル。


 そんな時──


 これまでずっとオレオルが悪戦苦闘するのを黙って見ていたクロがこれまでの試行錯誤を全て無駄にする様な事実をふと思い出した。


「……今やっと思い出したが、同じ基礎属性を合わせる系の『強化属性』の魔石をつくるには…たしか魔石の他にもう1つ別のアイテムが必要だったはずだ」


 は?


 も、もう1つ別のアイテム??


「お、お、お、お前!!!  知ってたならそういう事はもっと早く言えよ!?   」


 たった今!

 残ってた最後の材料で、錬金釜でつくれる中では最大サイズの、これ以上はどうしょうもない魔石を作り終えた所なんだが!?  


 オレオルは目の前にある各基礎属性の大きな魔石達を見て、泣きそうになった。


 砕けばいけるかな…

 もし無理だったらここにある魔石達は──


 オレオルは知らないが、この世界がゲームだった頃のなごりでそのまま今も存在している、ズル防止用のシステム。

 それを創造神がそのままにしてるせいで、現状、基礎属性の人口魔石の全てが合成錬金の素材にできない。


 そのため、今作った人工魔石を砕いても新たに錬金すらできないクズ魔石になるだけなのだが…


 それをオレオルが知るのは先の事だ。


「もっと早くと言われてもな…錬金術なんざ専門外な上に昔は仲間に1人やべえ錬金術師がいたんで全部丸投げしてたんだ…これを思い出せただけでも、ありがたいと思え」


 まあ…たしかに…これ以上間違った方向に迷走しなくてすむのはありがたい…


「じ、じゃあ!  別にいるって言うそのアイテムの名前は!?  」


「……さすがの俺でも、この状況で知ってたら普通に教えてるぞ? 俺だって上位属性の魔石は趣味の魔導具作りに欲しいんだからな」


 え、クロって…


「魔導具作りが趣味なの?   」


「あぁ、だが最近はろくな魔石が手に入らなくて作れてねえがな…」


 趣味…できてなかったのか…なんか可哀想。


「……そういう事なら、今作った大きな魔石いる?  」


「……欲しいかどうかと言われれば、欲しいが…それよりも俺にいい案がある。ギルドに行くぞ」


「ギルド?  」


「あぁ、その大きな魔石を売って、大量のクズ魔石手に入れるぞ」


「え、いやそれは…」


「うだうだすんな、1回だけなら祖父の遺品から出てきたとか適当な事言っとけばいいだろうが」


「そ、それはそうだけど今からか!? もう少しで夕飯食べれる時間なるよ?? 」


「この宿屋の夕飯は遅くまでやってんだから帰ってきてからでも間に合うだろうが、いいからいくぞ」


 そう言って俺の手首を掴んで強引に連れ出すクロ。


 なんか知らないけど、俺はクロの変なスイッチを押してしまったらしい。

 まぁ…でも、できなくなってた趣味が久しぶりにやれそうってなったら…


 俺でもこうなる可能性はあるし…


 クロが珍しく、心と言動一致させてるし…


 つきあってやるか。


 クズ魔石は俺も欲しいしな。



 *



 そんなこんなで商業ギルドへ行く途中…


「そういえばさ、クロがなんで俺のリュックにもの入れられたのか聞いてなかったけど、どうして?  <神器>だったならなおさら【使用者登録】は機能してたよな? 」


 ふと思い出したのでクロに尋ねた。


「リュックの鑑定結果は見せただろ」


「見たけど…天罰とかなんとか怖い事書いてなかった?  」


「その前半に『認められてないものが使おうとすると』ってあっただろうが…」


「そういやそうだったけ…?  」


「俺は今、お前と契約してる…それは知ってるな?  」


「うん…」


 不本意ながら。

 現在も継続中の契約があるのは知ってる。


「その契約はどういうものだと思う? 」


「え、知らない」


 気になってはいたけど、クロは何となく言いたがらないだろうなって…


 そう思ったから聞かなかった。

 目が覚めてからクロと話してみて、やべえやつではあったけど優しい感じがしていたってのも急いで理由を聞かなかった理由の一つかもしれない。


「内容は知らないけど、お前だけが不利な条件なのは何となく気がついてるよ」


 本当になんとくだけどな。


「そうか…まあ、お前なら気づかない方がおかしいだろうな」


 まぁ、俺…他人の心わかるしな。


「で、その契約の内容なんだがな。簡単に言うと『俺の命をお前と繋げる事で、俺からお前に生命力の譲渡を可能にしている』といった所なんだが…」


「え、話すの!?  しかも生命力の譲渡だって!? 嘘だろおい!? 」


 というかこんなあっさり話してくれるならとっとと聞いときゃ良かった!


「その契約が、扱い的には『主従の契約』にあたる様でな…」


 無視かよ!? 


「ふーん…主従の契約ねぇ…それがどう──って、えぇ!? 主従!!?   」


 主従の契約って、貴族とその騎士が結ぶようなアレだよな!?


 あんまり詳しくないけど、強いものだと命だけでなく魂すらかける類のやつもあったはず…


「念の為の確認なんだけどさ…どっちが主? 」


「お前だ」


 お、俺かぁ…

 いやいや、話の流れ的にそんな事だろうなとは思ってたけどさ。


「俺は雛鳥の従者になるつもりはねえが、主従…という扱いになってるからこそ、リュックに認められたと…まあ、そういうわけだな」


 そう言えばこれリュックの話だったな…


 契約内容によっては従者が主の物の一部を扱う事ができるという話は聞いた事がある。

 リュックは神器らしいし、神器なら契約によって人を区別する事くらい簡単に出来るだろう。


「つまり、俺に仕える気は無いけど、仕えるものは使うとかいう感じの…やつか…」


 いやね?

 クロが俺に頭下げる姿とか俺も想像出来ないからそこは別にいいんだけどさ…


 面と向かって『従者になるつもりはない』とかって言われると、ちょっとだけ心にくるものがある。


 じゃあなんでそもそもそんな契約を会ったばかりの俺としたんだ…とか。


 いや、契約したのは俺を助けるため…だったんだった。


 でもなぁ…俺を助けるためだけなら、こんな内容にする必要ない気がするんだけどなぁ…


「何はともあれ契約のおかげで、晴れて俺は倉庫管理者に無断での使用から、公認での使用になったわけだな」


「……………うん?  無断使用?  」


「あぁ、実はずっと前にいろいろあって、その時にリュックの中の倉庫と今も腕に着けてる──このバングル。これを繋げててな」


 クロはそう言って腕に着けている漆黒のバングルを見せてきた。


「ん? 『繋げててな』? 」


 という事は…こいつ…


「今朝身支度するのに出してたあのでっかい1人用ソファとドレッサー!!   しまってたの俺のリュックの中みたいなもんじゃねぇか!!?  」


「まあ、そういう事になるな」


 嘘だろおい!?


 神器だからなんだろうけど、なんでもありすぎるだろ!?


 オレオルは悪びれる様子のあまりないクロに驚かずにはいられなかった。


^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─

 お読み下さりありがとうございます!


 説明がわかりにくいと意見をいただいたので私なりに頑張ってみましたがどうでしょうか…

 過去の話より悪くなってたりしたら教えてください


 それと

 ゲームだった頃の名残りの基礎属性魔石再利用不可の設定…これは私の趣味です

 こういう設定考えるの好きなんです


 あと、リュックにまつわる話

 実はまだまだありますが、結構先になりそうです

 リュックの話引っ張ってるのは、この先も出てくるからなので…

 頭の片隅にでも覚えててくれるといいかもしれません



 以下余談です(後々消すかもです…)


 最初、オレオルが森の中で素材を加工したのを覚えているでしょうか…?

(精霊の贈り物関連の話の時です)

 その時にオレオルがあまり喜んでなかったのは、『いつも通りにやった』のに『全くの別物になった』からだったりします。

 具体例をあげるなら、お腹が減ったから何か食べたくて、台所に行って『普段通りの手順で』料理した。


 それなのに、『できてみると普段とは全くの別物』だった。という感じでしょうか…?


 それを喜べるかどうかは人それぞれかと思いますが、オレオル君は喜べなさそうだな…と。


[はじけプリカ火薬瓶]の場合は、薬の材料作ってたはずなのに核爆弾の材料ができたら…みたいな想定で書いてます。

 オレオル君は生産職なので、殺し合いとは縁遠い生活をおくってきました。

 そんな普通の少年が想定外でできた爆弾を目の前にした時、喜べはしないだろうな…と。


 私も現実の目の前に爆弾とその起爆スイッチがあったら普通に怖くてたまらないだろうなぁとか思いながら当時話を書いた様な記憶が朧気ながらあります(笑)


 理由はそれだけでは無いですが、そんな理由があったので今回の魔石作成では1章とオレオル君の反応が違ったというわけです…


 長文失礼しました!

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