第24話 錬金術とタブーな話題

 レシピ本で蓋をした壺を放置しておやつにアッペレ(りんご)を食べていると壺の方から音がした。

 壺の中で大きな石が転がったような音だ。


「お、できた…? 」


「かもしれないわね」


「見てみましょう」


 オレオルは壺の中を覗き込んだ。


「おおぉ」


 本当に大きな魔石になってる。


 壺の中にはギリギリ取り出せるくらいの大きさの魔石が一つだけ入っていた。


 いろいろな属性が混ざりあった影響だろう、色は正直緑と茶色と赤が混じったような色をしており、お世辞にも良いとは言えないがこれだけ大きい魔石なら売れないこともないだろうと思う。


 ただ1つ気になるのが、壺の中に入れた量と比べると本に書いてあるよりも多く魔石の総量が減ってる気がする。

 何が原因なんだろうか。

 属性ごちゃまぜにしすぎたからとかかな。


 気になるけど本には詳しい事は何も書いてないし、いろいろなサイズと量で試してみるしかなさそうだ。


「あら、できてるじゃない」


「その大きさですとギリギリ中といったところですか」


「だいぶ減ったわね」


「量が増えればその分合成した後の最終量で減る量が増えるのか、元の総量関係なく固定値減少なのかはこれから探っていく必要がありそうですね」


 興味津々にたった今できた魔石を観察する2人。


 そうだ、この魔石【鑑定】してみよう。

 何かわかるかもしれない。


 ───────────

[混合魔石(中)]

 錬金術によって様々な属性の極小魔石と合成された結果生み出された人工魔石。

 火、水、土、風、闇、光の魔力の集合体の結晶。

 ※このアイテムは錬金術で生成する事でしか生み出す事ができない。

 ───────────


 混合魔石…?


 錬金術…?


「この壺は錬金術とかいう術で魔石を合成させた? 」


 オレオルがそうつぶやくとアントンがぴくりと反応した。


「今…錬金術と言いましたか…?」


「知ってるんですか? 」


「…詳しくは知りませんが、前に祖母からその名を聞いたことがあるんですよ」


「それはエルフだって言う…? 」


「えぇ、そうです」


 アントンさんが言うには、錬金術とは帝国ではマイナーを通り越して知られていないが、それ以外の国では過去の歴史なんかで学ぶものらしい。


「なぜ帝国ではやらないんでしょうか」


 俺は疑問に思ってそうつぶやく。


 これまでのならここでわかる範囲で話してくれていたが、今回はアントンさんは言いづらそうにして苦笑いするだけで何も言わない。


「ごめんなさい、オレオル君その話題はワタシ達の間ではタブーなのよ」


 本当は教えてあげるべきなんでしょうけど…とリリアさんは申し訳なさそうに言った。


「街についた後にギルドの人に帝国から来たって言って知っておいた方がいい事を聞くといいわ」


 帝国から来た人が知っておいた方がいい事…?


「よくわかりませんが…わかりました」


 これ以上触れない方がいいんだろう。


「錬金術の歴史について語る事はできませんが、今でも一つだけ言えることがあります」


 アントンがそう言って壺を見た。


「それは錬金術は今はもう失われてしまっている古代の秘術だという事です」


 え…?


「古代の秘術…失われた…? 」


 じゃあこの壺何?


 というかあの集落跡地って建物の建築スタイルが最近のものだったし、廃村になってから100年も経っていない、まだ新しい所のはずなんだけど…


 なんでそんな場所に今から何千年も前の時代である古代の頃の遺物があるの?


 おかしい。

 どう考えても。


「この話題が私達の間でタブーなのは錬金術が失われる事になった過程が種族差別の話題へと発展するからなんですよ」


「そうそう、ワタシとアントン対アレクとセレーナで喧嘩になるから差別関係の話はしないって決めてるのよ」


 集落跡地が放棄された年と壺が作られただろう年代が合わないというこの違和感に2人が気づいていないのか気づいていてあえてスルーしているのか…


 オレオルにはどっちなのかわからなかったが2人は差別の話題がダメな理由について話し始めている。


 これは今はこれ以上つっこまない方がいいって事なのかな。


「種族差別についてなら少し聞いたことがあります」


 オレオルは壺があった事が不自然だとは感じつつも、差別問題はまるっきりわからない話題という訳でもないのでその話にのっかることにした。


 実はオレオルは種族差別の話を母親から聞いたことがあるのだ。


 当時、まだ母さんが生きていた頃にものすごく大切な事だから絶対に忘れないでって…普段ずっと優しい母さんがすごく真剣な目で言ってたから忘れないようにしようって…子どもながらに思ったのを覚えている。


 母さんは帝国外からやってきたとも言ってたからもしかしたら種族の違いで何か大変な思いをしてきたのかもしれない。

 ちゃんと聞いてはいないから別にそうじゃない可能性もあるだろうけど。


「俺の母さんは帝国の外から来た人だったんです…だから前に話してくれていたのを何となく覚えています」


「帝国の外から…」


「それは…大変だったでしょうね…」


「はい、母さんもあまり過去の事を話したがりませんでしたが父さんとは種族が違う事でいろいろ大変だったと聞いた事があります」


 オレオルは当時をどうにか思い出しながらそう言った。


「オレオル君のお母様が生きていたらきっとあの人なら錬金術にまつわる歴史も詳しく教えてくれたと思うわよ」


 ?

 それは確かにそうだったかもしれないけど、なんでそれをリリアさんが知って…あの人?


「リリア! 」


「あ…」


 リリアが『やってしまった!』という顔でアントンを見た。


「はぁー…すみません、オレオル君…」


「え、いえ、よくわかりませんが聞かなかったことにした方がいいんでしょうか…? 」


「そうしてくださると助かります」


 俺はこの人達の事情に首を突っ込むつもりは無いのだ。

 母さんの事は気になるけど、じいちゃんが帝国はおかしいと言っていたからまあ国の裏側の事情とかそういう話になるんだろうと思う。


 平穏でいたいならそういう事は知らない方がいい。


「え、えーっと…錬金術は失われてなお歴史で学ぶくらいすごい術だったって事ですよね! 」


 オレオルは強引に話題を元の流れに戻した。


「ふふっ…そうですね」


「実際、錬金術はものすごく便利な技術だったらしいわよ」


 オレオルはリリアのその言葉を聞いて手元にある出来たてホヤホヤの人工魔石を見た。


「今あるこの人工魔石からわかる情報だけでも錬金術のいい所がいくつも思いつきますから…これが一般に普及していた時代があるという事は今よりももっとすごい物で溢れていた時代だったんでしょうね」


 錬金術があればクズ魔石を"大きさと質が同じ"の元より大きなサイズの魔石にする事ができる。

 同じ大きさの魔石が簡単に作れるだけでも魔道具作りで天と地程の差ができるだろう。


 今の主流は1つの魔石を使う魔道具だがそれは同じ大きさで同じ魔力の質をした魔石がほとんど存在しないからだ。

 しかも使う魔石の力が設計した時に設定したものと一定以上離れすぎないようにしないといけない。

 でないと回路がショートして上手く機能しなくなるからだ。

 これが原因で魔道具の量産は難しいとされている。


「ねぇ、その壺で他には何が作れそうなのは無いの?」


 他?


「他に…ですか…? 」


「ええ、だって入れておくだけでできるようだし何か作っておいてもらった方が無駄がなくていいじゃない? 」


「確かに…それもそうですね」


 オレオルはリリアの言うことにもっともだと思いパラパラとレシピ本のページをめくった。

 するとひとつ気になるレシピを見つけた。


「 見つけましたよ! なんかやばそうなやつ! 」


 何とこのレシピ、はしゃいだ水精霊達によって生み出されてしまったあのやばい水を使えるレシピみたいなのだ。


 使わないといけないと思っていたしちょうどいいよね。


 オレオルはそのレシピをじっくりと読みこんだ。



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