第22話 護衛されてる疑惑と不思議な壺
澄んだ空気と浄化された綺麗な魔素。
生き物が戻るにはもうしばらく時間がかかるようで今は不気味なくらいに静まりかえっているが、もうここは大丈夫だろうと判断された。
そう。この集落跡は張り切った"十字架ちゃん"によって無事完全に浄化され、普通の廃墟に戻ったのだ。
「それじゃ冒険者ギルドに報告するためにここの調査だな」
「魔物はもういないだろうけど気をつけて行くようにね」
二手に分かれて周辺を調査をする事になった5人。
万が一魔物の残党や野生の魔獣に出くわした時のために前衛と後衛がそれぞれの組に1人ずつは必ずいるような編成にしようという事になった。
よってオレオルはセレーナとアントンの2人と一緒に探索をする。
前衛も後衛も両方できる2人がどっちも一緒の組なのは自分を守るためなんだろうなとオレオルは察し、過保護な人選に微妙な気持ちになった。
俺が小さいからか?
優しい人たちなのはよくわかってるし、戦闘に関して俺は今までしてこなかったからアレクさん達よりは圧倒的に弱いだろうし、その事はわかっているつもりだ。それでも純粋な疑問として引っかかる。
心配した門の兵士にお願いされた程度で俺をここまでがっちり守るか…?
そりゃ、俺生産職だし、怖いから戦いたくないし、守ってくれるのは純粋に大歓迎で嬉しい。
でもこれ…絶対俺の護衛をお願いした誰か…いるよな?
その誰か…が、変な厄介事を呼ばなきゃいいんだけど…
立ち並ぶ崩壊しかけた廃墟と壊れて崩れかけている柵。地面には瓦礫も散乱しているので気をつけて周囲を見渡しつつオレオルは考える。
爆発の名残りでまだ少し臭うがそれは自業自得なので我慢するしかない。
オレオルは戦闘中に回収出来ていないためにあちこちに散乱している様々な大きさと種類の魔石を2人と共に拾ってまわる。
辺りに魔物の気配は無い、頭を使うような事もしてない。
今がちょうど聞いてみるいい機会なのではと思ったオレオルは護衛について思い切って2人に聞いてみる事にした。
「あの…アントンさん、セレーナさん1つ聞きたい事があるんですけどいいですか? 」
「なにー? 」
「いいですよ」
「俺の護衛はどなたから頼まれたのか聞いてもいいですか? 」
俺がそういうと2人はわかりやすく動揺した。
「やっぱり…門の兵士さんじゃないですよね、誰です? 」
俺には知る権利があると思うのだ。知ってる人ならお礼をしないといけないし、知らない人なら警戒しないといけない。
「見た目通りの子供じゃないから気をつけろって言われてたのに…バレちゃったねー…」
どうする? という目でアントンを見たセレーナ。
「私が説明しておきますからセレーナはこの事をアレクに伝えてくれませんか? 」
「わかった! ありがと! 」
セレーナはそう言うと、アレク達が探索すると言っていた方へと走って行った。
今…セレーナさんを俺の追求から逃がした?
オレオルはアントンの行動を訝しんだ。
「セレーナは嘘が苦手なんです」
オレオルが不審に思った事がわかったアントンがそういった。
「…だから逃がしたんですか? 」
「オレオル君もセレーナが訳ありそうな事には気づいているでしょう? 」
「あー…なるほど、理解しました」
セレーナさんを逃がしたのは俺に嘘をつくためではなく、俺を〈蒼い不死鳥〉の事情に巻き込まないため…か?
という事は…
「俺の護衛の報酬は[出国審査事前通過証明書]を持つ者の同行者として出国審査をスルーする事ですか?」
同行者として出国する事で〈蒼い不死鳥〉の名前とセレーナさんの名前を出国申請者のリストに上がらなくするためだろうと検討をつけた。
なんかセレーナさんって言葉使いは庶民だけど、所作とか姿勢がよくて育ちがいいのが丸わかりだから訳ありなのは誰が見ても丸わかりなんだよね。
案外、元は帝国のどこかの貴族家のお姫様とかでその家から逃げてて追手がいる、とかでも不思議じゃなさそう。というか、可能性が1番高そうなのはそれだよね。
「確かにちょうどセレーナの実家がセレーナを家の代表として徴兵させるために無理矢理連れ戻そうと企んでいると聞いたタイミングでしたから、ちょうど良かったのはそうですがオレオル君の護衛を依頼してきた人はちゃんといますよ」
アントンさんがにっこりと微笑んだ。
「そうなんですか? 」
オレオルはキョトンとした顔でそう尋ねた。
「えぇ、あの日私たちはセレーナの出国をどうしたらいいか、ガルガイアさんのお店で相談していたんです」
「ああ…ガル爺の持ってるアーティファクトですか?」
「そうです、あの方の持つという『大陸のどこにでも行く事のできる』というアーティファクトでセレーナだけでも先に逃がして貰えないか相談に行ってたんです」
やっぱり…。
ガル爺は『触れている者が1度行ったことがある場所ならばどこへでも一瞬で行ける』魔道具を持っている。だけどたまにそれを『大陸のどこにでも行ける』魔道具だと勘違いして『〇〇へ連れて行ってくれ』と依頼しに来る者がよく来るらしい。
ガルガイアから愚痴を聞かされていたオレオルはその事をよく知っていた。
「断られたでしょう? 」
「ええ、その人が行ったことのない場所へはアーティファクトでも連れて行けないから無理だと言われて」
だろうなぁ。
「でもそれがどうして俺の護衛の話になるんですか? 」
「ちょうどその時ガルガイアさんがオレオル君の[出国審査事前通過証明書]の手続きをしようとしてる所だったんですよ」
「あぁ…なるほど」
ちょっと引っかかるけど嘘はついてなさそうな感じがするし、そういうことなら俺の護衛を依頼したのはガル爺かじいちゃんのどっちかかな。
「じゃあそこで護衛依頼を受けたんですか? 」
「ええ、ガルガイアさんのお店で護衛依頼の書類にアレクがサインをしたのでそうなりますかね」
控えはアレクが持ってるので気になるようなら後で見せてもらうといいですよ。アントンはそう言って笑った。
「じゃあ俺の護衛依頼はガル爺からで──「アントン〜! ちょっとオレオル君連れてきてってアレクが! なんか変な壺見つけたんだって! 」」
俺の護衛依頼はガル爺からですか?
と聞こうとしたオレオルがそれを質問しようとしたが、突然戻ってきたセレーナの声でそれが遮られる。
「「変な壺?」」
オレオルとアントンの声が重なった。
*
あの後、セレーナにアレク達がいるという壺の場所まで案内されたオレオル。
目の前の古びた壺を見てびっくりした。
「え、この壺がそうなんですか? 」
古そうではあるけど…
気になるのはそれくらいで、他は特に何も特徴のない普通の壺に見えるんだけど。
いや、強いて言うならこの場所に放置されてた割には綺麗すぎるか?
「いやいや、その壺やべえ魔力発してるからな!? 」
アレクがそう言ってオレオルの普通という認識を否定した。
「ワタシにも古いだけの普通のツボに見えるんだけどね」
「長い間放置されてた割には綺麗ではあるけど、それくらいだよね〜」
「そうですね…割れたりかけたりもしてなさそうですし土埃も被ってないですね…」
オレオル以外の3人も口々にそう話す。
「やばい魔力…そういう事なら少し怖いですから触る前に【鑑定】してみますね? 」
変な言葉とか出てきませんように!
【鑑定】!
───────────
[
状態:清潔〔僕綺麗だよ! 〕
森の奥深くの集落跡地にあった綺麗な壺。
強力な魔力を放っているが用途は不明。
───────────
は?
〔僕綺麗だよ! 〕って呑気か!?
というか待て。
意思があるということはこれ最低でもアーティファクト、か…?
え、これがアーティファクト…?
いや、冷静になれ自分。
仮にもアーティファクトなら情報がこんなに簡素すぎるはずがない。
というかこの鑑定結果、なにができるとかなんも書いてないんだけど!!
という事は確定で鑑定結果を偽れるという事。
つまり………
……
…!!?
「はぁ!? この壺、聖遺物!? ウッソだろお前!? 」
〔僕綺麗だよ! 〕じゃねえよ!?
もっと他に言うこと絶対あるでしょ!?
何普通の壺ですって顔してんだ!!
もしかして、聖遺物って変なやつしか居ない…?
いや、セレーナさんのはひねくれてたけどここまで変じゃなかったし比べたら可哀想か。
…いや、俺思考がおかしくなってるな。ひねくれた聖遺物は普通じゃないわ。
というか旅に出て2日目なのに聖遺物2つ目ってどういうこと…
*
…
……
………
…………
オレオルが集落跡地で古い壺の【鑑定】の結果にびっくりしているのと同時刻。
その古い壺をオレオルが拾う光景を離れたところから見ている二つの人影があった。
1人は背が高く、肌以外が漆黒の大人の男。
もう1人はまだ子どもの様に見える。
「……! 」
「…? 」
「………!! 」
「………」
何やら言い合っている様子のその2人は高位の魔術によって姿や気配、声、魔力などの全てを隠しており、オレオル達は近くにその人達がいる事に気づいてすらいなかった。
ましてや見られていることなど知る由もない。
「で、釜は無事に拾われたのか? 」
「…拾われたよ」
「じゃあもうここに用はねえな」
男は「鉢合わせない様にさっさと帰るぞ」と言い、一緒にいた子ども置いてさっさと背を向けた。
「あっ! ちょ、待って!! 」
そう文句を言いつつその男にかけよった子どもが男の服を掴む。
「置いていくなよ! 」
子どもが自分の服を掴んだのを確認した男は魔術を起動させた。
空間転移の魔術だ。
男が発動させたその魔術によって、男と子どもの足元に魔術陣が出現すると次の瞬間には2人の姿は消え失せており、その姿はなかった。
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お読み下さりありがとうございます!
やっと壺を登場させることができました
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