第19話 山火事の危機と突然の雨


「イ、イヤー…あ、焦ったねー…」


 爆発がおさまって少しの間、そのあまりの威力に放心していたオレオルはセレーナの震え気味な声で我に返った。


「威力が想定をはるかに超えていたわ」

「さすがの俺も今回ばかりは変な汗が出たぜ」


 爆発が収まってすぐ、口々にそう話すアレク達もオレオルと同様に動揺が隠しきれていない様子だ。


「まずいですね…」


 そんな中アントンが契約している風の精霊からある事を聞いて焦った声でつぶやいた。


「どうした? 」


 アントンのつぶやきを聞いて一瞬で気持ちを切り替えたアレクがパーティのリーダーとしてそう返した。


「問題は2つです」


 そう言ってアントンがあげた問題点というのは、今の爆発による熱風で山火事が起こりかけている事と今の爆音が距離的にナスハワの街やタリアの街にとどいているだろうということだった。


「それはまずいな…」


 アレクは山火事による素材損失の損害賠償や、帝国国境付近での大爆発の音がした事で起こりえそうなあれこれなど、良くない未来が頭を巡りそうつぶやいた。


「ご、ごめんなさいっ…! 」


 オレオルは自分が危険な物を作ってしまったからだと思い泣きそうになる。

 なぜなら賠償金が払えなかったら奴隷落ちかもしれないと最悪のケースすら簡単に頭をよぎったからだ。


「いえ、責任と言うならワタシにあるわ」


 着火したのはワタシだもの。

 そう言ったリリアは青い顔をしていた。


「そもそも提案したのはぼくだよ! 」


 リリアの言葉にセレーナがそう言い「今ぼくいくら持ってたっけ…」と損害賠償金の事を考え始めた。


「それを言うなら最終的にやっていいと許可を出したパーティリーダーの俺にも問題はある」


 とうとうアレクまでもがそんな事を言い始めたその時───


 ポツ…


 ポツ…ポツ…


 ザァーー


 ───突然この辺りにだけ大雨が降り始めた。


 そしてその雨が降り出してすぐ。


「え、あぁ…そうなんですか…良かった…教えてくれてありがとうございます」


 それまで顔面蒼白だったアントンがなにかを契約精霊から聞いてほっとした顔をした。


「皆さん、いい知らせですよ! なんでもこの集落跡地全体をどなたかが【音遮断結界】でおおっていてくれたらしく街に音は届いていないそうです」


 は…?


「この大きな集落全体に【音遮断結界】!? 」


「魔力どれだけあったらそんな事できるのよ…」


「それは…例の件つながりか? 」


「はい、おそらく」


 アントンに何かを聞いたアレクはその返事を聞いて「じゃあもう大丈夫だな…」とほっとした表情でいった。


「にしても集落全体に結界…いや、当然っちゃあ当然なんだろうが…」


 アレクはそう言ってからふとオレオルの方を見る。

 そしてその後すぐに「そういやそうだったわ」と1人つぶやいて何やら勝手に納得した。


 なんだ?

 何がどういう事なんだ?


「あの…? 」


 オレオルには何がなにやらだったのでどういう事かを聞きたくて声をかける。


 体にあたる雨が冷たくて俺を冷静にさせてくれるから俺はみっともなく喚き散らさずにすんでいるが、撃ち込んだ実が大爆発をしたあの瞬間から生きた心地が全くしていなかった。


「俺は…あなた達に迷惑をかけずに済むということでしょうか…? 」


 俺の不用意な行動のせいでこの人達を最悪奴隷にしてしまっていたかもしれない。そう思うと震えが止まらない。


 そしてそんなオレオルにアレクが優しく声をかけた。


「大丈夫だ…音は街まで届いていないとアントンの精霊が言ってるし、山火事はこの雨ですでに鎮火しつつある」


 何も問題はなかったようだから安心しろ。

 そうアレクははっきりと言った。


 よ…


「よかったぁぁぁ〜…」


 早くも旅終了かと思ったぁぁぁ!!!


「あの、この雨は…? 」


 オレオルは少し前まで雲ひとつない快晴だった空を思い出して尋ねた。


「契約してる精霊に聞いた所、この雨は偶然近くにいた親切な方が天属性と水属性と火属性の魔法の応用で【天候操作】魔術を発動させて降らせてくれたみたいですよ」


 アントンが微笑んでそう言った後、「あのままでは火の手がこの森全体に広がっていたでしょうから助かりましたね」と、アントンが苦笑いした。


「天属性…? 初めて聞きました」


 帝国の庶民の学校では基礎属性の派生である上位属性はあまりやらないのでオレオルは基礎属性以外の魔法については全く知らないのだ。


「天属性は一部の魔族や鳥系の獣人、あとは浮遊大陸に住むと言われる天使族なんかが得意だと言われている属性ですね」


 へぇー。


「そんな属性があるんですね」


 オレオルはその返答を聞いて帝国の学校で魔法の上位属性より先をやらない理由を何となく察してしまった。


 帝国は人族至上主義なのだ。複合属性となると中には人族以外のものにしか使えないと言われているものもある。その関係からオレオルの通っていた帝国立の学校ではやっていないのだろうと想像がついた。


「人族でも稀に使えるようになる方はいると聞きますがそこまでの域に達するにはかなりの年月魔法や魔術に関して研鑽を積む必要があるでしょうね」


 そういうアントンさん自身も当然使えないし、上位属性の精霊も存在自体はしているらしいが天属性の精霊など会った事も聞いた事もないらしい。


 けど、こういう言い方をするってことは存在はしてるってことなのかな?


「いつか会ってみたいです」

「そうですね、私もです」


 オレオルはアントンと話した事でようやく気持ちが落ち着いて来たようでその表情に笑顔が戻った。


「おっし、もう大丈夫だな! じゃあ残党狩り行くぞ! 」


「鎮火しても雨止まないもんねー」


「ちょうどいいから後で久しぶりに水魔法も使ってみようかしら」


 3人がそれぞれ立ち上がったのを見てアントンが近くにやってきた。


「オレオルくん私のそばから離れないでくださいね」


 い、行くのか…?

 あの見ただけで身体が重くなりそうなどす黒いもやの中に…?


「は、はい、わかりました」


 オレオルは内心で『めちゃくちゃ行きたくない!! 』と思いつつも、震える声でそう返す。


 こうしてオレオルと〈蒼い不死鳥〉の4人は半分ダンジョン化している影響で穢れた魔素が充満している、黒い靄の中へ進むこととなった。



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