第17話 うま味爆弾(食材)とリアル爆弾(兵器)


「あの⋯ここの切ってあるモモ肉全部貰ってもいいですか? 」


 すっかり空腹に取り憑かれていたオレオルはそう言ってまだ肉がたくさん残っている大きな皿を持ち上げた。


「ん、え? 俺は腹いっぱいだし別にかまわないが…」


 お前らもそうだよな?

 という目でほかの3人を見たアレク。


「ええ、私ももう満足です」


「ぼくももうお腹いっぱーい」


「ワタシもよ…というよりオレオルくん…まだ、食べれるの? 」


『あなたのお腹どうなってるの? 』という目でリリアから見られた。


 うん?

 ………あぁ!


 さっきのでっかい肉は焼いたはいいが食べきれなくてイタズラで俺によこした感じか!


 普通の人ならとっくにおなかいっぱいになってるだろう量は俺も既に食べてるしな。


 それなのに俺が普通に美味しそうに食べちゃったもんだから反応に困ってたのか。


 すぐに気づけなかったわ。

 だから微妙な顔してたのか。理解。


 認識の違いからその事に気づいていなかったオレオル。

 リリア達からの心配と未知のものを見る目が混ざった視線をスルーしていると、アレクから「何する気かは知らないが好きにしていいぞ」と許可を貰えた。


「ありがとうございます! じゃあありがたくいただきますね! 」


 オレオルは、先ほどアレクに口に突っ込まれたお肉が美味しかった事で、すっかり腹へりスイッチがオンになってしまっている。


 こうなったらオレオルのお腹は満足するまで食べないとそのうち音が鳴り止まなくなる。


 そのため、オレオルはもうめいっぱい食べてしまおうと決意してしまっていた。


 そうと決まれば即行動。


 まずはたくさん切ってあったおかげでまだ残っていたモモ肉を全て焼いていくオレオル。

 焼き加減は中がまだ生で残ってるくらいで、味付けはガリク(ニンニク)ソルソース(醤油)だ。


 一度に焼ききれなかったので何度かに分けたが大皿に大量に残っていたモモ肉は全てオレオルによって焼肉に変わった。


 元々今日はとてもお腹が減っていたし、俺は人よりかなり食べる方だと自負もしている。

 最初からかっ飛ばして食べると、他の4人が満足に食べられないまま全部食べ尽くしてしまいそうだった。


 だから遠慮していたがもういいだろう。


 俺が今になって動きだしたのは、ほかの4人の食べるペースが落ち着いていたからというのもある。


 オレオルはロングバケットを食糧袋から数本取り出すとその全てを横半分に切った。


 そして切った両方の断面にマヨネーズソースを塗り、千切りにしたキャベッサ(キャベツ)と輪切りしたダマト(トマト)をのせて、その上にガリク(ニンニク)ソルソース(醤油)のタレで焼いた肉をのせる。


 最後に余っていたセラーリ(セロリ)の葉とカラティ(人参)の葉も挟んで上から追いソースをかけて完成。


 ファイヤーオストリッチの焼肉と余り物野菜の即席ロングバケットサンドだ。


 千切りキャベッサ(キャベツ)とセラーリ(セロリ)の葉は骨を寸胴で煮込む際に入れた香味野菜の葉の部分で、カラティ(人参)の葉はバーベキュー用に根の部分だけ使った残りだ。


 よっし! 食うぞー!


「いただきます!! 」


 オレオルは積み上がったロングバケットサンドにポカンと固まる4人。


 それをスルーして、ロウルから教わった挨拶を今さらながらにすると長い長いバケットサンドにかぶりついた。


「ああうえあえいうい⋯(訳:長くて食べにくい⋯)」


 めんどくさがらずにせめて3分の1くらいには切るべきだな…


 さすがにそのまま食べるのは無理だと判断したオレオル。

 もごもごと口の中にサンドがはいったまま立ち上がると

 、爆速で全てのロングバケットサンドを3等分にした。


 そして再びかぶりつくオレオル。


「おいひぃ」


 オレオルはロングバケットサンドを頬張ったままとろけるような笑顔で笑った。


「そ、それを…全部おひとりで…食べ、られるのですか? 」


「ふぁい、あいおーうえふ(訳:はい、大丈夫です)」


「そ、そうですか」


 彼らが若干引いているような気がしなくもないがそんな事よりお腹がすいた。


 バケットサンド美味しい。幸せ。


 オレオルは山のように積み上がっているバケットサンドをひたすらに咀嚼していく。


 そうして、最初4人には信じられないくらい量がある様に感じたバケットサンドの山はみるみる低くなり、わずかな時間で全てオレオルの口の中に消えていった。


 ちなみにその間、オレオルが食べる音のみがしており、ほかの4人はその様子をなぜか固唾を呑んで見守っていた。



 *



「ご馳走様でした! 」


 とてつもないスピードでバケットサンドの山を平らげたオレオルが手を合わせて挨拶をした。


 そしてその後すぐ。


 ぐ〜⋯


 オレオルのお腹が鳴って元気に空腹を訴えてきた。


「お腹空いた⋯」


「いやいやいや! 待て待て待て!! さっきのバケットサンドは!? 」


 さすがに黙っていられなくなりアレクが思わずつっこんだ。


「わかりませんが、たぶん俺のお腹の中です」


「そんなに小さいお腹のどこにそんな余裕が!? 」


 楽しそうに笑ったセレーナが「ぼくさっきのサンドなら、2切れでお腹いっぱいになる自信があるよ」と言ってオレオルの引っ込んでいるお腹を見た。


「わかりませんがお腹空いたのでそこの残ってるの焼いて食べていいですか? 」


 いつもならこんだけ食べれば満足するのになぁ。


「あ、ああ⋯もう好きにしてくれ」


「私は見てるだけでおなかいっぱいです」


「ワタシもよ」


「そう? ぼくはここまで行くと逆に見ていて気持ちいいなと思ったよ」


 オレオルはなぜか今食べても食べてもお腹が減っていくだけで、全然満足出来ない。


 そしてこの現象は一週間前くらいから発生しており、食欲が爆発しているせいで食費がマッハだからけっこう切実な問題でもある。


 お金は稼げるから問題ないけど、食費を確保するためにその大金を稼ぐとおそらく確実に国からお偉いさんが来る。


 俺としてはそれは避けたかった。


「なんでここ最近食べる量が爆増してるんだろ⋯」


 今日は特に酷い。

 たくさん動いたからかな?

 勘弁してくれ。


 思わず呟いたオレオルの言葉を聞いてアレクがアントンに何かを耳打ちした後、アントンが頷き、それを確認したアレクがオレオルの方へとやってきた。


「お前さん今日まだこれ食べてないだろ? 食べてみろよ、うまいぞ」


 余っていた肉や野菜を片っ端から焼いて食べていたオレオルにアレクが焼く前のしいたけをたくさんのせた皿を持ってきた。


 あれ、しいたけって野菜と同じ皿に盛ってなかったっけ…別皿に全部避けられてる…?


 なぜ…?

 まあいっか!


「ありがとうございます! 」


 見かけなかったから忘れてたけど、このキノコ【鑑定】した時から気になってたやつ!


 オレオルはしいたけの皿を受け取り網の上にのせるとその上からソルソース(醤油)をちょろりと垂らした。


「美味しそう…」


 早く焼けろー…


 お肉や他の野菜を焼けた端から食べているとしいたけも焼けたので一口でパクリ。


 んむ!!?


「うまぁー!! 」


 これがうまみとやらなのか!?

 噛む度にじゅわーっと肉汁のように溢れだしてくる!


 それになんかこれ一個で随分とお腹も膨れた気がするし、しいたけ大好きになったかもしれない…


 オレオルがしいたけの美味しさと満足感にニヨニヨとしているとアレクが心配そうに見てきた。


「なぁ、お前…それ、食べて本当に大丈夫なのか? 」


「え? しいたけ渡してくれたのアレクさんですよね? 」

「それはそうなんだがよ…」


 どうにも歯切れの悪そうなアレクさん。


「いや、大丈夫ならそっちの方がいいし、俺も最終的にそう判断したからソレを食べるように勧めたんだがよ…」


 そう言って頭をポリポリとかいた。


「…えっと、よく分かりませんがとっても美味しかったです! おかげでお腹いっぱいになれました」


 オレオルが続けて「しいたけってすごいんですね」と言うとアントンがとても微妙そうな顔をした。


「いえ、オレオルくん…普通のしいたけにそこまでの味も力もありませんよ」


「そうそう、今日採った謎しいたけが特別だっただけだ」


 え?


 謎しいたけ…?


 しいたけって全部こんなに美味しいのかと思ったんだけど違うの?


「オレオル君、君は魔力が枯渇しかけてたんだよー」


「そうそう、だからその謎しいたけが美味しく感じたのだと思うわ」


 ん?


 え?


 ……。


 マリョク…コカツ…?


 魔力枯渇。


 魔力枯渇!?


「なんで!? 」


 これまで一日中魔法使いっぱなしでも魔力枯渇した事なんて1度もないのに!


「……お前さんがなんでそんな状態になってるのかは知らないが、お前さんがさっき食べたしいたけは…ほら…昼間にお前が作ってたあのやべえ魔力してた瓶、あれと同じくらい、やっべぇ色してたから」


 やべえ魔力の瓶って…まさか…


[はじけプリカ火薬瓶(特上)]の事!?


 あの超危険物と、さっきのめっちゃうましいたけの魔力というか魔素? が同レベルだった…って事!?


 んなアホな。


 道理で誰一人としてしいたけに手をつけようとしないわけだ!


「別皿にされてたのは隔離してたからか!! 」


「1番気になるのはそこなのね」


「だって誰か気づかないで食べてたら大変な事に…」


 常人がそんなもん食ったら急性魔素中毒で即死ぬ。

 もはや爆弾じゃん、こっわ。


「大丈夫よ、あんなにそこにあるだけで圧を感じるキノコ誰も食べようとしないから」


「ええ、私もしいたけは好きなのですがさすがにそのしいたけは食べようとは思えませんでした…」


 アントンさんが残念そうな目でまだ俺の皿に残っている焼きしいたけを見た。


 ……もしかして。


 アントンさんがずっと焼く係やってたのって、もはや爆弾級の毒物と化している謎しいたけと普通の食材を混ぜないようにするため…?


 しいたけの魔素で普通の野菜まで食べれなくなるのを防ぐため…?


「気づかなくて本当にすみませんでした…」


「いえ、わかっていたのに話さなかったのはこちらですから大丈夫ですよ」


「ありがとうございます…」


 大丈夫だと思っていた食材に特大の危険物が混ざってた…それも爆弾級の。

【鑑定】してても流し読みして気づかなきゃ意味ないよな…これは反省。


「はっ!? 昼間の火薬瓶はガチ兵器の方の爆弾だったけど、こっちはこっちでうまみ爆弾だった…? 」


「爆弾…」


「そうだな…確かにそのバケモノキノコはもはや兵器レベルではあるな…俺らが食べたら死ぬし」


 アレクの気の抜けたような力のない声が辺りに虚しく響いた。




 *




 爆弾しいたけ1個で無事に満腹になった俺はみんなとご飯のあと片付けをし、干していたしいたけや、火にかけていた骨のスープも一度リュックに片付ける。


 そして寝る準備も終えた後の綺麗になったテーブルの上に[はじけプリカ火薬瓶(特上)] だけを置いた。


「これがその偶然できたって言う危険物ね? 」


「そうです…」


 魔法使いであるリリアが広いテーブルにポツンと1個だけ置かれている危険物をじーっと観察している。


「やっぱり1粒試しにどこかで爆発させてみるしかないんじゃないかしら? 」


 真剣な顔をしてそんな事を言うリリア。


「だって爆発するだけなんでしょう? 爆発させた所を汚染したり、炎撒き散らしたりしないなら…まあ、大丈夫じゃないかしら」


 リリアがそう言って瓶を手に取って揺らした。


「じゃあさ! こんなのはどう!? 」


 リリアの提案にセレーナが1つ思いつきであるアイデアを口にした。


 い、嫌な予感がする…


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