第10話 精霊の印と精霊の贈り物 ②

 取り留めのない話をしつつも逐一様子の確認だけはしていたオレオルは色とりどりの花びら入り蜂蜜をくつくつとさせている小鍋の中に、ふと思いつき何となく合う気がしたので先程作ったばかりの[ナナリアの花びらの高濃度抽出エキス(特上)]を一滴落した。


 すると甘いココの木の蜂蜜の香りとナナリアの花の落ち着いた甘い香りが溶け合い、さっぱりと甘い良い香りがオレオルの鼻腔をくすぐった。


 これであとは濾して花びらを除いたら、冷まして、それでココの木の蜂蜜は終了…かな!


 オレオルは出来た蜜を少しだけスプーンですくうとそれを指先につけて舐めた。


 上品で落ち着いた甘さと花の香り。そしてあとからやってくる複雑な風味。


「うん、[花々香るココの木蜂蜜]いつもよりいい感じに出来た気がする! 」


 蜂蜜の採れた場所が違うから少し不安だったけど良かった。

 マジックバックにしまう前に【鑑定】っと!


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[精霊花蜂の百香蜜(極上)]

 状態:中精霊のお気に入り

 ココの木に巣を作っていた精霊花蜂から採れた蜂蜜を加工したもの。

 加工の際に使われたナナリアの花びらを処理する時に使われた聖霊水の効果で僅かに聖なる力が宿っている。また、さわやかで落ち着いた甘い香りは古代魔香木エルファマナによって高められており、通常のものより精霊を寄せやすくなっている。

 体内に取り込む事で魔力の回復を促し、その香りは精神をも癒す力を持っており、肌に塗ると保湿、美肌効果もある。

 ※精霊によって効果が高められているため常人の過剰摂取は要注意。(平均的な人族で適量は1日15g前後まで)

 ───────────


「[花々香るココの木蜂蜜]じゃない!? 」


 いつもの流れで品質を確認してから蜜の入った容器をしまおうとしたが、知らない、見た事の無い、心当たりもないという無い無い尽くしの初めましてすぎる鑑定結果に思わず変な声が出そうになった。


「どうかしましたか? 何か問題でも? 」


 オレオルの声にアントンが不思議そうに聞いた。


「あ、いえ…問題はない、です…なんかこの蜜を気に入ってくれた精霊さんが居たみたいで今まで見た事ない鑑定結果だったのでちょっとびっくりして」


 あっれー…おかしいな…?

 たしか蜂蜜採集した時確かに【鑑定】して…ない! そういえば【鑑定】しようとした所で魔物に襲われて【鑑定】してなかった!!

 あぶねー!

 さっき何も知らずに味見しちゃってた!

 毒とかなくて本当良かったー!!


 採った時に鑑定してなかったという俺のミスによって出来た蜂蜜の鑑定結果は気になる事だらけ。

 まず精霊花蜂って何。 そんなのここら辺にいなかったはずだけど? とか

 品質極上とか初めて見た! 嬉しい! とか

 聖霊水ってのは何。こっちは精霊花蜂と違って名前を聞いた事すらない。 当然そんなの使った覚えもない。とかとか

 そういや初めて見た言えば、精神を癒す効果は蜂蜜では初めて見たな…


 それはそれはびっくりして叫びたくなったオレオルだったが、アントンがいるのでどうにか気持ちを落ち着けた。


 ガル爺かドロシー婆ちゃんに聞きたいけどガル爺はしばらく会えそうもないし、ドロシー婆ちゃんもたぶん近くにいないだろうしなぁ。じいちゃんがいたら聞けたのにな…


〈蒼い不死鳥〉のみんなはいい人達なんだろうとは思うけど、お金は人を変えてしまうと知っているオレオルはこのとんでも効果になってしまった蜜の事を出会って数日の人に話す気にはなれなかった。


 街に着いたらドロシー婆ちゃんにでも手紙を送って聞こう。そう思って蜜の入った瓶をそっと鞄にしまうとプリカの実の方に意識を持っていく。


 蓋で中は見えないが小さな実が発火草の種油で揚げられているジューという音が中から聞こえる。最初にはじけ出した時と比べると音が落ち着いて来ているので、一見もう終わったかのように錯覚しがちだが、時折聞こえるボンッという破裂音が全ての実が弾けきっていない事を教えてくれるので、音を聞きながらその音がジューという音からパチパチとした落ち着いた音に変わるのをじっと待つ。


 そうしてまったりしていると先程火精霊が入った小壺からカタンッと音がした。


 気になって小壺の方を見てみると中に真っ赤に輝く粉が入っていた。そしてその中にさっきと同じだろう精霊がまだ居る気配も。


「燃えている粉…いや、これ火の粉そのもの?」


 初めて見る素材でわからないので中の精霊に一言言ってから耐火のスプーンで少しだけすくい、それを【鑑定】した。


 その結果がこれだ。

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[火精の粉火砂]

 火の精霊が感謝の印に自分の力を砂状に込めたもの。

 武器の素材にすれば精霊武器が、アクセサリーに加工して装備する事がもしできたならば誰でも火の精霊魔法が使えるようになる。薬の材料にならなくもないため、火属性との親和性と火属性耐性が上昇する秘薬が作れる…かもしれない。

 そこにあるだけで火の小精霊以下の精霊達が寄ってきやすくなる。

 ───────────


 さっきの封風石の火属性バージョンなのかな。 それにしては所々微妙な言い回しな気がするけど。


「火精霊は石じゃないんですね」


 鑑定結果をアントンに伝えた後にオレオルはふと気になった事をつぶやいた。


「いえ、火精霊も普通は封火石という石をくれるはずなのですが…特殊なユニーク個体なんでしょうか…初めて見る素材ですね」


 え。


「これでも全基礎属性の精霊と交流していますし、“精霊の贈り物”には詳しいつもりでしたがまだまだだったようですね」


 アントンが興味津々に粉火砂を観察している。


 粉火でいっぱいになった小壺の中から精霊の気配はまだしており動く気配は欠片も無い。


 というかこいつ⋯寝てないか…?

 …いや、まさかな。そんなはずないか。


 ないよな?


「壺に蓋して鞄にしまいたいけどそろそろ外に出たくなったりしないのかな、どうしよう」


「えーっと…今日はもう移動しませんし、1晩置いてあげてみてはどうでしょう? 精霊は気分屋でマイペースな子も多いですしね」


 アントンが微妙そうな顔で小壺の方を見つつそう提案した。


「…そうですか」


 なるほど寝てるんですね。


 アントンさんの微妙そうな表情を見て俺は察した。


「そうします」


 精霊にも天敵はいるよな? お前そんなんでいいのか…? 呑気すぎないか?


 事実を悟ったオレオルもアントン同様微妙な気持ちになった。



 *



 その後しばらくして、プリカの実の弾ける音が止んで揚がる音も落ち着いたタイミングで火から外し、熱した油ごと耐火のガラス瓶に移した。


 それを【鑑定】した結果がこれだ。


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[はじけプリカ火薬瓶(極上)]

 状態:魔力超過多、小火精霊のお気に入り

 火をつけることで実に込められた火属性の魔力が弾け大爆発を起こす。

 火精霊によって爆発時の威力と温度が高められている。

 魔力が強すぎるので当然薬には向かない。

 ※瓶から出して1粒ずつ使う事が推奨されている。

 ───────────


「っ!?」


 オレオルはびっくりして瓶を落としそうになる。


 また初めましてな鑑定結果なんですけど!?


 しかも今度は完全に別物。 危険物も危険物。

 北に行くから今のうちに耐寒薬作りたかったのに作れないじゃん。どうすんだ。


「あれだけ楽しそうにしてましたからね…“精霊の印”がついてても不思議では無いでしょうが…なにか変わってたのですか? 」


 瓶を見て動かないオレオルを見かねてアントンが尋ねた。


「精霊の印も…ついては…いたんですけど…」


 問題はそこじゃないんだよなぁ。


 アントンが言ったこの精霊の印というものだが、これは一般的に精霊の力が宿っているアイテム全般に使われる言葉で、宿っている精霊の力の事を指す。


 そもそも“精霊の印”とは加工段階に何らかの形で精霊の力が加わったものに稀につくもので、俺の鑑定スキルでは"○○精霊の残り香"や"○○精霊のお気に入り"という表記で表されるものだ。


 だけど鑑定スキルの形態は人によって全く違うので、鑑定結果をそのまま使うとそのアイテムを買い取る際に様々な齟齬が生じる。


 そのため一般的に言う時は“精霊の印”と一括りにして呼ばれているのだ。


 ヒルダ婆ちゃんの鑑定には"○○精霊の加護"や"○○精霊の興味"と表示されているのだと、前に会った時に教えてもらった。

 大雑把な性格の人だと受けた影響の強さによって"○○精霊大"、"○○精霊中"、"○○精霊小"としか見れなかったり、そもそも精霊と相性が悪く見れなかったり、数字で明確に力のつよさだけを見れる人だったり…


 本当に千差万別だとこっちはじいちゃんが言っていた。


「あの、アントンさんは[はじけプリカ火薬瓶]って聞いた事ありますか? ちょっと見た事ないものになってるので困ってて」


 俺の耐寒薬…俺寒いの苦手なのに…


「いえ、初めて聞く名前ですね…」


 そう言って[火精の粉火砂]の時と同じようにアントンさんは瓶を覗き込んだ。


「耐火薬の材料になるのは知っていましたが火薬にもなるのは初めて知りました」


 ええ、俺もです。


 これどうしよう…試しに1粒だけ取り出して火つけてみる? けど大爆発するとか書いてあるし怖くて使えないよな。

 爆発規模によっては使用者がめちゃくちゃ危ないだろうし。


 え、まじでどうすんの?

 これ。


 不良在庫確定か?




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