第72話 哲普と豆腐
今日は哲普にとって休みの日だ。普段なら他の大名家や織田家の重臣、富裕な商人の寄合に呼ばれ料理を振る舞うが、年末ということもあり、何処も慌ただしい。結果、予定が入っていない。
普段は派手な料理を作る事が多く、それで喜ばれている。しかし自身何が好きかと言えば豆腐だ。寺で育ったことも影響しているのであろう。仕えている幸田広之にしても豆腐が好きだ。新しい屋敷を作る時、豆腐作りのための部屋まで用意している。
休みなら豆腐尽くしと行きたい。幸田家の素晴らしいところは住み込みの奉公人が休みの時、朝から何を飲み食いしても怒られることはなく自由である。ただ、ひとつ難を言えばあまりに口が肥えた広之のおかげで、自身も伝染してしまった。
豆腐ほど奥が深いものはない。広之に教わった豆腐の味噌漬け自体素晴らしい味わいだが、それをさらに燻製とは恐れ入る。もはや豆腐を超えて別物だ。酒の肴として堪えられない。
硬い豆腐を薄く切り、すり身や葱を挟んで揚げたのも実に美味しい。豆腐田楽にしても広之秘伝の玉味噌を使うと想像を超えて別格。揚げ出し豆腐やがんもどきも美味しい。恥ずかしながら想像するだけでよだれが出る。
自分の内弟子に学ばせる機会でもあり、今日は豆腐三昧と行きたい。実は昨日、広之に豆腐で他に美味なる食べ方はないか聞いた。
豆乳茶碗蒸し、豆乳小田巻き蒸しの葛餡仕立て、蟹玉豆腐、豆乳湯豆腐、胡麻油の冷奴、豆腐ちゃんぷる、鶏肉と豆腐のからし焼とか次々に名前が出てきた。まだ、そんなにあるというのか。
聞いた中で美味しそうだったのは豆乳小田巻き蒸しの葛餡仕立てだ。まずは昼にこれを作らせよう。とりあえず内弟子にうどんを作らせる。自分は抹茶ラテでも飲んで、その後は書物を読み漁りたい。
そして午後近くになり、豆腐が作られる過程で豆乳も確保した。うどんを茹でさせ水で締める。昆布と鰹節で上品に出汁を引く(出汁を取るのと違う)。それに醤油少し、塩、味醂、柚子を加える。
卵を撹拌し濾す。その後、冷ました出汁と豆乳を加える。これをうどん入れたどんぶりに注ぐ。具は昨夜から戻した干し椎茸、水菜、人参、難波葱だけ。
後は蒸しあがるまでの間、葛餡を作る。そして、ついに完成した。部屋で存分に食べる。これは美味しい。まさか、うどんにかような食べ方があろうとは思わなかった。
葛餡が実にいい仕事をしているではないか。うどんに絡まり、豆乳の風味も際立つ。ただ大人数には出せない。だからこそ、これまでお蔵入りだったのも納得である。
食事が終わり、少し街を散策。お気に入りの茶房に寄って夕方頃、屋敷へ戻る。広之も帰っていた。豆乳湯豆腐を作ろうと台所へ行くと広之が居る。
「哲普、豆乳湯豆腐作るそうだな。タレの作り方教えておらなんだ」
広之は味醂に戻した帆立の貝柱、九条葱、鷹の爪を油で煮たもの、胡麻油、胡麻、擦った胡桃、山椒、味噌など混ぜ温める。肝心の豆乳湯豆腐は豆腐、塩鰤、難波葱、水菜、葛切りを入れた。風味がたまらない。
他に豆腐ちゃんぷるも広之が自ら作ってくれた。他に豆腐の味噌漬けとカラスミも手に入れ万全だ。部屋に戻り1人でゆっくり食べるとしよう。
豆乳湯豆腐は格別。タレが少し辛いが胡麻油も効いており食欲が増す。これは酒も進むがご飯も必要だ。台所に行き、ご飯を所望。ご飯の上に豆腐をのせ潰す。当然生の九条葱も用意した。最後にタレを掛け掻き混ぜる。
これは美味しい。帆立の旨味が効いており、味に深みが増してるのだ。豆腐ちゃんぷるも実にいい。豆腐を炒めニラと卵を加え、最後に鰹節がのせてある。
豆腐の味噌漬けやカラスミも時おりつまみ日本酒を飲む。これはたまらない。こうして哲普の休日は過ぎて翌日、広之に同じものを作らされるのであった。
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