第70話 幸田広之、兵法を論じる
京の都から大坂へ戻ってきた幸田広之はそのまま登城し織田信孝へ事の次第を報告。その後、広之は自身の屋敷に戻ってきた。
何やら五徳がげっそりしている。家中で問題が起きたのか心配になった。しかし原因は天皇の母君が突然訪ねてきて、翌日も来たとかで神経を擦り減らしたようだ。
縁のある若狭の幸を鬼のように出して感激させたらしいが、もはや自分不在だろうと哲普任せで問題はない。それはそうと、この後、織田信孝、丹羽長秀、幸田孝之、岡本良勝、蜂屋頼隆の5人がやってくる。
今回は本来の歴史を知っている全員が一同に介しての密談だ。終わるまで女中たちは立ち入らせない。簡単な炉端焼き形式で良いだろう。哲普を呼び、要望を伝える。
広之は風呂に入って身支度を整えると先に小さい囲炉裏の間へ入り末に抹茶ラテを持ってこさせ、一息つく。2時間程して信孝が真っ先にやってきた。竹子も一緒らしく五徳たちと広い囲炉裏の間で飲むらしい。
「左衛門よ、聞いたであろう。晴子殿がお見えになって竹子と五徳も肝を冷やしたようじゃ。見てみたかったわ。良い薬であろう」
「その分、上様やそれがしに対して当たられても困りましょう」
「それも、そうじゃな」
そうこうしているうちに長秀たちも皆揃った。
見計らったように塩鯖の燻製、鮑の燻製、豆腐味噌漬けの燻製といった燻製3点盛り。そして囲炉裏で焼くための鮭とば、塩鰤、イカの一夜干し、餅。
広之以外は豆腐味噌漬けの燻製を食べて、これが豆腐なのかと驚いている。
「左衛門よ、来年南方へ向う船は大砲とやらを沢山積むようじゃの」
「仰せの通り。現在、我らは台湾の北部に拠点を作っておりますが、来年は台湾中部、南部、そして呂宋北部へ駒を進める所存。これらの湊へ明の船を呼び込みイスパニアから得た銀と日本の煎海鼠、干し鮑、干し帆立、干し鱈、昆布、フカヒレ、薬酒、薬などと交換致します。そしてイスパニアへ日本の磁器や絹を売るよう交渉するわけですが、我らに逆らえば呂宋はおろかポルトガルのマカオやマラッカ、果てはゴアも失いかねないということ思い知らせます」
「そのための大砲じゃな」
長秀が自分で炙った鮭とば食べる手を止めて話す。
「然様。今の時代、欧州でも船の大砲は決定力に乏しいもの。つまりは質より量。大砲を積んだ欧州と同じ竜骨のある船が沢山あれば威嚇として十分。さらに彼らと同じガレオン船も現在2隻ありますが来秋までは8隻。そのうち4隻は大砲を何十門も積みます。船体に彼らの言葉でガレオン型第34号艦とか書いておけば肝を冷やすでしょう。さらにマニラをいつでも占領出来るよう竜骨のない船を揚陸兼用として大量に用意。ガレオン船の艦隊を新亜州(米大陸)へも送り威嚇します。そしてアラスカの金も採掘しましょう」
「相変わらず容赦ないのぉ。お主を敵に回したら幾つ命があっても足らぬわ。ところでアラスカは何処じゃな」
「彦右衛門(孝之)殿こそ手厳しいこと申す。アラスカは新亜州の西北端でござる。日本からは北海道より島伝いに行くことも出来ますが、とにかく寒い。阿仁の銅山鉱夫と羽後や羽前から寒さに馴れた者を送ります。まずは途中の島々を何とかするのが先決。阿仁の方はすでに丹波屋へ申し付けてあります故、余分に鉱夫を雇わせてございます。新亜州のイスパニア領近くにも金はありますが、いずれ発掘いたしましょう」
「左衛門殿は常に用意万端じゃからな。動いたときにはもう終わったも同然」
「太郎右衛門殿(良勝)の言う通りじゃな。柴田、羽柴、長宗我部、毛利、島津、北条など戦う前に終わってたしのぅ」
「兵庫頭殿(頼隆)、この時代の武将には言いにくいのですが不確定要素が多すぎでござるな。偶発的なことに左右されやすい。右か左かわからないのであれば右になるよう事前に手筈を整えます。柴田でいえば長浜という足場を与え岐阜と清洲に彼の城代と与力を置かせたのはそれですな。上杉との和睦で揺さぶり、思ったように柴田や御本所様が動いてくれました。我らが表立つことなく自然な形で先の上様がお亡くなりなった後の騒乱を1年で鎮めこんにちあります」
「それだけではあるまい。その後も小早川を毛利で微妙な立場へ追いやり吉川との溝を作る。鞆の公方様(足利義昭)を将軍位返上で藤吉郎(羽柴秀吉)と毛利追い詰め最後は呆気ないしのぉ。島津にしても日向に主力を誘き出し、上様も囮に使い、最後は退路を絶ち終わりじゃ」
「五郎左様、滅相もござりませぬ」
「いや誉めてはおらぬぞ。呆れとるわ」
「まあ、その左衛門がじゃポルトガルを追い出し、イスパニアの銀を奪い、明を傾かせると言っておるのだから抜かりはあるまい。銭や兵も好きなだけ使え」
「はっ御意にござる」
「近頃は御意が好きじゃのぅ」
「他所の時代から参っております故、言葉が……」
「どのように話すのじゃ」
「なんかマジでだるくね。クソつまんねしよ。今日どうする。こいつまたLINEシカトかよ超ムカツク」
「……」
「今のは日本の言葉なのか」
「キタ〜超ストレートな質問。拙者ピンチなり。モチのロンでござるよ五郎左氏」
「まあ然様な話し方からすれば、無理もなかろう」
少し呆れる信孝であった。この後、広之は兵站の大事さや通貨構想など説きつつ、今後の展開について説明するのであった。
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