本能寺の変から始める戦国生活

桐生 広孝

外伝

地味な名将 丹羽長秀の憂鬱(第2話の続き)

 

 天正10年6月1日、丹羽長秀は深夜に約440年も先から来たという織田信孝家臣、幸田彦右衛門孝之の子孫だという幸田広之のバッグへ手を伸ばした。


 しかし変わった男じゃ。あやつのいみなは広之だが、仮名けみょう(通称)は“ぴろゆき”や“ひろっきぃ”とか言うとったな。上様(織田信長)なら瞬時に斬り捨てるであろう。


 流行ってる諱は、今鹿なうしか永久恋愛えくれあ大賀須たいがぁすとか、まことに日本人なのだろうか?


 さてさて、あったな。あやつが筆を執ったという書物。儂のことも書いてあるが名前だけじゃな。しかし、ほかの武将はいろいろ書いてるのう……。


 それにしても羨ましい。独眼竜、剣豪将軍、越後の龍、毘沙門天の化身、軍神、甲斐の虎、雷神、海道一の弓取り。なぜ謙信公だけ三つもあるのじゃ。


 織田家中は……。さすが上様じゃ。第六天魔王とは畏れ入る。瓶割り柴田、退き佐久間、猿、三日天下、名人久太郎。上様以外は物足りないのう。儂なんぞ米五郎左だしな。地味にも程あるじゃろ。


 藤吉郎のやつめ……。儂が亡くなったあと減封厳しすぎじゃな。それに秀吉の建てた大坂城とか書いおる。儂が上様の命により、石山本願寺跡を普請してたものではないか。お市様の娘を側室とかも許せんな。必ずお仕置きしてやるわい。


 上様が日向守を足蹴にしたとか、そんな話誰がしたのじゃ。いくら上様でもそこまではせぬ。日向守には十分気を使っておったしの。大体、日向守は爺様なのに、若い色男なのじゃ。


 三河殿の神君伊賀越え……。うむむ、必ずや邪魔して進ぜよう。何、戦国最弱の大名。常陸の不死鳥小田氏治。9度も居城を落とされた……。そりゃ、たしかに弱すぎだろ。しかし、9度も落とされて生きてるのは凄い。


 運悪ければ一度の敗北でもそのまま死ぬやつだって居る。荒木村重は逃げたが、普通は再起不能じゃろ。確かに不死鳥といえる。それにしても落とされるたびに奪還してるなら、強いのか、弱いのか、よくわからんな。


 伴天連のことも書いてあるてはないか……。あやつら異国の文字わからんと思って結構好きなこと書いておるようじゃの。睨んでたとおり、胡散臭い。けしからんやつらじゃ。


 藤吉郎が天下人となり、最後は三河殿……。思いもよらぬな。三河殿は薬に詳しく、粗食で長生きとある。家康を支えた八丁味噌……。美味そうじゃ。三河殿を助けて、美味い味噌を送って頂こうかの。それと長寿の薬も処方して頂こう。


 さてさて、今宵は疲れた。明日に備え寝るとする。



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