人造少女学園

現観虚(うつしみうつろ)

序章 むかしむかしの物語

 少し未来の話――しかし、これから始まる物語にとっては、もはや過去の話。


 地球温暖化、酸性雨、オゾン層破壊――いわゆる、環境問題。

 もはや一世紀近く世界中で騒がれ続けたのにもかかわらず、結局人類の「対策」はあまりにも遅く、何の役にも立たなかった。

 それに加え、それらの問題により引き起こされた異常気象が、世界規模の食糧問題へとさらに続く。

 人類はそれを解決するどころか、また別の放置され続けてきた問題により、足の引っ張り合いの泥沼へと沈んでいくことになる。すなわち貧富の差、社会構造の問題、衆愚政治、そして行き着いた先は大戦争――何重にも折り重なったドミノ倒し。歴史上幾度となく繰り返されてきたお決まりのパターンである。


 だが、災厄はそれだけでは終わらなかった。


 人類がそれに気づくのは、ずいぶん時間が経ってからだった。なにせ、ほとんどの国家が戦時下にあり、統計調査どころではなかった。

 だが、それが始まって十年もたったころには、もはやだれの目にも明らかだった。


 女児の出生数が、減っている。


 気づいたとてもはやどうしようもなかった。原因は全くの不明。

 遺伝子操作と人工授精によって女性を生み出す試みも盛んにおこなわれたが、なぜかすべて失敗した。――どんな手段を用いても、試験管から生まれてきたのは、全て男性だった。

 まるで地上を荒廃させた人類への、地球からの罰であるかのようだった。

 女児が生まれてこない。それはすなわち、滅亡への歩みが加速したことを意味する。

 現世代の合計特殊出生率はさらに低下し、銃後の労働力は圧倒的に不足し、数少ない女性は資源として奪い合われるようになった。民族間で、国家間で、隣人の間で——そのせいで女性の生存率はむしろ低下した。


 もはや、人類が絶滅するのも時間の問題か。


 人類が絶望の底に沈んでいた時。


 一筋の、希望が差し込んだ。


 それは、ある生化学研究機関が開発した2つの革命的な「技術」だった。

 まさにそれは、奇跡的な救済と言う他なかった。同じ時代の科学からは、全く予想もつかない未来技術――あるいは、もはや錬金術。


 一つは、天然の食物や原料を何ら用いることなく、半永久的にたんぱく質を合成し続ける資源循環システム――「SIRIES」。

 これにより、食糧問題と燃料問題が一挙に解決された。


 そしてもう一つが、SIRIESシリーズによって生み出されたたんぱく質を使って生み出される、生命体――「DOaLドール」。

 遺伝子においては部分的に異なるものの、器質面では従来の人間のメスと全く変わらない――すなわち、妊娠と出産が可能であった。


 しかし、ドールたちには奇妙な部分もあった。彼女たちの髪と瞳の色は、各個体ごとに極めて多様であり、人間のそれとは大きく異なっていた。

 そしてもう一つ。第一世代が成長するにつれて明らかになったことは――彼女たちは全員、まるで人形のように美しく、幼児のような愛らしい顔立ちをしている、と言うことだった。


 こうして生まれた二つの技術は、あっという間に人類を救った。


 人口が原始時代並みに減少していた元「主要国」の残滓は、これらの技術の共有のために停戦に合意し、そればかりか合併して「新人類連邦」となった。


 それは国益のため、平和のため、生存戦略のため、人類の存続のため――いや、その何よりも。


 国民たちが、ドールたちと共に生きることを熱望したからであった。

 

 

 

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