暴食

劣等なる人間

何度なんどわせればむんだ!!」


なつ日差ひざしがむオフィスに、

そんな怒号どごうひびわたっていた。


「……もうわけありません……」


あぁ、今日きょうもだ、

今日きょうおなじミスをしてしまった。

むかしからそうだ、学校がっこうでも、いえでも、

物覚ものおぼえや要領ようりょうわるく、何度なんど何度なんど

相手あいておこらせる。何度なんど何度なんどおこられる。

まわりに迷惑めいわくをかけてばかりだった。


「ッチ、何度なんどってもおなじミスをかえす、

ただあやま馬鹿ばかりでまなばない、

まえ会社かいしゃのお荷物にもつなんだよ、

さっさとめちまえ!!」


そう言葉ことばくと、っていた書類しょるい

自分じぶんへとげつけ、デスクへと去っていった。


「・・・・・・」


黙々もくもくと、ゆかにちらばった書類しょるいをかきあつめる。

まわりの者達ものたちは、そんなおれけ、

クスクスと雑音ざつおんかなでていた。


「またられてるよ」

「なんで退職たいしょくしないのかな」

「さっさとなくなればいのに」

そんな嘲罵ちょうばみみ蝟集いしゅうする

それはあまりにも幼稚ようちで、馬鹿馬鹿ばかばかしい

そんなくあるセリフ。

それでも、いまおれこころ腐食ふしょくさせるには

十分じゅうぶんぎるセリフだった。


――おれはこの職場しょくばきらいだ。

自身じしんわらい、見下みくだし、罵倒ばとうする人達ひとたちも、

激昂げっこうしゴミのように自身じしんあつか上司じょうしも、

そして……自分自身じぶんじしんも……。

毎日まいにち地獄じごくで、つらくて、くるしくて、

めたい。めてしまいたい。

それでもめること出来できない。

さいもない、器用きようさも、あたまさもなにい。

なにっていない。

こんな自分じぶんが、ほかところかるとは

到底とうていおもえなかった。

実際じっさいいま会社かいしゃはいまえ何度なんど何度なんど

不採用ふさいようになっている。

だからめること出来できない。はたらかないと

かねはいらないから。生活せいかつ出来できないから。

だからこそ


えるしか……ない……」


――そうして、すっかりくらくなったころ、やっとのおもいで

帰路きろについていた。あたまなかにはまだ

昼間ひるま出来事できごとがこびりいていた


「――どうしてこうなったんだろうな」


おれ元々もともと料理人りょうりにんになりたかった。

べるのがきだから、それが唯一ゆいいつ

娯楽ごらくであり、心休こころやまることだからだ。

もしひとつ、ねがいがかなうのならば、

むかしに……高校生こうこうせいころもどりたい。

将来しょうらい希望きぼうち、ゆめかい、

只管ひたすらに走っていたあのころに……

今迄いままで一番いちばんマシだったあのころに……


「ん?なんだ?」


そんなことかんがえていると、とても魅力的みりょくてきにおいが

はなはいってきた


「ここは居酒屋いざかやか?」


暖簾のれんしにえるそのひかりおくには、

ガヤガヤと、にぎわっている様子ようすれる


「……今日きょうくらいはいいだろ……」


そうしてそのとびらへと、すすめるのであった――


みせはいると、おもわずよだれあふてしまうような

そんなかおりがあたりをただよっていた。

適当てきとうせきき、定員ていいん料理りょうり注文ちゅうもんする

そうして数分後すうふんご料理りょうりはこばれてきた。

そしてその料理りょうりくちへとはこぶ。


美味おいしい……」


おもわずうなってしまう

卓上たくじょうなら料理りょうりはどれも美味おいしく、

ひさしぶりにかんじる幸福こうふくがあった。


「やっぱりきだな……」


最近さいきんはロクにごはんべれていなかった。

食事しょくじのどとおらず、そもそもべるにならず

べないなんてがずっとつづいていた

だからこそ、より美味おいしく、よりしあわせに

かんじること出来できた。そうしてづけば

卓上たくじょうにあったごはん綺麗きれいくなっていた。

せきち、会計かいけいませそのみせ

元気げんきもらえた、前向まえむききな気持きもちになれた。

こころたされた


明日あした頑張がんばろう……」


と、そんな言葉ことばこぼすのだった。


――だが、そんな意気込いきごみは

ながくはつづかなかった――。


わらず毎日まいにち怒鳴どなられた

毎日まいにち嘲罵ちょうばけた、そんな日々ひび

すこしずつ、されど確実かくじつおれこころこわしていった。


「いやだ……」


腐食ふしょくしていく


「もういやだ……」


それはとどまることらず


「もう限界げんかいだ……」


すべてがくさっていった

そして――そして――そして――


――おれこわれた――

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