予知夢
やきとり
第1話
「起きろ」
その声が発されると同時に背中を強めにビシッと平手打ちされ、僕は眠たい目をこすりながら起きた。
やはり、僕を起こしたのは無駄にでかい古文教師で担当の権堂だった。
「もう高3なんだから授業中くらいしっかり起きてろよ。まったく…」
しょうがないだろ、こっちは生活が苦しくて毎日バイトを掛け持ちしながら病気の親を支えてて毎日つらいんだから、と言い返しそうになったが
バイトしていることがバレると厄介なことになるからやめた。それに、権堂の言ってることは正しい。
それはそれとして、寝てるときに妙に変な夢を見た気がする。夢にしてははっきりしすぎていて現実にしても曖昧すぎるものだった。
内容は僕がなにかに怯えていたというものだ。そのなにかは、、、あまり良く思い出せない。音も聞こえた、これはかなり鮮明だ。エンジン音が聞こえた、トラックらしきものかな、それもまあまあ速めのスピードで。
まあ、夢の内容を思い出しても仕方ないか、早くノート取らないと。
そうこうしているうちに、6限が終わった。
帰りの準備(というかバイト先へ直行する準備)に取り掛かったとき、ふいに辺りを見渡してみたら、学校に残って勉強する人、単語帳を読みながら歩く人、とにかくみんな切羽詰まった表情をしていて、辛そうだった。そうだよな、みんな大変なんだよな、きついんだよな。僕の悩みなんて今みんなに相談したってちょっと心配してもらったり同情してもらったりでその後は何もないよな。
僕は大きなため息を1つついた。
さてと、早く行かないと、と思い教室を出ようとしたその時、権堂に声をかけられた。
「お前大丈夫か」
僕は唖然とし、同時に悩みを打ちあけて楽になりたいと思い、実行に移した。
「あ、あの」
「お前もう高3だってのに授業中に居眠りしやがってさあ、緊張感ないの?もう受験生なんだよ、成績も低いし、ゲームで夜更かししてんじゃないだろうなあ」
僕が発しそうとした言葉を遮るように権堂は立て続けに言った。思わず拳に力が入る、鼻息も荒くなる、このままだと自分の感情に任せて権堂を殴ってしまいそうだった。だけど親に迷惑はかけたくない。僕は足早にそこを離れた。
校門をでて、さっきのことを思い返してみた。権堂はたしかに僕のことを心配はしてくれた。しかし、僕が心配してほしかったものとは違った。家族以外に僕の苦悩をわかってくれるひとはいないんじゃないだろうかとまで思ってしまった。そう思うとさっきまであった怒りが悲しみに変わってきた。
僕は憂鬱な気分でアスファルトの地面を一歩ずつ重く踏み込む、うつむきながら。上を見れば見れるきれいな夕暮れを見ようとせずに、そうこうしているうちに、車が多く行きかう道路に出てきた。
僕はそこで良からぬ考えが出てきた。
ここで飛び出してしまえば楽になれるかな。と、でもそれを考えてるうちに恐怖が襲ってきた。僕がいなくなったら家族はどうなるんだ、もし死にきれずに入院する羽目になって
、今でも生活が苦しいのにそうなるともっと…、でも一瞬で逝けそうなものなら、トラックとか、そう思ったのと同時にひときわ大きなエンジン音が聞こえてきた。トラックだ、今しかないと僕は思い、感情に身を任せて…いやでもこの光景見たことがある。夢でだ!夢で見たことがある。途端におぼろげながらも覚えていた夢の内容が鮮明に戻ってくる。その夢はさっきまでにあった出来事と全く一緒の事が起きていた。そしてその夢の最後、僕は飛び出した。でも辛さは消えなかった。途端にさっきまであった感情がコップに水を注ぐときのように戻ってきた。やっぱり死にたくない…生きて、生きていたい!僕は生きていたい。今もたしかに辛いけど、いつかその時も終わるはずだ。生きて、もっと自分の人生を良くしたい。僕はそう強く願った。
僕は疲れてしまってそばの電柱によっかかった。手のひらを見ると汗がびっしょりだ。僕はきれいな夕暮れの空と青の信号を確認し、アスファルトの地面を一歩ずつ確実に、きちんと前を向いて歩いていった。
予知夢 やきとり @yakitori5422
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