エピローグ

 俺は海人かいと美影みかげと共に家と帰還した。ホテル周辺は今頃、パニックだろうがさいわいにも人気ひとけの無い場所だったので目撃者はいないと思う。

 この件は地盤沈下と劣化れっかによる古い廃ホテルの倒壊としてまともな捜査も行われずに処理されるだろう。

 海人かいとと相談した結果。心苦しくはあるが海人かいとの生存は母には伝えない事にした。


「非常識な世界に関わる人間は少ない方が良いのです。僕はもう母とは関わるべきではありません」


 海人かいとの思いやりではあるが俺としては納得いかない所もあった。しかし、ようやく前を向き出した母に今の海人かいとを見せる勇気も俺には無かった。

 こうして俺はこの広くはない部屋で海人かいと美影みかげ奇妙きみょうな共同生活をする事になった。俺の日常は完全に壊れてしまった。いや、思い出せなかっただけで元より壊れていたのかもしれない。

 俺の記憶はいまだにもやがかかっている。どうして硝子しょうこお姉さんは死んでしまったのか分からない。不思議な事にそれについて海人かいとに聞くのは躊躇ためらわれた。何故なぜかは分からないが何となく嫌な感じがしたのだ。

 その海人かいとだがこの様な姿になってもりずに今回の様な常識外な事件を追っていくつもりらしい。

『ドグラマグラ』というオカルトサイトを立ち上げて情報収集をしている。資金を稼ぐためにVTuberでの活動も視野にいれているらしい。我が兄ながら多才である。問題はそんな危険極まりない活動に俺が巻き込まれそうになっている事である。というのも海人かいと自身は体をうしなっているのでもう表立って行動するのは不可能である。美影みかげだけでは色々と不安要素が大きい。そこで白羽しらはの矢が立ったのが俺である。そもそも俺しかいないが…


「誰が引き受けるか!あんな目にうのはもうりだ」


 と最初は勢いよくことわってみせたが、最終的に美影みかげに頼まれた事によりOKしてしまった。

 初恋の人と顔が同じだからってチョロ過ぎだろ俺。まぁ、実のところ深淵しんえんの世界から俺は離れたくなかった。硝子しょうこお姉さんの死の真相や俺の記憶。それらを永久に失ってしまいそうだったから。

 その方が本当はいのだろう。安易あんい深淵しんえんを覗き込んではいけないのだ。

 でも俺はソレを見ていたし、何ならいずれはその深淵しんえんに見られたいのである。

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