19話 来客
そうと決まれば、次の日から行動を開始だ。
めんどくさいけど、こればっかりは俺がやらないと。
それに時間がかかるので、早く行動に移さないといけない。
「ふぁ〜……朝の氷も仕込んだし、噴水に水を入れたしやりますか」
「結局、何を作るのです? 私にはよくわからなかったですが、ドワーフを呼ぶのですよね?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました! ドワーフさん大好きラガービールを作ります!」
「ラガーですか? ……初めて聞く単語ですね」
「それはそうだろうね」
なにせ、この大陸にはエールビールしかない。
ラガービールというものが存在しない。
そして、その理由もわかってる。
この暑い大陸ではラガーを作ることが難しいからだ。
「それは何処で知ったのですか?」
「王城にある書庫だよ」
「なるほど、よくサボって篭ってましたね」
「そういうことさ。そこで見たことあったから」
いやー、日頃からサボってたのが役に立つは。
そこで見たのは、数百年前にはラガービールもあったという記述だった。
下面発酵であるラガーは低温でないとダメだ。
この大陸は温暖化が進み、ラガーは消え去ったと推測される。
「では、これから作るのです? というか、作れるのですか?」
「いやいや、俺は専門家じゃないから作れないよ。とりあえず、ドワーフを呼び寄せる餌として使う。ラガービールを作るには、氷が大量に必要なのさ」
「なるほど……見えてきましたね。今のところ、主人殿にしか氷魔法は使えない。そして、ドワーフはビールが好き。つまり、飲むためには主人殿に協力する必要があると」
「ふふふ、そういうことさ。美味しいビールが飲みたければ、我の元に来いと手紙を送ってもらった」
「では、その返事待ちということですか」
「うん、そうだね。となると、こっちもその前にやることがあるね」
おそらく、ドワーフ族は食いつくはず。
そして欲しがるけど、それを込める魔石がない。
「魔石集めですね?」
「そういうこと。ただ、森の奥に行くのには精鋭が必要だなぁ〜。今都市にメンバーでは、あの森を開拓して手強い魔物とかを倒すのは厳しいかも」
「私も主人殿も強いですが、流石に二人だけでは……せめて、もう一人か二人いれば」
「うーん、今いる住民達が強くなるのを待ってたんじゃ遅いし」
そんなことを話し合っていると、何やらドタドタと足音が聞こえてくる。
同時に、何やら叫び声も……しかも、聞き覚えのある。
「待てって!」
「お姉様! お待ちくださいませ!」
「いやよっ! ここね! クレスがいる場所は!」
「……クオン、嫌な予感がする」
「予感ではなく事実かと。なにせ、もう目の前にいるので」
その言葉の通り、扉がバーン!と開かれ……そこに青い騎士服を纏った赤髪の美少女がうた。
息が乱れてるし、自慢のポニーテールもぐしゃぐしゃだが……それは幼馴染のアスナだった。
「クレス!」
「ぎゃぁぁぁ!?」
「ぎゃぁって何よ!」
「そりゃ、ぎゃぁーだよ! なんでいるの!?」
「それは来たからよ!」
「見ればわかるよ!」
どうして、こんな辺境にまでいるの!?
この子、一応は公爵家の姫と呼ばれてる人なんですけど!?
そして、相変わらず話が通じないんだけど!?
「だー! だから待てって!」
「もう! お姉様ったら! いくらクレス様に会えるからって……」
「そ、そんなんじゃないわよ! こいつが何かしでかしてないか心配しただけ!」
「声でわかってたけど、君達までいるとは。久しぶりだね、レナちゃんにアークも」
「ご無沙汰しておりますわ、クレス様」
「よう、クレス。相変わらずで安心だ」
「うん、二人も元気そうで良かったよ」
そこにいたのはカサンドラ公爵家次女にして、聖女の異名を持つレナちゃんで……アスナとは違い、清楚でお淑やかな女の子で金髪ロングの美少女である。
そして、俺の親友でもあるアーク-カラドボルグ……チャラ男でイケメンで家柄も良いという、憎っくき親友である。
「ちょっと? 私に対する対応と違うんだけど?」
「当たり前のクラッカーだけど?」
「どういう意味よ!!」
「だから身体を揺らさないでぇぇ〜!!」
すると、クオンがそっとアスナの腕に触れる。
「アスナ様、ひとまず落ち着いてください」
「ク、クオン……コホン、そうね」
「ほっ、ようやくかぁ……さて、何から話す?」
「まずは、簡単に俺が説明しよう。国王陛下から、お前の様子を見てくるように指示を受けた。それを見にきたのが、俺達三人ってわけだ」
「めちゃくちゃ簡潔だね。でも、追放したんだから放っておけばいいのに」
そりゃ、俺自身も自分から追放されるようには仕向けた。
ただ、元を辿ればあの王城には俺の居場所がなかったからだ。
親友と幼馴染はいたけど、彼らは自分の領地に住んでたし。
「いや、それは……まあいい。とにかく、そういうことで俺達が来たんだ。しばらくの間、厄介になるぜ」
「ええっ!? 三人とも、しばらくいるの!?」
「な、何よ? やっぱり嫌……?」
「出来るだけ、ご迷惑はかけませんわ」
「うーん、嫌ってことはないけど……」
責任が重い。
なにせ、ただのスペアである俺よりこの三人の方が国の重要人物だ。
特にアスナの親父さんはめちゃくちゃ怖いので、レナちゃんに何かあったら殺される。
無論、お付きの護衛達がいるから任せても良いけど。
すると、クオンが俺を部屋の端に連れて行く。
「主人殿、良いのではありませんか? どっちにしろ、国王陛下の命なのですから」
「そりゃー、そうだけど」
「それに、これで戦力が整いますよ」
「……たしかに、バランスの良いパーティーができるね」
アスナは双剣使いの剣士にして、その実力は騎士団から折り紙つきだ。
レナちゃんは回復魔法が使えるし、頭も良いし気配り上手だ。
アークは槍使いなので、中堅を任せることができる。
「ええ、そういうことです。あと、アスナ様に優しい言葉をかけてくださいね」
「えっ? どういうこと?」
「良いですね?」
「わ、わかったよ」
話し合いが終わったので、三人の元に戻る。
「な、何をコソコソしてたのよ?」
「ごめんごめん。んじゃ、とりあえず三人を歓迎します」
「おっ、そいつは良かったぜ」
「ふふ、良かったですわ。ねっ、お姉様?」
「……私もいても良いの?」
「うん? そりゃ、もちろん……アスナ、君が来てくれて嬉しいよ」
「っ〜!? ふ、ふんっ! 私が色々面倒を見てあげるわ!」
ふふふ、これは計算外の出来事だったけど助かったかも。
これで、森の探索をすることができるね。
しいては、俺のスローライフに近づく! ……近づいてるよね?
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