第9話 救世主?

 その後、ひとまずわかったことは……やることが山積みということだった。


 ほとんどをマイルさんに任せたとはいえ、俺自身もやることは多い。


「ぐぬぬ、快適なスローライフが……」


「はいはい、そうですね。ですが、このままではスローライフどころではないので」


「はぁ、そうだよねー。そもそも、こんな状態じゃのんびりなんて言ってられないし。一人だけで贅沢しちゃったら反乱とか起きちゃうし」


「ふふ、そんな気もないのに。主人殿は、なんだかんだで優しいですから」


「……別にそんなことないよ」


 その言葉に、思わず頬を掻く。

 クオンはそういうけど、俺はそんなに出来た人間じゃない。

 クオンを引き取ったのだって、自分の寂しさを埋めるためだった。

 ……ただ、目の前で苦しんでいる人がいる状態でだらだらできる人ではいたくない。

 それは自分が嫌っていた、前世の頃に見てきた特権階級と人達と同じことだから。


「そういえば、私は何をすればいいですか?」


「クオンには、引き続き俺の護衛と秘書をお願い。あと、獣人達との橋渡し役をしてくれるかな?」


「変わらずということですね。獣人の件もお任せを。さあ、すぐにでも行動を開始しますよ」


「えぇー……はぁ、仕方ないか。マイルさん、街を案内してもらっていいですか?」


「はい、もちろんです。では、ご案内いたします」


 重たい腰を上げて、領主の館から出る。

 相変わらず日差しが強く、すぐに汗が出てきた。


「あつっ……もう三時なのに」


「はは、慣れてないときついかと」


「ほんとですね……」


 そう言い、胸の辺りをパタパタする。

 すると、当然……少しだけサラシの上から谷間が見えてしまう。

 前までは見たことなかった光景なので、思わず感動してしまった。


「おおっ……」


「って、何を見てるんですか!」


「ご、ごめんなさーい!」


「もう! ……別にいいですけど」


 思春期なので許して! 前世の記憶があるとはいえ、俺の精神は少年なのである!(キリッ)

 リアルな話、記憶が上乗せされている感じで、そこまで影響していない。


「それにしても、サラシは暑くない?」


「それはそうですよ。ただ、これがあると剣を振るうのに邪魔なので」


「あとでその辺りのことも考えるかね」


「ええ、お願いします」


 魔石に氷魔法を入れることはできたけど、流石にそのまま皮膚に当てるわけにはいかない。

 そもそも、魔石に込められる魔法にも限りがある。

 ゴブリンなんかじゃ、全然魔力が蓄積できない。

 長時間保たせようと思ったら、最低でもオークの魔石くらいはないと。


「……随分と仲が良いのですね」


「まあ、付き合いも長いので」


「いや、そういう意味ではなく……いえ、そうですね。まずは、こちらにどうぞ」


 まずは、噴水のある広場に案内される。

 そこでは人々が日陰で談笑をしたり、小さい商店街のようになっている。

 今は遠巻きに、人々が俺達のことを眺めていた。


「ここの十字路が街の中心となります。大まかに……ここから北に行くと領主の館、西に行くと冒険者ギルドや宿泊施設、それに伴い武器防具屋。東には住民が暮らす地区があります。最後に南が商店街となります」


「ふむふむ、そこまでギチギチって感じではないね?」


「はい、住民の数が少ないのでまだまだ余裕はあります。本来なら、一万人は収容できる辺境の中心都市だったので……今では、十分の一以下ですが」


「あぁー、ですよね。じゃあ、まずは人を集めないと。そのためには魅力がないといけないか」


「はい、本来であればここが憩いの場だったのですが……今では、水も枯れて噴水が止まってしまいました」


「……では、まずはここから始めますか」


「クレス殿下?」


 俺は意識を集中させて、魔力を高めていく。

 自分の力がどのくらいあるのかわからないから、とにかく全力で。


「水の滝よ降り注げ——アクアフォール」


「こ、これは……!」


「すごいですね」


 俺が噴水の上に放った水魔法によって、噴水に水が満ちていく。

 それでは収まり切らずに溢れ、次第に汚れた水を押し出してきれいな水になっていった。

これなら飲んだり、水浴びをしても問題ないだろう。


「ふぅ、結構な量が出たね。魔力的には、そこまで減った感じはしないけど」


「い、今の魔法で……」


「ふふ、主人殿の魔力は規格外だったみたいですね」


「うーん、いまいちわからないけど」


 すると、次々と人々が集まってきて歓声を上げる。

 その中には獣人もいて、見た感じここでは差別はないっぽい。

 というか、助け合わないと生きていけないのかも。


「す、すごい! 噴水から水が出るなんていつ振りかしら!」


「お母さん! 僕は初めて見たよ!」


「おおっ! 彼の方が魔法を使ってくださったのか!」


「一体、誰なのでしょう? 物凄く立派な衣装を着てますし、領主様がそばに控えてますけど……」


 ……しまった、めちゃくちゃ目立ってしまった。

 自分でも予想外の量の水が出ちゃった。


「みなさん! ここにいらっしゃる方はクレス-シュバルツ第二王子です! この度、私に変わって領主となるお方です! きっと、この地を救ってくれるでしょう!」


「私は主人殿を守護する者です。てすが、奴隷ではありません。主人殿は、きっと獣人も関係なく救ってくれる方かと思います」


「ちょっ!? 待ってよォォォ!」


「「「ウ……ウォォォォォォ!!」」」


「だからァァァ!」


 住民達の声により、俺の声がかき消される。


 いや、領主にはなるって言ったけど! 出来るだけどうにかしようとはするけど!


 救うって言われると……どうしてこうなったァァァ!?






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