屈しない男

 「うーん……朝か」


 目が覚め、体を起こす。窓からは太陽の光が差し込んできている

 もう朝になったみたいだ。今日はパレードより先に起きた

 パレードはまだベッドの上で寝息を立てている

 無理に起こすのもな……パレードなら勝手に起きるだろう

 俺は創作クラフトした寝床を収納して、顔を洗いに洗面所へ向かった

 俺は洗面所の隣にあるシャワー室に目がいった。せっかくだから体も洗っちゃおう

 顔を洗うついでに体を洗おうと考えたモゼはのちに後悔することとなる



 「あれ?モゼさんがいない……散歩にも出たんでしょうか?」


 パレードはモゼが体を洗っている最中、目を覚ました

 視線を横にずらすと寝ていたはずのモゼの姿がない

 モゼのことだから適当に過ごしているんだろうと考えたパレードは顔を洗うため洗面所に向かう



 「あ、…………おはよう……パレード」


 「体洗ってるならそう言ってくださいよ!!」


 パレードが洗面所に入ると体を洗い終わったモゼが隣のシャワー室から出てきたところだった

 タイミングよく出会ったためパレードは視界に全身を捉えてしまった

 パレードは顔を赤くしてすぐさま洗面所から出る

 起きてるなら言ってよぉ……

 これって事故だよね?さすがに

 俺に非はないはずだ!

 勝手に起きたパレードが悪いだろ!!

 


 「服を早く着て下さい!」


 「言われなくても分かってるよ!!」


 俺はすぐに服を着て洗面所を出た

 洗面所を出るとパレードがやってくれたな、という顔をして待っていた

 これは事故だって!俺は悪くないよぉぉ!!



 「俺は悪くないです」


 「体を洗ってるって言わなかった責任があると思います」


 「俺が体を洗いに行った時、パレード寝てたもん!言うも何もなかったよ!それに勝手に起きて洗面所に入ってきたパレードの方が悪いよ!」


 「寝起きで顔を洗おうと思ったんです!勝手に起きたっていいでしょう!」


 「起きた時、俺いなかったよね!体洗ってるって思わなかったの!?」


 「モゼさんなら適当に外で過ごしてるかなって思ったんです!」


 「方向音痴の俺が外出るわけ無いじゃん!!」


 「あ……!!確かにそれは……!!でも、寝起きでそんなこと判断出来ませんよ!!」


 二人の言い争いは白熱ヒートアップし、中々な時間続いた

 お互いは主張を曲げることなく一歩も譲らなかった

 痛み分けにしようとモゼが言うとパレードがそれを了承し言い争いは終幕した

 無駄な時間を過ごした……!!

 結局、引き分けで終わるなら俺が最初からそう言っとけば良かった!



 「とりあえずさ、ご飯食べに行こう」


 「そうですね。お腹空きました」


 二人は宿を出て食事処へ向かった

 道中、会話はしたが続くことはなくお互いに口数は少なかった

 気まずいな……

 毎回こうなるよな。すぐに忘れられれば良いんだけど

 

 

 「ここにしようか」


 「わかりました」


 二人はしばらく歩き食事処を見つけると中に入った

 席につき各々で食べたい食事を頼んだ

 


 「今日はベビモースを捜索したいって思ってるんだけど……」


 「分かってます。一緒に行きますよ」


 「ありがとう」


 事件や事故があっても二人の信頼は崩れない

 二人でいる日数は浅くても、一日一日がとても濃い日々を送った二人の絆は簡単には壊れないものになっていた

 良かった……いつものパレードだ

 さすがにもう機嫌を直したみたいだ

 パレードがいないと旅も冒険も成り立たない

 

 


 

 

 ――――――



 「ベビモースって神の森で探すのが一番なのかな?」


 「昨日探しても何もいませんでしたよね」


 「ギルドの人は大したこと知ってないし、頼るとしたらヘッカーさんか」


 「あの人が簡単に教えてくれるとは思いませんけどね」


 「なら、バレないようについていけばいいじゃないかな」


 「ストーカーするんですか?」


 ストーカー……耳が痛いな

 ストーカーするのが手っ取り早いけど、そんな卑怯な手を使ってヘッカーさんを出し抜くのは気が引ける

 俺たちは俺らなりの手段でベビモースを見つけたい



 「いや、俺たちは自分たちなりの方法でベビモースを見つけよう」


 「どうやってですか?」


 「……神の森を探すしかないんだよな。でも、それが結局一番手っ取り早い気がするな」


 「それもそうですね」


 「何日も神の森で捜索してればいつかは会うでしょ。俺の探知スキルと合わせれば、絶対に見つかる……はず」


 情報の少ないベビモースを見つけるのは容易ではないが、数撃てば当たるとはいう

 森で何日も捜索してればいつかは会えるだろう

 それに俺の探知スキルも合わせれば広範囲をカバーできる


 

 「自信ないんですね」


 「うん」


 モゼが開き直って返事をするとパレードはやれやれといった様子でため息をついた

 昨日は神の森の奥まで入れてない

 奥まで入ればベビモースじゃなくても何かとは会うだろう

 とりあえず今日は奥まで入ることを目的にしよう




 

 

 ――――――



 「ヘッカーさん!?」


 「…………」


 「息をしてません!」


 「いや、心臓は動いてる!回復魔法なら一時的になら良くなる!!」


 二人が神の森に入り捜索をしているとヘッカーが森の中で倒れていた

 頭から流血しており、体のところどころからも血を流している

 呼吸も浅く、とても危険な状態だった

 すぐさまかけより声をかけるが返事はない

 だが、モゼが心臓に耳を当てると微かにドクドク、と脈をうつ音が聞こえる

 モゼは倒れているヘッカーを担ぎ、急いで街の病院へと向かった

 ひどい怪我だ。街に運んで早く看てもらわないと!

 


 「大回復マックスヒール


 「早く病院に運びましょう!」


 「案内よろしく!」


 モゼは回復魔法をヘッカーにかける。ヘッカーの呼吸が段々と落ち着いていく

 モゼがヘッカーを担ぎ、街へと向かう

 一応回復魔法はかけたけど、これほどひどい怪我だと完全には治らない

 早く病院で治療を受けないと!



 「ウッ……ここは……」


 「ヘッカーさん!!大人しくしていて下さい!!今病院に向かってる最中なので!!」


 「そんなとこの世話になる気はねぇよ」


 「あ!ヘッカーさん!」


 神の森を抜けようと森の中を走っているとモゼの背中で寝ていたヘッカーが目を覚ました

 ヘッカーは目を覚ますとモゼの背中から無理やり降りて地面に立った

 着地した際、足取りがフラつき地面に尻もちをつく

 やっぱり治ってない。ヘッカーさん無茶だよ



 「また世話になったな……もう、大丈夫だ」


 「大丈夫じゃないですって!!」


 「仕方ない。召喚サヴォン碧龍へきりゅう


 ヘッカーがフラついた足取りで森の奥へ向かっていこうとしたためパレードは大声でヘッカーを引き止める

 だが、ヘッカーがパレードの声を無視して奥へ進むのでモゼは碧龍へきりゅうを呼び出した

 こうなったら無理にでもヘッカーさんを連れて行くしかないな

 

 

 「早く乗って下さい!」


 「なんだ……?その龍……!!」


 「いいから!早く!」


 モゼとパレードは碧龍へきりゅうの背中にまたがりヘッカーを呼ぶ

 ヘッカーはいきなり現れた龍に驚き、目を丸くした

 それでも、龍に乗ることはせず森の奥へと歩いて行こうとする

 無理やり連れて行かないとダメだな


 

 「空間転移ワープ


 「うおぉ!お前急に!」


 「早く来て下さい。死にますよ?空間転移ワープ

 

 「ここ、龍の背中じゃねぇか!?どうなってるんだ⁉」

 

 「飛べ!」


 モゼは空間転移ワープを使うとヘッカーの近くに行き、首根っこを掴んで再び空間転移ワープを使い碧龍へきりゅうの背中に戻った

 あっという間に碧龍へきりゅうの背中に来たヘッカーは状況が飲み込めず混乱する

 モゼは混乱しているヘッカーを横目に碧龍へきりゅうを飛び立たせる

 助けたいって思ってるんだから言う事を素直に聞いてくれないかな

 時間がかかったけど何とか救命出来そうだ

 てか、ヘッカーさんもう元気そうだけどね

 それでも一応、病院には連行するけど


 


 


 ――――――



 「しばらく安静にしていれば治るってさ」


 「良かったですね。大事にならなくて」


 「うん。本当に良かった」


 ヘッカーが寝ている部屋の前でパレードが長椅子に座っていた

 モゼがやってきてヘッカーが無事であることを伝えられ安心する

 発見した時は結構危なかったからな。無事なのは回復魔法で応急処置した結果かもしれない

 とりあえず無事で良かった。わざわざ碧龍へきりゅうを呼び出して正解だったな

 


 「でも、安静にして下さいって言われて安静にしてる人には見えないけどね」


 「心配ですね……動けるようになったらまた行くんでしょうか?」


 「俺たちがいくら言っても無駄だろうね」


 「なんでヘッカーさんはベビモースに執着するんでしょうか」


 「確かに。聞いてみようか」


 ヘッカーが寝ている部屋の前でパレードが長椅子に座っていた

 モゼがやってきてヘッカーが無事であることを伝えられ安心する

 あの人が個人的な話をしてくれるかは分からないけど、パレードも言った通りなんでベビーモスに執着するのか気になる

 神の森にはベビモースじゃなくても他に手強い魔物はいるはずだ

 

 


 「なんだ?ベビモースについてお前たちに話すことはないぞ」


 「違います。なんでそんなベビモースに執着するんですか?」


 「ハッハッ、それを聞いてくるか。俺みたいな老いぼれの話なんか聞きたくないだろう」


 平然とした顔で聞いてくるモゼに対してヘッカーは笑った

 ヘッカーはてっきりベビモースの居場所を聞いてくると思っていたが全く違ったため意表を突かれた

 


 「気になったんです。神の森にはベビモースじゃなくても他に手強い魔物はいるはずなのにどうしてベビーモスなんだろうって」


 「知りたいなら教えてやる。俺がベビモースに固執する理由」


 「個人的な話、してくれるんですね」


 「こんな老いぼれの話ならいくらでもしてやるさ」


 ヘッカーは自虐して笑うと口を開き、ベビモースに固執する理由を話し始めた

 そんな老いぼれの話でも興味がある

 個人的な話はしてくれないと勝手に思っていたがそうでは無かった

 自分のことなどあまり気にしてないのか?ベビモースのことしか考えていないんだろう

 いや、ベビモースを考えずにはいられないの方が正しい気がする

 これからその気持ちが分かる。一言一句逃さないようにしないとな

 アドナイ様、聞き分けが良くなる方法って何かありませんか

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