神を追う者

 「こっちです」


 「あれ?そっちだっけ?」


 「何も言わずついて来て下さい」


 「……分かりました」


 俺たちはギルドを出て任務場所である神の森に向かっていた

 道が分からないのである程度、道を把握しているパレードに案内してもらう

 なんで来たばっかの街の道をすぐ覚えられるんだろう

 記憶力が良いんだろうな。いいなぁ

 俺が道について何か言おうとするとすぐに遮られる。方向音痴だから何も言うなという合図だ

 方向音痴じゃなくて覚えられないだけだから、そこは違う

 あれ?ん?一緒かもしれない



 



 ――――――



 「ここが神の森への入り口です。この先が任務場所です」


 「雰囲気が変わった……」


 「言われてみればですね」


 アルーラの街を出て神の森の近くまで来た

 この辺りは街とは違い雰囲気に重厚感がある。神聖というか何者も寄せ付けないそんな雰囲気だ

 この雰囲気は神退治の序章に過ぎない



 「この先かな?」


 「ですが、この先はファルマンさんの話だと立ち入り禁止なんじゃ」


 「でも、規制はされてないよ」


 「どういうこと何でしょうか?」


 「国が違うからかな。ベレバンは一神教であるメシア教の影響を強く受けながらも超常的な力を持つ生物を神だと崇めている。ダマリアはそういうのがないんじゃないかな?」


 「それなら規制がかかっていないことに納得出来ますね」


 神の森はベレバンの真ん中西端から真ん中東端まである

 さらに、東端を突き抜けてダマリアに少し入っている

 ダマリアにはファルマンさんの言っていた風習が無いから規制が無いんだろう

 国が変われば文化、人、食……etc.

 何もかもが変わる

 これなら神の森に入ることが出来るがベレバンに入ってしまうと面倒なことになるので行き過ぎないように気をつけて進む



 「行き過ぎないように気をつけよう」


 「モゼさんは後ろにいて下さい」


 「なんで?」


 「どこまで来たかわからなくなってベレバンに入るのを防ぐためです」


 「なるほど、それはそうだね。じゃあ、前よろしく。何か現れたらすぐ下がってね」


 「分かりました」


 森の中だと尚の事、自分の居場所が分からなくなる

 でも、森って地図とかがないからパレードも危ないんじゃ……

 誰でも危ないか。森ってそういう場所だよな

 神の森なら尚更か。迷う危険と超常的な力を持った生物の危険

 神と崇めている生物が敵と決まったわけじゃないけど、何をしてくるか分からないから敵という想定でいていいだろう

 パレードを前に行かせる危険性はあるけど、俺が前にいて迷う危険性の方が高い

 後ろで大人しくしてよう



 



 ――――――



 「何もいませんね……」


 「そうだね……探知スキルにもかからない」


 俺たちが森で捜索して何時間も経ったが収穫はゼロ

 太陽が沈みかけている。そろそろ戻らないと本格的に遭難する

 


 「今日はやめませんか?アルーラについたばかりで……って!?」


 「どうしたの?」


 パレードが急に大声を出すのでびっくりした

 何か見つけたのかな?でも、何も見当たらないけど

 もしかして発狂した?



 「どうしたの、じゃないですよ!!宿!私たち宿見つけてないじゃないですか!?」


 「あ、……今すぐ戻ろう!!」


 一番大切なこと忘れていた。ギルドによってから宿を見つけるって言ったのに忘れてた

 俺のわがままに付き合った結果、野宿は土下座では済まされない事態だ

 今すぐアルーラに戻って宿を見つけなければ!

 俺たちは急いでアルーラに戻った(俺はパレードの後ろにピッタリついていた)



 「どこに宿があるんだろう?」


 「そこからですね……部屋が空いていればいいですけど」


 「急いだら何とかなる……はず」


 「急ぐのは前提ですよ」


 こんな会話をしている場合ではないな

 すぐ街中を探さないと



 「なんとか見つけましたけど……」


 「一部屋しか空いてなかったね。どうする?」


 「どうするも何も、泊まるしか無いですよ」


 「俺だけ外で泊まろうか?」


 「それなら私が外で泊まりますよ」


 「……それはダメだから、一緒に泊まるしかないね」


 「そうしましょう」


 街中を血眼で探してやっと見つけたが空いてる部屋は1つだけだった

 気まずい……お互い外で泊まるって言ってるし、一緒は妥協かな

 もっと少し早く来ていたら空いていたんだろう

 俺に完全に非があるから外で泊まってもいいんだけど、それをパレードが許さないからな

 仕方ない。絶対にNO事件、NO事故で終えたい(前科あるからね)



 「あ、そうだ。換金のやつ取ってくるね」


 「私も行きますよ」


 「いいよ。受け取ってくるだけだし」


 「ギルドまでの道分かりますか?」


 「…………お願いします」


 もうパレード、親だ

 俺のこと見透かされてる気がする

 道分からないし、案内お願いしよう



 「換金をお願いしていたんですが」


 「はい。もう終わっていますよ。こちらが今回の換金分です」


 「ありがとうございます」


 「またお越しください」


 ギルドにつき受付に声をかけるとトークンを渡してくれた

 3万トークン程だろうか。トークンはあって困らない

 これで用は済んだ。宿に戻ろう



 「ウッ……!! ハァハァ……」


 「ヘッカーさん、大丈夫ですか!?」


 「これくらい大丈夫だ……」


 ギルドを出ようとすると全身に傷を負った冒険者らしき男の人が入ってきた。見た目は口に髭を生やし、髪は少し白髪が混じっている。50代くらいだろうか

 受付の人がヘッカーと呼び急いで駆け寄っていった

 見るからに血だらけだし大丈夫そうではないけど

 手当てくらいしてあげようかな



 「手当てしますよ」


 「これくらいの傷、どうってことない……」


 「その傷で大丈夫ってことは無いでしょう」


 「心配するな。これくらい……ウッ……!」


 「大丈夫じゃないって言ったでしょう。少し大人しくして下さい。治癒ヒール


 モゼは負傷している男に回復魔法をかけた

 男の傷がみるみる治っていき出血も収まった

 男は自分の体が治ったことに驚き、手を開いたり閉じたりして動作確認をした



 「治った……すげぇな」


 「これくらい、なんてこと無いですよ」


 「ありがとな。これでまた戦える」


 「戦える?」


 「あぁ。俺の獲物のことだ。じゃあな」


 男はそう言うと扉を開け外に出ていった

 体が治るとあっという間に過ぎ去っていった男にモゼは唖然とした

 嘘だろ……体の傷、治ったばっかだぞ

 体力までは回復してない。休んだ方が絶対良い

 次戦ったら下手すると死ぬぞ

 それに男の人が言っていた獲物って何のことだろう

 


 「旅の方!あの、ありがとうございます!」


 「いえいえ、あれくらいどうってことないですよ」


 受付の人が深々とお辞儀をして礼を言ってくる

 大したことはしてないけど

 受付の人は男の人をヘッカーと呼んでいた。男の人について何か知っているのか

 獲物の言葉の意味を知ってるかもしれない



 「さっきの人って誰ですか?」


 「さっきの方はヘッカーさんと言って冒険者を何十年もやられてる方です」


 「そのヘッカーさんが言っていた獲物って言うのは?」


 「ヘッカーさんは冒険者になってからずっとある魔物を追ってるんです」


 「魔物?それが獲物ってことですか」


 「はい。神の森に住むベビモースという魔物のことです。ベレバンでは神と崇められている魔物です」


 「それって神退治っていう任務のことですか?」


 ベビモース、それがヘッカーという人が追っている獲物魔物のことか

 それを何十年も追っているのか。すごいな



 「はい。ですが、あの任務自体かなり前のものなので時が経つに連れて受ける人はヘッカーさんを除いてゼロになったんです。なので、情報が全く集まってこなくて。ヘッカーさんは俺の獲物だと言って情報提供に協力してくれませんし……」


 「あの写真は誰が撮ったんですか?」


 「あれは神の森に入り込んだ人がたまたま撮った写真です。でも、ブレブレで全く見えないんですけどね」


 あの写真は全体的にボケていて全く見えない

 何かが写っているような気はするのだが

 情報が全くない任務か。それはどれだけ報酬が高くても受けづらいな

 ヘッカーさんなら色々知ってるんだろう。だが話を聞く限り簡単に教えてくれそうもない



 「競争になりそうですね」


 「ベビモース退治に行くんですか?あまりにも危険です!Aランクのヘッカーさんが深手を追う相手です」


 「大丈夫ですよ。僕はAランクです。一応、推奨ランクは満たしてるので」


 「でも……」


 「危険なのは承知の上です。神退治、興味しかないですよ」


 任務を一目見たときから興味しかなかった

 競争相手がいようと関係ない

 気になったものは気が済むまで追ってやる



 「モゼさんがそう言ったらついていくしかありませんね」


 「ありがとう」


 「一人だと迷子になって彷徨うでしょうし」


 「確かに。方向音痴、治せないかな?」


 「厳しいと思いますよ。まず、ここギルドから宿に戻れなきゃ治らないと思います」


 「じゃあ治るの当分先だ」


 今の俺が歩いて宿に戻るのは迷うけど空間転移ワープがあるからいざという時は大丈夫だ

 空間転移ワープばっかに頼ってたら一生治らないよな

 でも、便利だしな。空間転移ワープを使わないは無理だ

 


 「今日のところは宿に戻って休みましょう」


 「そうだね。だいぶ疲れた」


 俺たちは受付の人に挨拶をしてギルドを出た

 ギルドの外はすでに暗くなっており、夜空には星と月が輝いていた

 街灯と空の輝きに照らされながら宿に戻った



 「疲れたぁー」


 宿に戻って来ると俺は床に寝転んだ

 この部屋にベッドは1つしかない

 俺は床で寝よう。最悪、簡易的な寝床作ればいいし

 


 「お風呂に入ってきます」


 「分かった……もうしないよ。その刺す視線やめて」


 「お願いしますよ」

 

 根に持ってる。さすがに故意にはしない

 もう疲れたな。このまま寝ようかな

 でも、床はさすがに硬すぎるな

 やっぱり寝床作ろう



 「創造クラフト寝具ベッド。これでいいや。床よりマシだ」


 モゼが魔法を唱えるとものの数秒で簡易的な寝具が構築された

 相変わらず何の素材で出来てるかは分からない

 本物のような柔らかさはないが、床に比べればぐっすり眠られる

 モゼは作った寝具にダイブして目を閉じた

 目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきてそのまま意識を失った



 「モゼさん……寝るの早すぎませんか?ベッド」


 「Zzz……」


 「ベッド、ありがとうございます。もう寝ますか……フワァ〜」


 パレードは風呂から上がり寝巻きに着替えて戻ってきた。モゼの寝ている姿を見ると反射的に言葉が出たがモゼは寝ていて何も返さない

 パレードはモゼにお礼を言うとあくびをしてベッドで横になった

 パレードが電気を消し目を閉じる。しばらくするとパレードの寝息が聞こえてきた

 二人の寝息が部屋に響く。眠りにつく二人の姿を窓からアドナイ様が見ていた

 二人の部屋は2階にあるのだが、浮遊した状態で部屋を覗いている

 アドナイ様の右肩には白い猫が乗っている

 


 「仲良さげだね。そう思うだろう?」


 「この男にどんな運命を課したんだ?」


 アドナイ様が笑顔で白猫に言う

 白猫はモゼをじっと見ながら言った

 


 「別に。彼は彼なりの人生を歩むはずさ」


 「神のくせに自由だな」


 白猫はそう言うとアドナイ様の右肩で丸くなる

 アドナイ様は白猫の頭を軽く撫でるとどこかへ消えた

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