終わりと始まり

 「ファルマンさん!!」


 俺が街を走っていると目の前にファルマンさんが立っていた

 だが、服がところどころ破れており破れたところからは血が出ている

 何があったんだ?



 「無事だったか……!!」


 「はい。ファルマンさんこそ大丈夫ですか?」


 「この程度かすり傷だ。パレードはどうした?」


 「今、この街に残ってる残党を倒して回ってるんです」


 「それなら心配ねぇ。こいつボヌスを倒したら他の構成員たちは一目散に逃げていった」


 ファルマンさんの前にはうつ伏せで倒れている屈強な男がいた

 ファルマンの話ではこいつを倒したら他の構成員は逃げ出したと

 じゃあこいつが幹部か。見るからにゴツい体つきしてるしな

 ビクトリアの亡骸を見せたら言う事を聞いたのと同じだ



 「ファルマンさんが倒したんですか?」


 「あぁ。久しぶりに戦ったが腕がなまって無くて良かったぜ」


 ファルマンさんも十分強い。幹部を倒せる実力があるのか

 それにファルマンさん活き活きしてる気がする

 


 「雨のおかげで街の火も収まった。これで終わりだ」


 「そうですね。やっとゆっくり出来そうです」


 「ありがとうな。お前たちのおかげで脅威が無くなった。感謝してもしきれない」


 「頭上げてくださいよ!それに感謝するのはこっちの方ですよ!!」


 ファルマンさんはそう言うと頭を俺に深々と下げた

 本部に乗り込む前、励ましの声をかけてくれたのはファルマンさんだ

 それに街を焼きに来た構成員たちを返り討ちにしたのもファルマンさんだ

 感謝するのはこっちの方だ



 「ファルマンさん!その傷!!早く手当しないと!」


 「パレードか。俺なら大丈夫だ。二人ともありがとうな」


 パレードが走ってこちらに向かってくる

 パレードの後ろには冒険者が何人かついてきている



 「残党がいませんでした。どこに逃げたのでしょう」


 「それならもう大丈夫だ。あいつらならファルマンさんのおかげで逃げた」


 「そうなんですか!?」


 パレードに事情を話すと納得してくれた

 パレードもファルマンさんがものすごく強いということを理解したみたいだ



 「じゃあもう終わりですね」


 パレードがそう言うと体を伸ばした

 他の冒険者たちも安堵したように息をつく


 「あぁ。終わりは終わりだが、まだやることがある」


 「やること?何ですか?」


 「街の復興だ。ルースは火なんかに負ける街じゃない。この街を元通り、いや前以上に良くしなきゃならない。みんな手伝ってくれるか?」


 「「はい!!」」


 ファルマンの言う通りだ

 戦いは終わっても街の復興が残ってる

 しばらくは街の復興に尽力しよう



 


 

 ――――――

 〜1ヶ月後〜

 


 「ある程度戻ったね。完全復興はまだ時間かかるけど」


 「そうですね。私たちが街に来た頃くらいにはなりましたね」


 俺とパレードは1ヶ月間、この街に残り復興を手伝った

 1ヶ月も経てばルースも本来の姿に戻ってきた

 だが、今の状態よりさらに良くするのでまだまだ時間はかかるだろう

 この1ヶ月の間で色々なことがあった

 まず、所持金が消えた(死活問題。)

 泊まっている宿に戻ると宿屋は跡形もなく消えており、部屋に置いていた生活費は塵になった

 ということで今の俺たちは一文無しである

 でも、ファルマンさんが俺たちを街を救った救世主だと言って宿屋をタダで貸してくれた

 そのおかげで泊まる場所はある

 さらにファルマンさんが1ヶ月間ずっと俺たちの面倒を見てくれたので食事も全ておごってもらった

 ファルマンさんには計り知れない恩が出来た。この恩は必ず返したい

 そして、ルベウス旅団・本部を壊滅させたことで国から招聘された

 招聘を無視するわけにはいかないのでそろそろこの街を立つ。次の目的地はベレバンの首都であるケントルート

 もちろん、パレードも一緒だ(パレードがいないと迷子になるし、生活できない)

 


 「おう。二人とも元気か?」


 「ファルマンさんのおかげです」


 「モゼさんの言う通りですね」


 「元気なら良かった。二人に用があってな。ギルドまで来てくれるか」


 「はい。分かりました」


 少し休憩しているとファルマンさんが来てくれたが、俺たちにそう言うとすぐに戻って行ってしまった

 ファルマンさんは今回の戦闘の事後処理や街の復興に携わっていることもありとても忙しい

 ギルド長と街の復興の指揮を同時並行でやっている。仕事面でも化け物だった

 ファルマンさんの時間を削るわけにはいかない。すぐにギルドに行って用件を済ませよう



 「すぐ行こうか」


 「そうですね。お手を煩わせるわけにはいきませんからね」


 俺とパレードは休憩していたがすぐにギルドに向かった

 休憩中だったけどファルマンさんは休憩時間が無いほど忙しい

 俺たちの恩人でもある。迷惑は絶対にかけられない


 




 ―――――― 



 「早かったな。こっちに来てくれ」


 ギルドに入り、受付で用件を話し奥にあるファルマンさんの部屋に入る

 中に入るとファルマンさんは何かの作業中だったがすぐに手を止めた

 そしてモゼとパレードを別の部屋に案内した



 「ここってギルドカードを作った……」


 「あぁ。これは俺の判断だが、お前たちなら今のDランクではなくてもっと上のランクでいいと思うんだ」


 「上のランク?」


 「そうだ。お前たちならAランクでもいいんじゃないかと思っている」


 「「A!?」」


 モゼとパレードの驚きの声が重なる

 いきなりAランク!?それはやりすぎじゃ……

 それに今回俺たちが本部に乗り込んだことでルースの人々の多くが犠牲になった

 俺たちが残っていれば被害が出ることはなかった



 「俺は辞退します」


 「どうしてだ?」


 「確かに本部は潰しましたけど、ルースに残ってれば犠牲者が出ることはなかったんです。犠牲者が出てるのに俺だけハッピーは嫌です」


 「そうか……お前の判断にケチをつけるわけではないが、お前らが本部に乗り込まなくてもあいつらは街に来ていた。だが、お前らがあの時本部を潰したおかげで今生きてる人々は安心して暮らしている。それにあの時あいつらが来るかどうかなんて誰も分からなかった。自分を責める気持ちもあるだろうが、悪いところばかりに目を向けるな」


 「……」


 俺はファルマンさんの言葉に黙り込んでしまった

 確かに今の俺は悪いところばかりフォーカスしている

 でも、あの判断で死者が出てるのは事実

 ルースに残りルベウス旅団を撃退してから本部に乗り込めばよかった



 「私は受けます。でも、Aランクは高いのでCランクにしてください。本部での戦闘で私は何もしてないですし、ほとんどやってくれたのはモゼさんですから」


 「パレード……」


 「モゼさん。あなたは自分を責めていますけど、それは全部結果じゃないですか。ファルマンさんの言う通り、ルベウス旅団がルースを焼きに来るかなんて誰も分からなかった。モゼさんは勘づいていたかもしれませんが、ルースが危ないと分かればすぐに戻ったでしょう。仕方なかった、この言葉しか無いんですよ」


 「パレードは後悔してないの?」


 「後悔はありますよ。でも、仕方のないことをいつまでも悔やんでいてはどうしようもないですから」

 

 パレードの言葉に胸の中にいる責める自分がいなくなって行く気がした

 1ヶ月の間、ずっと心にいて自分を責めていた

 でも、いつまでも下を向いているわけにはいかない

 前を向かないと。時には辛い出来事もあるだろう

 その出来事に向き合わなければ何も始まらない

 


 「俺、受けます。でも、パレードと同じでCランクにしてください」


 「モゼさんはAランクじゃないとダメですよ」


 「確かにな。モゼはAランクだな。ギルド長の俺が推薦してやる」


 「え?俺がAランク?無理だよ!」


 「無理じゃないですよ。禁断の魔法を使う人が何言ってるんですか」


 「その通りだ。モゼ、お前はAランクだ」


 これは言い逃れできない。禁断の魔法に関しては知らなかったで済まされない

 世に知られれば死刑になる

 ん?俺ってこの二人に生殺与奪を握られてる?

 この二人には絶対に逆らえない



 「よし話は決まったな。おい、起きろ」


 「何だよ……俺様がすやすや寝てたところだろうが!!」


 「知らねぇよ。冒険者のランクを変えてくれ。モゼのやつはAにパレードのやつはCにだ」


 「はいはい……わかったよ。ん?小僧、その小指」


 「これ?あー確かに同類か」


 「お前、私利私欲でそんなものを……⁉」


 「違う!!勝手についてきただけ、勘違いしないで!!」


 水晶の魔物が目を覚ますとファルマンさんから渡された俺たちのギルドカードを飲み込んだ

 そういえばイータルと同じだよな。テイムされて玉に閉じ込められたのって(今イータル指輪だけど)



 「綺麗ですね。その指輪」


 「いつ拾ったんだ?」


 「これは……」


 俺は二人に訳を話した

 すると、案の定驚かれた

 パレードに話そうと思ってたけど忘れたな



 「化け物が力を得たってわけか……」


 「化け物が怪物に……」


 「ちょっと、二人とも人を化け物呼ばわり辞めて。パレードは怪物って言うな」


 「モゼなら一番上のランク行けるかもな」


 「一番上?」


 「あぁ、冒険者のランクはD、C、B、A、S、SS、とある。努力があればAまでは行ける。だが、Sからは話が変わる。このランクは努力はもちろん、ポテンシャルも必要になる。だから、S・SSの冒険者の数はとても少ないだが、今のモゼならポテンシャルは十分にある。あとは努力すればSSも夢じゃないかもしれん」

 

 「俺が……ですか?」

 

 「モゼならきっと行けるだろう」


 俺は自分のことをそこそこ強いとは思っている(アドナイ様から直々に力もらってるからね)

 SやSSって人間を辞めた生物が集まってる場所じゃないのか?

 そんなところに行けるのか?神の力とは言え、まだ完全に使いこなせるわけじゃない

 でも、無理と決まったわけじゃない。目指すのはありかもしれないな

 旅に目標は多くあった方が充実感はあるはずだ



 「モゼさんなら絶対いけますよ!」


 「目指してみるのはありかもしれない。俺目指してみるよ」


 「冒険者ランクS以上を目指すならギルド本部でしか受けられない、特別任務を達成する必要がある」


 「特別任務?」


 「あぁ。S以上の冒険者の中には国お抱えの冒険者になった者もいる。それほどの強さ、影響ということだ。それゆえに厳正な審査をしなければならない。そこで生まれたのが特別任務だ。任務の内容は俺も分からないが、相当難しいって噂だ。それをクリアして晴れてSランクになれる」


 「相当難しい……」


 「大丈夫だろう。存在がタブーなお前なら」


 「その言い方は傷つきますよ」


 「冗談だ。だが、その力間違った方向には使うなよ」


 「大丈夫ですよ(きっとね)」


 Sランクになるには手間と労力が必要なのは分かった

 Sを目指すならギルドの本部に行かなければ話にならないな

 次の目的地はケントルートだからまだ先にはなるだろう



 「出来たぞ。ほら」


 「よし、これで新しいステージに立ったぞ。おめでとう」


 水晶が俺たちのギルドカードを吐き出しファルマンさんに渡す

 ファルマンさんが間違いがないかを確認してから俺たちに渡した

 もらったギルドカードのDがAに変わっている

 パレードもDからCに変わっているはずだ

 


 「モゼさん、やりましたね!」


 「うん。良かったね!」


 パレードが笑顔で言ってくるので俺も精一杯の笑顔で返した

 頑張った成果だな。自分を褒めてあげれたらいいな

 アドナイ様、順調です

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