壊滅、ルベウス旅団

 「火焔フランマ


 「風刃ヴァーミナ

 

 ビクトリアが魔法を唱えると火炎が紅玉から発射される

 モゼからは風の刃が無数に現れ、火炎に向かって飛んでいく

 風が火炎を切り裂き、風力で火を消した



 「2属性持ち、いやそれ以上か。厄介だ」


 「厄介どころじゃないよ。味わえば分かる」


 「味わうつもりはない。業火の渦カルマ・ボルテックス


 「魔力が……⁉」


 ビクトリアが魔法を唱えると紅玉から禍々しい火炎の渦がモゼに向かっていく

 モゼは魔法を唱えようとするが魔力が集まらず唱えることが出来ない

 間一髪で火炎の渦を避けるが、魔力が枯渇した今のモゼに反撃手段はない

 今の状況に危機感を覚えたモゼの額から冷や汗が流れる



 「力斬パワースラッシュ!」


 「威力はあるが、スピードがお粗末だ。そんな攻撃が当たるとでも思っているのか?」


 パレードがビクトリアの背後から剣を斬りつけるが、ビクトリアは軽い身のこなしで攻撃を避ける

 ビクトリアは持っている杖を薙ぎ払いパレードをふっとばした。パレードは剣でガードしていたが、その上から吹き飛ばす威力だ



 「重い……!!(魔法だけでなく体術も強い!!)」


 「モゼさん、大丈夫ですか?」


 「……魔力がない。使いすぎたみたいだ」


 「それじゃあ、モゼさんは休んでて下さい。私が戦います」


 「無茶だよ!あいつは色んな面でヤバい!死ぬ気!?」


 「ここに来た時点で覚悟は決まってます。死ぬのは覚悟の上で乗り込んで来てるんです」


 「……!!」


 パレードの顔と言葉に何も言えなかった

 ビクトリアに向かっていくパレードの背中を見ることしか出来なかった

 俺はなんで何も出来ない?なんで魔力がここで枯渇する?

 このままパレードに全てを任せるのは危険すぎる

 どうにかして魔力さえ戻れば……



 「お前一人でやる気か?」


 「あなたなんて私一人で十分です」


 「威勢の良い女だな。覚悟は称賛に値する」


 「あなたなんかに褒められても嬉しくないです」


 「最後まで威勢が良かったと記憶に刻んでおこう」


 パレードは剣を構え、鋭い眼差しをビクトリアに向ける

 ビクトリアは口角の端を吊り上げ声を出さずに笑う

 


 「強化魔法・体術フィジカル一斬アン・スラッシュ!」


 「……!(早い!身体能力を強化したのか!)」


 パレードが地面を蹴り、加速してビクトリアに斬りかかる

 地面を蹴った際地面が割れて亀裂が入り、離れたところにいるモゼのところまで広がっている

 ビクトリアはパレードの速さに驚いたものの杖で攻撃を完璧に防いでいた。杖と剣がぶつかった際、キンという甲高い音が響いた

 杖と剣は互いの力が拮抗し中々動かずにいたが、ビクトリアが杖で薙ぎ払い剣とパレードを再び吹き飛ばした

 パレードは壁にぶつかり、衝撃で身動きが取れない


 

 「紅蓮の砲火ルベウスフレア


 ビクトリアの杖に魔力が集まっていき、紅玉から炎がキャノンのように発射される

 身動きの取れないパレードは自身に迫ってくる炎をただ見るしかなかった

 パレードは目を瞑り自身の運命を悟った



 「水壁アクアウォール


 モゼがパレードと炎の間に割って入り魔法を唱える

 炎は水の壁に遮られ二人に当たることはなかった

 パレードはゆっくり目を開けると目の前にモゼが立っていることに驚く



 「モゼさん!?」


 「大丈夫?」


 「私は大丈夫ですが、モゼさんこそ魔力が尽きたと言っていたじゃないですか!?」


 「それなら大丈夫。魔力は戻った」

 

 パレードが死闘を目の前で繰り広げている中、俺は魔力を回復させる方法を考えていた

 普通、魔力は時間経過で回復するもの。アイテムなどで回復することも出来る

 だが、今の俺に魔力を回復させるアイテムはない。自然回復を待つ時間もない

 ならどうするか?それを考えていた。そして1つの結論を導き出した

 それは魔力を。俺が持っているのは魔法の力じゃない、神の力だ

 神の力は自由自在。使用者が望めばどんなものには姿・形を変える

 そこで魔力を作れるかとやってみたところいけた。(体に負担はあった)

 正直キツイかなーと思ってあまり期待はしていなかったが、流石はアドナイ様が直々にくれた力だ

 てな訳で今の俺の魔力はビクトリアと戦う前よりも多い



 「お前……!魔力が無くなったはずでは!?」


 「残念、俺の力はちょっと特殊でね」


 「チッ!厄介だ」


 ビクトリアは戦う前よりもピンピンしているモゼに内心腹が立っていた

 顔はフードで隠れて全部見えないけど、それでもかなり驚いてるな

 魔力切れを補う方法なんてほとんどないからな

 


 「選手交代。パレードはゆっくり休んでて」


 「私も……」


 「ここは俺に任せて。パレードはもう十分戦った」


 「分かりました。気を付けて下さい」


 パレードは早足で戦場を離れた。パレードの分も頑張らなきゃな

 俺は正面に向き直りビクトリアと対峙する



 「面倒な連中だ!業火の月カルマ・ルナ!」


 「水星の力メルピュウス!」


 ビクトリアの杖の紅玉から禍々しい炎が球体型に集まり、炎の玉がモゼに向かって発射される

 モゼの手に水が渦を巻いて集まり、やがて球体へと姿を変える。モゼの手から発射された水の玉は炎の玉に一直線に向かっていく

 水の玉と炎の玉がぶつかり蒸発するような音を発生させながら2つは共に消えた

 これまでも十分魔力は使ってるはずだ。そろそろ尽きる頃だろ



 「クソっ……!!鬱陶しい!何故倒れない!」


 ビクトリアは自分の魔力が無くなってきている焦りから怒りが爆発しフードを取った

 露わになった顔は左目は黒だが右目がルビーのように赤い



 「それはこっちのセリフだ。いつまでも馬鹿威力の魔法唱えやがって」


 「小僧に言われる筋合いはない!」


 あいつ相当焦ってるな。目が泳いでる

 自暴自棄になってめちゃくちゃなことしないといいが。そんなことを考える前に倒さないとな

 俺は意識を集中させリミットを解除する。この全能感が溢れる感覚がリミットを解除出来た合図だ

 

 

 「……!そう来たか、ならばこちらも終わらせるとしよう!地獄の業火カルマ・ゲヘナ!!」


 「雷撃轟電トネラティオ!!」


 ビクトリアの杖の紅玉に禍々しい炎が吸収されていく。紅玉の輝きが赤から赤黒くなる

 赤黒い紅玉から業火が凝縮されて発射される

 モゼの手の平に構築された魔法陣に電気が集まりビリビリと音を立てている

 モゼは集まった電気を発射する。発射された電気は雷に変わり、ゴロゴロと音を立てて空気を切り裂く

 業火と雷が激しい音を立ててぶつかり青い光が散る

 


 「ウ”ァぁぁぁぁ!!!!!!」


 雷が業火を打ち破りビクトリアに直撃する

 ビクトリアは雷の衝撃に絶叫しながら地面に伏した

 赤かったフードも雷に当たり真っ黒に変わっている



 「モゼさん!!大丈夫ですか?」


 「うん……ちょっと足がふらつくけど、大丈夫だよ」


 「良かった……」


 パレードは戦闘が終わり足元がおぼつかないモゼの元に急いで駆け寄る

 モゼが倒れないよう背中を支える



 「早く、ルースに戻ろう」


 「少し休んでからでも」


 「今すぐじゃないと間に合わない」


 パレードはモゼを支えながら建物の外に出る

 今日一日でモゼの体への負担はとてつもない

 体が重い……でも早く戻らないと

 街が焼けてしまう



 「さぁ、乗って」


 「はい」


 モゼは碧龍へきりゅうを呼び出すと背中に座る

 パレードもモゼの後を追って背中に座る

 碧龍へきりゅうのスピードならまだ間に合うはず

 最悪のことは考えたくないが、もし俺たちが間に合わなくてもファルマンたちがどうにかしてくれると信じるしかない

 


 「しっかり掴まって」


 「いやぁぁ!!」


 碧龍へきりゅうが勢いよく空に飛び立ったためパレードは思わず悲鳴を上げた

 ちょっとスピード出しすぎたか?でも、これくらいしないと間に合わないから我慢して

 やっぱりパレードって高所苦手なんだな


 


 


 ――――――

 〜ルース〜


 

 「うわぁぁ!!」


 夜遅いルースの街中で誰かの悲鳴が聞こえた

 その悲鳴はギルド前で聞こえ、悲鳴を聞いたファルマンが確認しに外へ出る

 外ではルベウス旅団の構成員が人々に暴行していた

 さらに家に火を放っている者もおり、場は混乱していた



 「おいおい……なんだこれ」


 「ギルド長!!」


 場が混沌している中、冒険者たちがギルドへ続々と到着する

 ファルマンは状況が飲み込めていないながらも人々をルース外へ逃がすように指示を飛ばした

 ルースに軍の拠点はない。この状況で頼りになるのは冒険者たちしかいない



 「家を出るんだ!早く!」


 ファルマンも冒険者たちと同じように家に残っている者をルース外へ逃がしていた

 家から赤ん坊を抱えた女性が出てきて、冒険者たちに守られながらルース外へ向かっていく

 ファルマンは誰彼構わず被害を出すルベウス旅団に怒りが湧いてくる

 


 「クソ!なんてことしやがる!」


 「おっさん。止まれよ」


 ファルマンが声をかけられ後ろを振り返るとモゼにコテンパンにされた男二人がいた

 振り返ったファルマンの顔は怒りに満ちていた

 


 「何の用だ?俺はお前らの相手をしてる程暇じゃねぇ」


 「そう怒んなよ。おっさんにやられたわけじゃないが、俺たちもやられっぱなしでムカついてんだ。てな訳で相手してくれよ」


 ファルマンは無視しようと思ったが無視しても街に火をつけるだろうと思い男二人と対峙する

 ファルマンはあとのことは他の冒険者に任せることにした



 「おい」


 「は?なんだてめ……ガハッ!!」


 男の一人が後ろから声をかけられ振り向くと目の前に立っていたファルマン並に屈強な男が立っていた

 屈強な男は魔法(火の糸フレアネット)で声をかけた男の胸を貫いた

 胸を貫かれた男は血を大量に噴き出し、動かなくなった



 「ボヌト様……」


 「報告が遅いぞ」


 「申し訳ございません。不手際で……グハッ!!」


 「お前らがしくじったせいで総動員で街を焼かないといけなくなっちまった。責任取れよ」


 「は……い、ア“ァァァ!!」


 屈強な男は下っ端からボヌス様と呼ばれた

 ボヌスは怯えきっている男に近づき、胴に拳を入れる

 殴られた衝撃で下っ端はこらえきれず唾を吐いた

 その後、同じように火の糸で胸を貫かれ絶叫しながら息絶えた



 「仲間を殺すのか?」


 「仲間でも責任は取ってもらわないとな」


 「責任にも取り方があんだろう。死ぬことが償いになるわけじゃない」


 「こいつらは死に値するミスをした。それだけだ」


 「クソ野郎が……!!お前みたいな仲間を平気で殺すやつには怒りが湧いてくる」


 「やる気か?フン……いいだろう。そこら辺の冒険者より骨がありそうだ」


 ファルマンは着ている上着を脱ぐと戦闘体勢に入る

 ボヌスもファルマン同様に戦闘体勢に入り、不敵に笑った

 周りが火で燃えて、二人のいる場所が炎のリングのようになる

 建物の柱が焼け落ち、地面にぶつかった音がゴングとなり二人は戦闘を開始した

 

 

 モゼとパレードが本部でビクトリアと戦っている最中のルースのお話

 モゼの想定していた最悪なケースになってしまっているが、これを止める術はルースにいる冒険者たち

 彼らはルースを守ることが出来るのか

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