国際テロ組織・ルベウス旅団

 俺たちが戻ると先程慌ただしかったギルド内が少し落ち着いているように感じる

 ファルマンさんを探しているとアナウンスが流れ始めた



 「ギルド長のファルマンだ。冒険者は至急、ホールに集まってくれ」


 ファルマンさんの声でアナウンスされていた。本人だろう

 冒険者はホールに集まれ、か。ホールはギルドの中心にある広い空間のこと

 ホールには演説をするような教壇が置かれている



 「ホールっていうとここですよね?ここで待ちましょうか」


 「そうだね。ここで待ってればファルマンさんも現れるだろうし」


 俺たちはファルマンさんが現れるまでホールで待機していた

 待っている間に冒険者たちが続々と戻ってきて、その度にアナウンスが流れた

 ホールには大勢の冒険者が待機しておりファルマンさんが来るのを今か今かと待っている



 「待たせてすまない」


 定期的に流れていたアナウンスが止み、しばらくするとファルマンさんが壇上に現れた

 ファルマンさんが現れるとザワザワしていたホールが静かになり呼吸音ですら止んだように感じた



 「重要な任務を任せたいと思い、集まってもらった」


 いつになく真剣な表情と真剣な声でファルマンさんが喋るため背筋が自然と伸びる

 重要という言葉が出てきた瞬間、この場にいる冒険者たちが一斉に空気を吸っているのを感じる

 緊張感が半端ではない



 「任務というのは国際テロ組織に認定されている、ルベウス旅団の本部壊滅だ。君たちではなく、他のギルドや軍も一緒に参加する。総動員して行われる戦闘だというのを認識してもらいたい」


 ルベウス旅団、名前は聞いたことがある。新聞などでたまに見かけた

 国際テロ組織の本部壊滅。壊滅できればテロ組織に甚大な影響が出るだろう。だが本部を潰したからといって完全に消える訳では無い。残党が壊滅後も活動を続けることはあるかもしれない

 でも、残党の活動などちりにしかならない

 成功しようが失敗しようが、どのみち大きな賭けであることに変わりはない



 「そのことを承知の上で参加してもらいたい。尚、この参加は強制ではない。参加しないという決断も素晴らしいと思う。自分の命は自分で守らなければいけないからな」


 冒険者にはランクがあったはずだ。上の階級にいるものを呼べばいいと思ったのだが、それでも戦力が足りないのだろう。だからランク関係なく冒険者全体に声がかかっている

 


 「命の危険は当然ある。自分たちでよく考えてくれ。ちなみだが今回の火事の犯人はルベウス旅団によるものだと推測される。昨日の夜、ルベウス旅団の構成員が森から出てくるのを確認している」


 ファルマンさんの発言で場がザワつく。火をつけた犯人が重大な任務の目標だったら思うところはあるだろう

 放火の犯人俺じゃなくて良かった……

 この場で「こいつが犯人だ!」とか言われたら血祭りにあげられるよ



 「改めて言う、自分たちでよく考えろ。放火犯がルベウス旅団で思うことはあるだろう。だが、感情で行動するな。今の自分の感情に振り回されるな。よく考えてくれ、頼む」


 ファルマンさんが頭を下げたためザワついていた場が静まり返る

 言葉の端々からファルマンさんが冒険者たちを危険な目に遭わせたくないというのを感じる

 この人の存在はこのギルドにおいて大きいだろう

 


 「俺からは以上だ。参加したいものは受付でその旨を伝えてくれ。参加の締切は明後日の17時までだ。では、各々解散してくれ」


 ファルマンさんがそう言うと冒険者たちは各々解散したが、受付に行くものは誰一人もいなかった

 ファルマンさんの思いが伝わったのだろう

 俺たちは壇上で冒険者たちが解散するのを見守っていたファルマンさんの元へ向かった



 「お前たちか。さっきはありがとうな」


 「いえいえ、とんでもないです。収まりそうで良かったです」


 「そういえばギルドカード渡してなかったな。受付で待っててくれるか」


 「はい。分かりました」


 ファルマンさんの表情は近くで見て分かったが、苦悩に満ちた表情をしていた

 冒険者のことを第一に考えているんだと感じる

 俺たちはファルマンさんに言われた通り、受付でギルドカードをもらうため待っていた



 「待たせてしまったな。すまない」


 ファルマンさんが受付の奥から出てきてギルドカードを手渡してくれた

 ギルドカードには俺の名前と俺の写真が記載されていた

 そして、右上には大きく「D」と刻まれている



 「このDって言うのはランクですか?」


 「そうだ。冒険者は全員、最初はDからスタートするんだ。お前たちなら例外的にもう少し上でも良かったんだが……ルールなんでな。すまないが我慢してくれ。お前たちならもっとを上を目指せるはずだ」


 「ありがとうございます」

 

 「さっきの件、お前たちもよく考えてくれ。期限は今日じゃない。焦らずゆっくり考えろ」


 ファルマンさんの言葉に重みがあった

 この街に来たばかりの俺たちにもこんな言葉を投げかけてくれる

 この人の器の大きさが分かる



 「はい。そうさせてもらいます」


 「私もゆっくり考えます」


 「ああ。そうしてくれ。俺はこれからやらなきゃいけねぇことがあるから、じゃあな。今日は朝からで疲れただろう、ゆっくり休め」


 ファルマンさんはそう言うと受付の奥に消えていった

 あの人もギルド長で事後処理など色々あるだろう

 俺たちはファルマンさんがいなくなった後ギルドを出た



 「どうしましょうか?あの件のこともありますけど」


 「それを今考える必要はないよ。ファルマンさんもそう言ってたじゃん。今はこの街を巡ってみようよ」


 「そうですね。難しいことを考える前に休憩も兼ねて街をめぐりましょう」


 朝から緊急任務で大変ではあったが、そこまで疲れてるわけじゃない

 パレードも言った通り、休憩を兼ねて街を巡るとしよう

 この街に来てまだ1日くらいしか経ってないからこの街のことは全く分からない

 ルースのことを色々知りたい



 


 ――――――



 ルースを見て回っているといつの間にか太陽が沈みかかっていた

 かなりの時間が経ったみたいだ。ルースのほとんどは回れた

 昼ごはんには港で取れた新鮮な魚介を食べたりして最高だった

 そろそろ宿に戻ってもいいか

 

 

 「結構回ったよね?」


 「ですね。でも、まだまだ見て回れていないところがありますよ」


 「あるけど……ほとんど裏道じゃん」


 「危険そうですよね」


 俺たちは裏道を避けて回っていた

 表通りは人がたくさんいるのに裏道には誰もいない。人の気配すらない

 裏道には何もなさそうだということで避けていた

 もう太陽が沈みかかっていて、辺りは少し暗くなっている

 街灯が設置されていない裏道に行くのは危ない気がする



 「辞めとこう。もうじき暗くなる」


 「じゃあ戻りましょうか」


 

 パチパチ!!

 

 

 「「!!」」


 宿に戻ろうと裏道に背を向けると裏道から小さく破裂音がした

 パレードも音に気づいており、警戒を高める

 誰かいるのか?自然に出る音ではない


 

 「様子を見てみよう」


 「はい」


 慎重に裏道へ入り音のした方へ向かう

 裏道を進んだところで赤色のフードに身を包んだ二人組を見つけた

 フードの背中側には奇妙な紋章が刻まれている



 「何をしている?」


 「チッ……」


 「話しあう気はないと……」


 二人組に声をかけると舌打ちして戦闘体勢をとってきた

 顔をのほとんどをフードで覆っていて全く素顔は見えない

 話し合う気はないのか。無駄に時間稼ぎされるよりもいい



 「やるしかないみたいだ」


 「そうみたいですね。私も手伝います」


 パレードも剣を抜き戦闘体勢に入る

 あいつらがどう動くか。ここは裏道とはいえ建物もある

 派手にやれば建物を破壊してしまうかもしれない



 「火の糸フレアネット


 「水壁アクアウォール


 二人組の一人が俺に向かって火魔法を放ってきた

 火が糸のように伸びてくるが、水魔法で対処した

 基本的には火魔法は水魔法で相殺出来る



 「碧の追跡アクアチェイサー


 「クソっ!!」


 この魔法は硬化した水玉が当たるか消滅するまで目標ターゲットを追跡する

 男は避けても避けても追ってくる水玉に苛立っているようだ

 市街地で戦闘をするのは加減が分からなくて難しい。どのくらいの力加減でやれば相手にダメージが与えられるんだ

 


 「紅蓮の砲火ルベウスフレア!!」


 男が水玉に追いかけられながら反撃の一手を打ってきた

 これは火魔法の中でも威力の高い魔法。習得には時間がかかるはずだ

 こいつ相当の手練か。となるともう片方も手練の可能性が高い

 パレード一人ではきついだろう。さっさとこいつを片付けないと



 「水星の光メルクルス


 右の人差し指に魔力を集中させる

 火炎が当たる直前で極限まで溜めた力を発射する

 凝縮した水が光線となり火炎を切り裂く。火炎をどんどん切り裂いていき、男の右腕を貫いた

 光線が腕を貫いた瞬間血が噴き出し、地面や建物に血が付着した

 男はうめき声をあげて右腕を抑えた。憎しみのこもった顔で俺のことを見てくる



 「邪魔だ‼」


 右腕が使いものにならなくなっても水玉は男のことを追い続ける

 男は水玉をすべて処理し、前を向くがそこにモゼの姿はなかった



 「プレゼントだ。発散する風パルス


 「ウア“ァァァ!!」


 モゼが男の背中に触れると唐突に衝撃が男を襲い、無防備だった男は白目を向き、口と鼻から血を噴き出しながら地面に横たわり痙攣した

 やりすぎたか。死んじゃうかもしれない

 こいつらが超悪で無い限り、俺の行動殺人未遂に該当する

 ただのガラの悪い兄ちゃんなわけないよね……?

 


 「超力パワーパウンド!」


 「ウグッッ!!」


 「やるぅ。あれヤバそう……」


 パレードの方に目を向けると男に強烈な一撃をお見舞いしていた

 あんなの喰らったらただじゃすまないだろうな



 「何!?クソッ‼」


 「煙!?ゴホッゴホッ」


 「疾風ゲイル。大丈夫?」


 「はい……あれ、いない?」


 「消えたか」


 もう一人はやられた男をみて懐から煙幕を取り出し地面に叩きつけた

 辺りが煙で充満したため風魔法で煙を吹き飛ばしたが、煙が晴れた頃には男はいなかった

 一人捕まえたんだし、こいつから色々事情を聞けば良い



 「モゼさん、やりすぎじゃ……多分死んでますよ」


 「大丈夫でしょ。おい、起きろ」


 「…………」


 「これ本格的にやばいやつ?」


 「見れば分かりますよ……」



 やっぱやりすぎてたか。心臓の音はかすかに聞こえる

 死んでるわけじゃないけど、ほっとけば死ぬな

 仕方ない、ここは回復魔法で意識は戻してやろう



 「治癒ヒール


 「ウッ、ゴホッ」


 「起きたか?」


 「貴様!?よくも‼」


 「待った。さっきより酷い目に遭いたい?」


 「うっ……」


 「じゃあ何をしてたのか、何をするつもりだったのか、お前は誰なのか。教えてもらおうか」


 意識を戻した男が反撃してこようとしたが軽く脅すと引っ込んだ

 死にたくはないよな。死にかけたなら尚更だ

 男から話を聞いていくと、ここで火を起こしてルースを焼き払うと共に民衆が混乱している間に貴重品などをかっさらう作戦を立てていたらしい

 また男はルベウス旅団の構成員だと言った。ルベウス旅団の活動が活発になっている証拠だ。早く潰さなければ大きな被害が出てしまう可能性がある



 「お前はとりあえずギルドに連れて行く。仲間の行方は?」


 「本部にこの事を報告しに行ってるはずだ。本部に伝われば応援が来てこの街は更地になる」


 「めんどくせぇな」


 「お前たちは喧嘩を売る相手を間違えたんだ」


 「ちょっと静かにしてろ」


 俺は男にアッパーを食らわせた。男は一発でKOして意識を失った

 ペラペラとよく喋るやつだ。少し寝てもらおう


 

 「パレードはこいつをギルドまで運んで」


 「モゼさんはどうされるんですか?」


 「逃げたやつを追う。そいつ頼んだよ」


 「分かりました!」


 逃げたやつを追うといってもどこにいるか分からなければ意味がない

 男から話を聞いている間にそこそこ時間が経ってしまった

 この街にはもういないか。となるとルースを少し出たところ辺りにいる可能性が高い

 ルベウス旅団の本部に伝わると厄介だ。作戦は失敗しているのだからいずれは伝わるだろうが、少しでも遅らせられるならそうする

 この街に来てまだ二日目なのにとんでもないことに巻き込まれてる。でも、放って置くわけにはいかない

 アドナイ様、波乱万丈な冒険人生を歩んでます

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