架空都市
ボウガ
第1話
全てはアンドロイドのバグが始まりだった。裕福な家庭の運転手だったアンドロイドがバグをおこし、事故をおこした。その家の両親は死に、たった一人の少年がのこった、遺産はのこされたものの、子供だった生き残りの少年は親戚にだまされほとんどをとられてしまった。
少年は昔から、創作をすることだけが救いだった、特に小説が一番のお気に入りで、ありもしない世界をつくり、自分の居場所をつくった。母に起られたとき、父と喧嘩をしたとき、そして、二人がなくなったあと。
少年はやがて青年となる、ふさぎがちな青春を作った青年だったが高校生のころに、書き溜めていた小説がヒットした。一躍有名作家に。だがその後は順風満帆とはいかず、なんとかやりくりして食いつなぐ日々が続く。
大人になった青年は、別の理由でふさぎ込んでいた、友人と恋人に裏切られ、せっかく自分の手でかせいだ成果をかすめ取られ、逃げられた、人間不信だ。そのせいでスランプに陥り、トラウマを抱えた。同時に巻き起こっていた問題が、AIなどによる創作だった。人の様に労力を使わずとも簡単に創作物が作れる。その国の政府は何も対策をしなかった。
「僕にできる、唯一のこと……」
それからまた比嘉達、彼は、逃げ場を失い、精神病院に通いながらなんとか安い給料の仕事を転々としていた。創作を逃げ場とする事もできず息苦しい日々が続く、そこで彼は、母が残した言葉を思い出した。
「あなたにできる唯一の事を考えなさい、そうすればあなたは、あなたにとっても世界にとってもいいアイデアを思いつくはずだから」
彼は、自分のヒット作の中、それもあまり有名でないものの中から一つのアイデアをだし、ある計画をたてた。
「AIの存在しない楽園をつくろう、そこで皆でくらそう」
クラウドファンディングを募集する、見出しだけ見た人間は敬遠するだろう、夢ような話ができるはずが、詐欺ではないかと、だが実際は違った。彼の選んだ小説、そして彼が実現しようとしていることは“AIやアンドロイドのいない世界”の実現なのだから。彼の思惑では簡単だった。彼のヒット作を並べ、ネームバリューを生かしたのだ。
そう、この“AIやアンドロイドなどの発達した機械の存在しない世界”はメタバースの中に作られた。楽園は、ディストピアの中に存在したのだった。彼はそのクラウドファンディングを成功させ、メタバース上に楽園をつくり、彼が管理者となった、彼はのメタバースは人気となり、彼は自分の経験をいかし、幾人もの人間関係をつないだそうだ。いわく
「誰もが心の中に架空世界をもっており、完成された創作世界をもっている、それを共有できる架空世界、設定、誰もがルールを守る世界ではその人の本当の姿が現れる、そこでの出会いは本物だ」
だそうだ。彼は“名作”というべきいくつものストーリーをその中で生み出したが、その世界の中でしか価値を認められなかった。だがそれこそが彼が求めたことだったのだ。富によって人間関係が左右されない、本当の創作がそこにあった。
架空都市 ボウガ @yumieimaru
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