05.チュートリアル・エンド
Episode.22 「創神の隠れ家」に行くのが今回の私の目標になります。
「あ、あのドーネルさん」
「どうかしましたか?」
マギドールの起動時にちょっと事件がありましたが。
終わりよければ全て良しです。
今はそれより普段は「無限回廊」に籠ってて滅多に出会えないレアキャラのドーネルさんがいることの方が重大です。
どうしてもドーネルさんに頼まないといけない案件があるのですから。
「え、えーっとですね……」
とはいえ。
ドーネルさんとはフレンド登録しましたし、「無限回廊」に一緒に行ってボスと戦ったりもしましたけど。
普段は別行動をしていますし、さほど仲良くしてたわけでもありません。
そういう相手に特にお返しもできない頼み事やお願い事をするというのも心苦しいというか気おくれしてしまうものです。
特にドーネルさんは「無限回廊」の攻略をかなり真剣にやっていますからね。
それ以外の事に手を煩わせるのはどうなんでしょうか。
「あー、頼み事とかなら何でもOKですよ。『無限回廊』ばっかりだと飽きますし」
どう切り出したものがうんうん悩んでいたらドーネルさんの方から言い出されてしまいました。
「……よく頼み事がしたいってわかりましたね……?」
「いやあ、僕も経験あるんで……頼み事したいけど、相手の都合が悪かったらどうしようかなあって悩むの」
ああ、やっぱりそう言うのってあるあるですよね。
でもドーネルさんの方からそう言ってもらえると、ちょっと気が楽になりました。
「じゃあ、その、お願いしてもいいでしょうか?」
「はい。喜んで」
それでドーネルさんにわざわざ頼みたいことと言うのは。
「ちょっと危険な場所に行きたいのでドーネルさんに護衛をお願いしたく」
「危険な場所……『無限回廊』ですか?」
「いえ。ダンジョンですけど……確か名前は『隠都へと至る道』ですね」
そう。
私のゲーム開始地点からラズウルスさんと一緒に通って来たダンジョン。
あそこを逆走してゲーム最初のセーフエリア「創神の隠れ家」に行くのが今回の私の目標になります。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「無限回廊」110階層のボスを討伐したドーネルさんの種族レベルは現在113まで上がっています。私が出会った時は104レベルでしたから、この高レベルでこのレベルアップのスピードってどれだけ「Dawn of a New Era」やり込んでいるんですかドーネルさん。
それと比較して私が通って来たダンジョン「隠都へと至る道」に出てくるモンスターのレベルは一部を除けば95~105レベル。
レベルが今のドーネルさんより低いラズウルスさんでも問題なく突破できていましたし、当時は本当に何もできない足手まといだった私も今ならレベルと技能でそこそこには立ち回れるでしょう。
これなら楽に突破できますね。
……と、思っていたのですが。
「ようやくたどり着けましたけど……何でこんなに苦戦したんでしょうね」
『ほんまやなぁ』
「あんたのせいでしょうが」
誤算その1。
ちょっとでも経験に……と思って連れ歩いてたオルカがそこらの敵にちょっかいを出して手痛い反撃を受けました。
オルカの中身は元はグレーターオルカ。
ここにいる敵とは同種族でレベルは132です。
過去の記憶からすると格下なのですよね、この辺の敵は。
しかし現在のレベルは65。
この辺の敵ははっきり言って格上も格上です。
ここで出現するモンスター相手に過去の記憶に従って舐めた態度を取るとどうなるでしょうか。
答えは手を出すからの反撃で死にかけるというコンボでした。
「まあまあ。それでも何とか目的地まではたどり着けたわけですから」
『そりゃ、あんたのやらかしはそれで全滅したもんな』
「うぐっ」
誤算その2。
ドーネルさんが戦わなくてもいい、むしろ戦いを避けたい相手の敵を引き付けてしまいなし崩し的に戦闘になってしまったこと。
ドーネルさん、強敵を見ると「とりあえず挑んでみよう」が癖になっているみたいなんですよね。
それと【鑑定】の取り扱い。
私は不用意に【鑑定】を使って痛い目を見たので使うのは慎重になるのですが。
ドーネルさんはそういう経験がなかったのか、ほいほい敵に【鑑定】を使ってしまい襲われる、と言うことが何度かありました。
いやあ、普通の敵ならいいんですけどね。
レベル124のドライアドシードラゴンは何とか逃げ切れました。
【鑑定】を使うのもまずいと言われてレベルも不明のアポストルオブドラゴンパレス、あれは駄目でした。
群れが一斉に襲い掛かって来た時は即オルカを仕舞って退避させました。
私は死んでもいいですけれど、オルカのパーツは死んではいけない。
「それについては反省しています……まさか【鑑定】するだけで襲ってくるとは思わず。いや、前もそういう敵はいたけど僕1人だったから気にしてなかったのかな?」
「エスコートしてもらってる立場なのでドーネルさんにはそんなに言うつもりはないですけど……ところで何でオルカと会話できてるんですか?」
『《自動発声言語翻訳装置》てつけてるからちゃうん?』
そう言えばステータス画面を見た時にそんなものがついてましたね。
中身は《都市防衛用マギドールT型》をまんま流用してますので、おそらく《都市防衛用マギドールT型》自体に備え付けられていたのでしょう。
ドーネルさんの侵入に対して現れて出現しましたから侵入者に対して相手が理解できる言葉で呼びかけるためについているのかもしれませんね。
ちなみにこの装置を切り替えずに会話することも可能で、この場合はオルカの言葉は同種族でない限りは私しか聞き取ることはできなくなります。
『それより、中に入らへんの? うちら何でこんな所に立ってるん?』
今、私たちがいる場所は「創神の隠れ家」の入口。
私がゲームを始めてピラニアに襲われて駆け込んだあの入口ですね。
「レベル上げです」
『レベル上げ? あいつらが相手やとレベル低くない?』
目の前にいるのは通路を飛び交う小魚、モンスター名「ピラニアパーティ」。
モンスターレベルは70。
ここでは最弱のモンスターですしドーネルさんを交えて戦うにはちょっとレベルが低すぎます。
「いいんですよ。レベル上げするのは貴女の『砲撃術』なんですから」
『え? ええ? えええ!?』
「貴女にはマナキャノンを2門装備させてますけど、貴女の砲撃術が全くレベルが上がっていないせいでまだ戦力として不十分なんですよ」
武装としてオルカにはマナキャノンを2門装備しています。
これは尾の部分に砲塔を外付けする形で設置し、そこから砲撃できるようになっています。
このマナキャノンを主な武器として遠距離から砲撃でダメージを与える戦い方をしよう……と思ったのですが。
その砲撃がとても下手くそでした。
静止目標相手に試射させてみたのですがかなり命中率が悪いのです。
ま、しょうがないですね。
体勢として尾の部分にある砲塔から上手く狙いをつけて砲撃するのは難しいです。
それに何より、生前と戦い方がまったく違うせいで技能を引き継いでおらず一から覚えていかないといけませんので。
「というわけで、あれだけ飛び交っていれば狙うのにちょうどいいですし、数撃てば当たるでしょう。こっちに向かって来たら私で何とかしますのでゴーゴー!」
「僕も手伝いましょうか?」
「砲撃が命中したらピラニアがこっち来るはずです。レべル70なんで私でも対処できますけど、危なそうなら手を出してください。面倒なら中で待ってもらうか、逆側の道にちょっとお強いのがいるのでそっちでレベリングしてもらったら」
「了解」
◇◆◇◆◇◆◇◆
たまに砲撃が命中するとオルカの方にピラニアが向かってきます。
レベル70なので種族レベル比較で私も格下。技能レベルで見ても圧倒的格下。
つまり私でも余裕をもって倒せるわけです。
ただ、問題としては。
あまりに命中率が悪くて見てるだけの時間が長くて暇な所ですね。
「暇ですね」
「そうですね」
「ドーネルさんはレベリング行かなくていいんですか?」
「《Ae-フラワールナリオン》でしたっけ? 割と相手するの面倒でしたのであれなら『無限回廊』でレベル上げる方が楽ですね」
ドーネルさんも隣に座って観戦中。
パーティを組んでいると種族レベルに対して入る経験点はレベル比率で割り振られるためレベルアップは見込めない状況ではあります。
『しゃーないやろ! 当たらへんねんから!』
「そのための練習ですからね」
『そもそも、こんな武器やのうて噛みついたり体当たりする攻撃方法の方がええんとちゃうの? それやったらうちも慣れてるし技能だってあるやん』
文句言いながらもばんばん砲撃しています。
本人のMPを消費して撃つ武器ですので弾数を気にしなくていいのは良いですね。
ステータスを確認すると【砲撃術】のレベルは4から始まって現在9レベル。
上昇が速いですが技能レベルは自分より格上を倒して簡単にレベルアップ……とはいきませんね。
「貴女にはそっちの戦い方の方が合ってると思ってますけど、違いますか?」
『何でよ。技能レベルで言ったらこんなんまったく初めてで一からやり直しやん?』
「いや、だって。貴女、戦うの苦手ですよね?」
あの「隠都へと至る道」の最後の部屋で対峙して戦った感想として。
この子、多分戦うの苦手なんだな。
というのが、私の印象でした。
罠を用意して不意打ちしたり、理詰めで私を追い詰めようとしたり狡猾で慎重な立ち回りをしていたように見えますが。
慎重であることと臆病であることは紙一重です。
そもそも、オルカにとって私たちは格下です。
圧倒的レベル差をもって蹂躙しようとすれば少なくとも私は簡単に敗北していたでしょう。
ま、私はそのことに助けられた、とも言えますけどね。
私もそうではないのでわかります。
オルカの性質は、ラズウルスさんのような「戦士」ではない。
「だから、直接殴り合う近接戦闘より、こうやって遠距離から一方的に攻撃できる方が性に合ってると思いましたけど……違いましたか?」
臆病とも言える慎重さと戦術を考えて実行できる頭の良さ。
これらは体をぶつけあって死線をくぐる近接戦闘よりも後方から攻撃しつつ戦況を見て立ち回れる遠距離戦闘に才がある。
と、考えたわけです。
幸いにもエコーロケーションのような高性能な感覚器官や抜群の運動性能など「敵を近づけずに一方的に遠距離攻撃で封殺する」性能は備えてますしね。
『……せやなあ。悔しいけどハクの言う通りやわ』
「ん。じゃあ頑張って練習しましょうか」
才能があっても努力が足りてませんからね、現状。
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